神様は不公平です。
私は“女”です。
誰が何と言おうとも、私は自分を“女”だと認識しています。
けれど神様は私に・・・“男の身体”をお与えになりました。
幼い頃は、クリスマスと誕生日が嫌いでした。
だって、サンタさんも両親も、私の欲しいものをわかってくれないんです。
何時も、男の子の玩具を与えてくるんです。
男の子のお洋服も嫌いです。
けれど、それを着ないと両親が怒るので、仕方なく男の子の洋服を着ていました。
本当は、女の子の可愛いふわふわした洋服を着たかったのに。
・・・両親はそんな私を一族の恥さらしとまで言います。
だから、私は・・・外では“私”を封印して“俺”になりました。
そうすれば、両親は喜んでくれました。周りも「名前君は格好良いね」などと褒めてくれました。
けど・・・全然嬉しくなかったです。
私はきっと、心の病気なんです。
だから、病院の先生に相談しました。
気持ち悪がられてしまうかもしれないと思ったけど、誰かに相談せずにはいられませんでした。
先生は私の話を一通り聞いて、そして言いました。
『名前さんは、ありのままの名前さんで良いと思いますよ』
それは、もしかすると私を適当にあしらう言葉だったのかもしれません。
本当は私のことを気持ち悪いと思って、さっさと会話を終わらせるための言葉だったのかもしれません。
『話なら、何時でも聞きますよ。またいらしてください』
それでも・・・私は、先生・・・宮田先生が――大好きになりました。
外だけど、先生の前では“俺”ではなく“私”でいられました。
先生はそんな私を拒絶することなく、ただただ話を聞いてくれます。何週間もすれば、私の話に時折笑ってくれるようにまでなりました。
嬉しくて嬉しくて・・・天にも昇るような気持ちでした。
先生の前では“俺”でいなくて良いんだ。“私”でいられるんだ。
そう実感するたびに、私の中の宮田先生の存在は大きくなりました。
十二月、クリスマスには苦い思い出しかないと話をすれば、先生は私にプレゼントをくれました。
可愛い可愛い、ずっと憧れてた、本当に可愛らしいペンダント。
そのペンダントは、普段の“俺”が着ている男の子の服の下にちゃんと隠れてくれるもので、今でも大切につけています。
私はお礼に、ケーキを作りました。甘さを少し控えたそのケーキを食べてくれた先生は「美味しいです」と、ほんの少し笑ってくれました。
幸福でした。先生が、何よりも誰よりも愛おしくなっていました。
・・・きっと、私は人生の全ての幸せを、此処で使い切ってしまったんでしょうね。
その数ヵ月後、先生は・・・美奈さんという同僚の女性と付き合い始めました。
周りからしてみれば、それは“普通”だったのでしょうが、私はとても悲しかったです。
それでも、先生が幸せなら・・・と、先生への気持ちの整理もつかぬまま、先生と美奈さんを応援することにしました。
変わらずに私の話を聞いてくれる先生。嬉しいのに、ほんの少し悲しかったです。
美奈さんが先生を幸せにしてくれる。
男の身体をしている私じゃ、先生を幸せになんて出来ない。
もとより、先生にその気なんてないんだから。
綺麗で優しい美奈さんが、きっと先生を幸せに――
「・・・・・・」
それは叶いませんでした。
美奈さんは、先生を悲しませました。怒らせました。
先生を悲しませた挙句に、美奈さんは先生の手で殺されて、土に埋められました。
偶然だったんです。それを私は見てしまいました。
私の存在に気付いた先生は、きっと私も殺すんだと思っていました。
けど、先生は私を殺しませんでした。
『俺を軽蔑するか?』
そう問いかけてくる先生は、とても悲しそうな目をしていました。
私は小さく笑いました。
「・・・私を軽蔑しないでくれた優しい先生を、何故私は軽蔑しなければならないんですか?」
無表情なのに、今にでも泣きそうな目をしている先生に手を伸ばしました。
「私は、先生を軽蔑なんてしません。先生がどんな人でも、私は受け入れます。たとえ、本当は先生が私のことを気持ち悪いと思っているかもしれないとしても、私は先生を嫌いにはなりません。可愛いペンダントを初めてプレゼントしてくれて、私の作ったケーキを美味しいと食べてくれた先生を、私は愛おしく思います。私は・・・先生が大好きです」
“俺”じゃなくて“私”の話を聞いてくれた先生が、大好きなんです。
それを言った瞬間、先生は・・・
ほんの少し、笑ってくれました。
その次の瞬間に意識を失い、気付けば先生と一緒に異変に巻き込まれた私は・・・
「先生を守るためなら、“私”は“俺”にだってなれますから」
「・・・名前さんは、“私”のままで良いんですよ」
そう言ってくれる先生が、私はやっぱり大好きなんです。
「・・・先生、大好きです」
“私”は笑います。
先生も、少し笑ってくれました。
周りには、沢山の屍人。
囲まれてるんです。
今まで先生が守ってくれていましたが・・・
これはきっと運命なんです。
私の身体が“男の子”なのは――
「今度は“俺”が、先生を守ってやるから」
ニッと笑って先生の頭をくしゃくしゃと撫でる俺は、少し前に立ち寄った小屋で見つけた鉈を構える。
「“俺”も“私”も、本気で先生を愛してるよ」
「・・・あぁ。有難う」
先生が笑ってくれるなら、“俺”は何だってしてやるんだ。
「“俺”、今初めて男の身体でよかったと思う。女の子の身体じゃ、先生は守れないから」
先生が笑っていられるために・・・
“私”は“俺”になって戦います。
宮田先生・・・
「愛してる。――司郎」
「・・・愛してる。・・・名前」
鉈を持っていないほうの手で彼の手を握った。
握り返された手に・・・
“俺”は、
口元に笑みを浮かべながら、無言で鉈を振った。
きっと病気
“俺”の時は強気。
“私”の時はほんわか。
・・・これでも攻めと言い張る。←