×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -






僕の両親は、村の秘密にしていたことがある。




まずは母さんの秘密から。


母さんは神代の分家で、もしも本家で今の“美弥子様”が生めなければ、母さんが“美弥子様”を生む予定だった。


もちろん、分家である母さんが生むなんて予定は、ほぼ無いに等しい。


本家の奥方は健康そのものだったし、心配なんてほとんどなかった。けど100%ではないから、分家の母さんはその保険。





そんな母さんはずっと秘密にしていた。





自分が――不妊症だったことを。


都会の病院で発覚したんだ。

これがバレてしまえば、自分の立場が危うい。



ただでさえ、分家ということで立場は低いのに、スペアにさえなれないと発覚すれば、もっと立場が悪くなることは明らか。


だから母さんは不妊症を隠したまま、同じ分家の父さんと結婚した。



これが母さんの秘密。





次は父さんの秘密。


父さんは、母さんを愛してはいなかった。

そもそも父さんと母さんは愛し合ってはいなかった。


お互いの立場を守るために、話し合った結果、夫婦になることにしたのだ。



形だけの夫婦だったが、二人は友人としてはとても仲が良かったと思う。


父さんに好きな人が出来たら、母さんは笑顔で応援していた。母さんに好きな人が出来ても、また然り。



これが父さんの秘密。






まぁ、この二つの秘密は、本当に小さなものだ。


二人の最大の秘密は・・・







この僕だ。







形だけの結婚生活は、それなりにうまくいっていた二人だったが、一つだけ気がかりがあった。

母さんが不妊症で、子をなせない。


結婚して何時まで経っても子供が出来ないんじゃ、そのうち親戚に不振がられる。



夫婦仲が悪いのではと思われるだけならまだ良い。けれどもし、自分が不妊症だとバレたら・・・





悩んだ母さんに、父さんが提案したんだ。






『村に内緒で、養子を取ろう。しばらく二人で都会に働きに行って、そこで出来たんだということにすれば、きっと大丈夫さ』


二人は都会に働きに行った。



すぐに孤児院で子供を探した。

けど、女の子はやめておいたらしい。


もしも分家である自分の子供が“花嫁”か何かに選ばれてしまったら、きっと嘘がすぐにバレる。




子供は生まれたが、男の子だった。ということにすれば、まだ救いはある。


二人は、とある孤児院で一人の赤ん坊を養子に取ることにした。





それが・・・――僕。



両親は何年か都会で過ごし、村に帰った。




そして大きな嘘をついた。


僕は正真正銘の羽生田村の血を引く人間だって。






僕は本当は、この村にとっては多大なるイレギュラーだった。


この村の住人でもないことを僕が知ったのは、母さんが病気で死ぬ間際。





涙を流しながら僕に謝る母さんを、僕は悪いとは思わない。


父さんが僕の肩を抱き、僕とともに母さんの最期を見守った。






父さんに全てを聞いて、まるで誰かが父さんに罰を下すかのように、その数年後には父さんも事故で死んでしまった。



二人は自分たちの秘密を墓に持って行けた。幸せ者だ。


けれど僕は・・・






今もこうやって、秘密を抱えて生きてる。







基本、こういう閉鎖された村というのは、余所者を受け入れないんだ。

しかも神代の分家である僕が余所者だということがバレれば、ちょっとした話題になってしまう。


下手をすれば、この村にいられなくなる。それは非常に困るんだ。



まだ学生の僕が、神代の支援を失ってしまえば、どうなる?考えるだけでぞっとする。

だからこそ、僕は今まで秘密を守り通してきたんだ。



両親から引き継がれた、嘘の塊である秘密を。








「・・・けどまぁ、その秘密も・・・今となっては意味がない、か」


真っ赤な雨が降りしきる光景を見て、僕は小さく舌打ちをした。



両親が僕を養子として迎え入れた数年後に生まれた美耶子様、そして求導師様の二人がやらかしてくれたらしい。

右手に持っているのは家の納屋にあった鉈。


神代の分家だからか、母さんも父さんも、僕にいろいろなことを教えてくれた。



それこそ、知っているのがバレたら危なさそうな情報まで。


けどまぁ、活用する機会がこうやってめぐってきたんだ。両親に感謝。




僕は鉈をふるって屍人をなぎ倒す。

おそらく、此処から生きて出られる可能性はほぼ無い。


しかし、ただ死ぬというのも癪だし、いろいろ頑張ろうと思う。


さぁて、後何人の屍人を薙ぎ倒せば良いのやら――






「ひぃっ!?」


「・・・ん?」



聞きなれた声がして、僕は足を止めた。

少し離れた場所、屍人が何かを襲おうとしている。


その“何か”が何なのかわかった瞬間、僕はサッと動いた。





ザシュッ


屍人を何のためらいもなく切り裂く。


するとその“何か”は「ひぃぃいっ」と悲鳴を上げた。

僕は大きなため息を吐いて・・・






「僕ですよ、求導師様」


「ひっ・・・ぁ、ぇ?名前、君?」




「はい」


鉈についた血を振り払ってから、その場で腰を抜かしている求導師様に手を差し出す。



恐る恐る僕の手を取る求導師様を立ち上がらせ「無事だったんですね」と声をかけた。




「は、はい。名前君も無事で良かった・・・」

求導師様には、村がこんなになる前少し・・・いや、結構お世話になった。


両親を亡くした僕は一時的に教会に引き取られ、求導師様や求導女様と共に暮らしたことがある。

その間、求導師様は何かと僕の世話を焼いて・・・いや、逆に抜けてる求導師様を僕がサポートしてる形だった気もする。




「け、怪我とかしてない?」

「はい。・・・というか、求導師様が無傷なのも不思議なんですけどね、僕は」


「え?は、はは・・・そうだね」



まぁ、この人悪運強そうだし・・・





「じゃ、さようなら」

「えぇ!?」


「・・・何ですか?」



くるっと背を向けた僕に「い、行っちゃうの!?」という求導師様に、僕はまたため息を吐く。






「逆に、何で行っちゃいけないんですか?」


「ま、周りは危ないよ。だ、だから一緒に・・・」



すがるような眼をされても困るものは困る。






「僕は貴方まで守ってる余裕ないんですけど」


というかぶっちゃけ足手まといは確実。

求導師様を守りながら屍人を殺す?無理ではないとしてもそれは非常に面倒な話だ。



「め、迷惑はかけませんっ、だから・・・」

ポツポツッと振っている雨が頬を打つ。


あぁ、この赤い雨はきっと悪いものだ。

神代の血が流れていれば、分家でも屍人にならずに済んだだろうけど、生憎僕はそんな血は一滴たりとも入っていない。



それは求導師様とて同じこと。


お互い、これ以上この赤い雨に当たり続けることはよくない。



しかし・・・この村から逃れる方法はあるのだろうか。

あぁ・・・きっと、ない。





「求導師様、僕と心中する覚悟はありますか?」


「えぇっ!?」




「僕が力尽きて死んだとき、貴方は逃げずに僕と共に死んでくれますか?」


僕が死を迎えるその直前にでも、真実をぶちまけてしまおうか・・・なんて、そんなことを考えてしまう。





自分たちの秘密はしっかり墓場まで持って行けた父母。

けれど僕は生憎墓場には行けそうにない。


だったらこの目の前の聖職者にでもぶちまけてしまおう。



それこそ、濁った汚らしい水のような下世話な噺から何から何まで。





「それは・・・ずっと傍に居て欲しいってことですか?」

「・・・・・・」


まぁ、そうなるのかもしれない。


もしかすると僕は一人が嫌だったのかもしれない。

たった一人で秘密を持ち続けるのが、嫌だったのかもしれない。



共犯者が欲しかったんだ。

同じ秘密を持って、傷をなめ合える共犯者が。






「・・・心中なんてっ、考えたくはありませんが、傍にいることならできますっ」


臆病なくせに、そういって胸を張った求導師様に、僕はハァッとため息を吐いた。




「・・・行きましょう」

「ぇっ!?つ、連れて行ってくれるんですか!?」




「呑気な求導師様みてたら悩んでるのが馬鹿らしくなりました。さっさと行きましょう」

「ひ、酷いですよぉっ!」


「煩いですよ、求導師様」




半泣きになりながらも求導師様が付いてきているのを確認して、僕は前方斜め前の屍人に向かってナタをフルスイングした。





抱え込んだ秘密




最期は貴方の傍で・・・。



戻る