記憶の中の彼は、何時だって温かな陽だまりの中にいた。
「慶、おいで」
手を広げて笑う彼が、私は大好きだった。
その人は義父の弟で、優しい義父より更に優しい人だった。
何時も穏やかに笑っていて、村人にも好かれていた。
優しく僕の頭を撫でてくれる手は、大きくて暖かかった。
今でも覚えているんです。あの人のこと。
あの人が消えたのは、義父が死んだ後。
葬儀にこなかったあの人。
義父を失った悲しみで、私はあの人に会いたくて会いたくてたまらなかった。
けれどあの人は、それ以降・・・私の目の前に姿を現してはくれなかったんです。
それはとても悲しいことでした。
八尾さんに聞いても、他の人に聞いても、あの人の所在はわからぬまま・・・
あの人に沢山話したいことがあったんです。
私、求導師になったんです。
でも、村の人たちからの期待が重くて辛いんです。
儀式が怖いんです。
義父のように失敗してしまわないか、怖いんです。
本当は・・・あの人に助けて欲しかった。
儀式は失敗してしまった。義父のように。
村は異界に飲まれ、村人たちももう駄目なんです・・・
あの人も知っているかもしれないけど、私には弟がいるんです。
私はその弟に・・・殺されてしまいました。
ぐちゃぐちゃになった身体じゃ、何処にもいけないんです。
路上にぽつんっと置き去りにされた私に気付いてくれる人なんていません。
寂しいのと、ほんの少しの安心感。
あぁ・・・もう私は、村人の期待という重圧を感じなくて済むのか、と。
後はただ・・・あの人に会いたいと、そう願うんです。
ねぇ・・・貴方は、何処へ消えてしまったんですか?
ジャリッ
・・・?
誰でしょう。
こちらに近づいてくる足音が聴こえます。
私は無い目で、そちらに視線を向けて・・・――驚いた。
だって・・・
あぁ、だって・・・!
「慶、おいで」
あぁ・・・
『名前、さん』
もうない口で、あの人の名前を呼ぶ。
名前さんは、あの頃と変わらない笑みを浮かべ、そこに立っていた。
あぁ、なんだ・・・
こんなところにいたんですか。
『名前さん・・・』
ない手を伸ばせば、名前さんは笑って私を抱き上げてくれる。
あの頃のように、あの頃と変わらぬままに・・・
「行こうか、慶」
はい、名前さん。
私は満たされるのを感じながら、ない顔で笑った。
もう無い五体で貴方を探す
名前さんは兄の失敗を償うために生贄として死んじゃってたという文中じゃよくわかんない設定をぶつけてみる。←