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俺のクラスには浮いた奴がいた。

宮田司郎っていって、何だか冷たい目をした奴だ。


中学生活ってヤツは何事にも集団行動だ。けれどその集団に入れない奴は必ずいる。

宮田司郎はその“入れない奴”の一人だが、他の入れない奴とは全く違う。


望んでないのだ。宮田は集団に入ることを望まない。気を利かせて話しかけたクラスメイトに冷ややかな視線を向け、手短に引き取ってもらう分には、クラスメイトを鬱陶しいとさえ思っている。

一匹狼だとかクールで素敵だとか影できゃいきゃい騒ぐ女子たちはいるものの、俺は正直宮田が苦手だ。おそらく、騒いでない奴等の大体は宮田が苦手だ。それか、無関心。



こりゃ完璧な社会不適合者だな、とか思ったりもする。まぁ宮田の家は医院を営んでいるし、宮田自身頭も良い。将来生きて行く分には困る事など何一つないだろう。

ある意味将来が約束されている宮田に対し、俺は憐みや何やらの感情はない。苦手だが、ほぼ無関心に近い。関わらなきゃ、どうってことない存在なのだ。俺にとっての宮田とは。


そんな俺なのに、担任はとある任を俺に言い渡した。




『宮田と仲良くしてやって欲しい』




担任としては、クラスで浮いている宮田を見過ごせなかったのだろう。

宮田が望んで一人になったとしてもそうじゃなかったにしても、他人が見ればこのクラスで虐めが起こっているのではと疑われてしまうような状況。結局のところ、担任は自らのために俺に宮田を託したのだ。無責任も無責任な話だが、担任に直接頼まれてしまったとあっては俺は断ることは出来なかった。


俺は所謂クラスのムードメーカーで、一匹狼には程遠い。一人になるぐらいなら自分から集団に飛び込んでいくタイプで、それを考えると俺と宮田は正反対だ。



何で俺が・・・と思いつつも、俺はすぐに行動に移した。

授業でペアを組む時はすぐに宮田のところへ行ったし、時間が許す範囲で宮田に構い倒した。


結果、宮田は俺の事を『名前』と呼ぶようになったし、会話だってするようになった。おそらく他のクラスメイト達から見て俺と宮田は完全に友達同士だろう。

これで完璧。担任も満足することだろう。




正直なところ俺は宮田といるよりも他の奴等といる方が楽しかったし、友達同士に見えるならまぁそれでも良いかと思う程度の友達関係だ。

酷いと思われても仕方ないが、とやかく言われる筋合いはない。所詮、友人関係なんてそんなもんだ。


結果的に担任は満足そうにしていたし、宮田と仲良くしたからといって俺がクラスの奴等から爪弾きにされることはなかった。ムードメーカーの立ち位置は変わらない。

たまに「大変だよなぁ、お前も」と労わりの言葉を貰う分には、たぶんクラスの奴等は分かってたんだと思う。



それから中学を卒業して、村から一番近い高校に入学。運が悪いことに宮田もその高校で、俺は仕方なく高校でも宮田の世話をしてやった。


流石にそれ以降は違う道。俺は家の農業を継ぐために高卒終わりだったが、宮田は医者になるために医大へ進学。これで解放されると思ったが・・・




ヤツは村に帰ってきて早々、事ある事に俺に構ってきやがった。




いい加減いい歳した男同士じゃ可笑しいだろってぐらいに、構ってくる。


往診帰りにはほぼ毎回俺がいる畑までやって来て、作業する俺の傍に腰かけてくる。ヤツはお喋りな方じゃないため、大体が黙って俺を眺めるだけ眺めて帰る。

少ない休みの日には絶対俺の家に来るし、生まれてこの方身体は丈夫なのだが極々稀に農作業で怪我をした時は他の患者よりも確実に厳重な処置を受けさせられるし・・・



今だって、畑の草むしりをする俺の後ろには段ボールを椅子代わりにしている宮田がいる。

ただ黙って見つめられるだけでも落ち着かないが、今日は俺を見詰めては何かを考え込む様にしていて更に落ち着かない。




「何してるんだ?」

耐え切れなくなって草をむしる手を止めて尋ねれば、宮田は「あぁ・・・」と声を漏らす。






「お前を殺すのに一番良い方法を考えてた」






ぞっとした。

え?何それ怖いんですけど。何言っちゃってんのこの子、頭逝っちゃってるの?って思うぐらいにはぞっとした。


笑顔のまま硬直する俺を宮田はじっと見つめている。

にこりともせず、無表情のままじっとだ。


それが何を意味しているのかはわからないが、きっと俺にとって良くないことであるのは確かだ。





「名前」

「・・・何かな、宮田」


段ボールからゆっくりと腰を上げた宮田がこちらに近付いてくる。

そして泥に塗れた俺の手を迷うことなく握ってきた。あまりに突然の事で、俺は唖然とするしかない。






「ずっと一緒にいよう」






がしりと握られた手を咄嗟に振り払おうとした。しかし宮田の手の力は思った以上に強くって、びくともしなかった。

宮田の顔に笑みが浮かぶ。滅多に笑わない宮田が笑ったが、全然嬉しくない。だってその笑顔は、得物を捕えた肉食動物のようなにたりとした笑みだったから。



「ずっと、一緒にいよう。なぁ?名前」

「・・・・・・」


どうやら俺は、随分序盤の方で選択を間違えていたらしい。



下手にコイツと関わるんじゃなかった。

握りしめられた手に、俺は心底後悔した。






タイムマシンをください






担任からの頼みを聞いた、あの日の俺に言いたい。

ソイツはとんだモンスターだから近付くな。命が惜しいなら。



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