「人間は実に馬鹿な生き物だ」
“神様”はニンマリと・・・それこそ、“悪魔”のような笑みを浮かべながら言うのだ。
神様が歩く。
真っ赤な真っ赤な水を、その綺麗なおみ足で踏みつけながら、足を赤で汚しながら、歩く。
神様は笑う。
周りに散らばる人間の血肉。地獄絵図。それを見ながら、笑う。
「ぁ、なたは・・・一体・・・」
そんな神様を呆然と見詰めながら、やっとの思いで言葉を出した人間へ、神様は嗤った。
「あなたは一体?クッ、ハハハハハハハハハハッ!!!!!!!!!」
高らかに、不気味に笑った神様は、ガクガクッと震えている人間――牧野をジッと見据える。
「俺は貴様等人間が救いを求めて求めてやまない神様だ!!!!!!!見て分からないか?あぁ、そうか!!!!!貴様等人間は、俺に綺麗な幻想を抱いていた様子だからなぁ!!!!!!!」
「か、み・・・様?」
「そう!!!!!まぁ・・・・・・この村の奴等に花嫁という名の生贄を要求したのは、俺ではないがなぁ」
クククッと嗤った神様は、牧野の顎をガシッと掴むと、神様のその恐ろしいほど綺麗な顔を笑みで歪ませて見せる。
「神様は複数いる!!!!!!人がそれは神様だと認識すれば、それはもう既に神様!!!!!!!!!」
怒鳴るような、けれど嗤うような、そんな声の神様の声。
「アハハハハハハハハハッ!!!!!!!!!!実に人間は馬鹿で馬鹿で救いようがないなぁ!!!!!!屍人が溢れ帰り、生者は神様請う!!!!!!『おぉ、神よ!どうか、可哀相な私達を救ってください!!!!!』・・・
・・・――馬鹿じゃねぇの?」
ゾクリッとするような神様の無表情。
牧野の顔が、恐怖で蒼白になった。
「俺はもう、何千年も前に、手前等人間に見切りを付けてんだよ。今更助けを請うても、俺は助けてやらねぇ。けど、他の悪趣味な神様が助けてくれるかもなぁ?まぁ、そうそういないだろうけどな。そんな神様は」
クククッ・・・
神様が意地悪く嗤い、牧野の耳元で「ざまぁーみろ」と囁いた。
ガクガクッと震える牧野の身体を優しさの欠片も感じないほど荒く抱き寄せ、神様は愉しそうにいうのだ。
「どうだ?自分達の信じてきた神様は、お前達を助けはしない!!!!!!!!非力な人間よ!俺は実に愉しい!!!!!!馬鹿な人間共がお互いに壊しあう光景は、実に愉快だ!!!!!!!」
狂っているような言葉を吐いた神様は、牧野の恐怖で歪んだ顔を見て、薄っすら微笑んだ。
「馬鹿な人間だ。けど・・・馬鹿な子ほど可愛いと言うだろう?俺は、馬鹿は馬鹿なりに馬鹿らしく生きている人間が大好きだ。それこそ、愛してやまない」
「神、さ・・・ま・・・」
「クククッ・・・あぁ、馬鹿な人間よ!!!!!!!愛して止まない馬鹿な人間・・・あぁ、愛しい」
ゆるりと、牧野の頭を優しく撫でる神様。
牧野はその唐突な優しい手つきに怯えを緩める。
神様はニンマリと嗤うのだ。
「俺に救いを求めるか?馬鹿で可愛い人間よ」
「・・・――」
牧野はポロッと涙を流しながら・・・
・・・――
「ん・・・」
パチッと目を開けた牧野。
ゆっくりと起き上がって辺りを見れば、寝室のベッドに寝ていたらしい。
「ぁれ・・・此処は・・・」
(嗚呼そうだ・・・
此処は家。私の家
私の借りてる、マンションの一室)
ガチャッ
「慶。起きたか?」
「ぁ・・・・・・――名前さん」
(そうだ。
彼はこのマンションで一緒に暮らしている名前さん。
高校からの知り合いで、それで・・・)
「ぁれ・・・」
「どうしたの?慶」
(そうだ、そうだ。
私は学生時代からずっと名前さんと一緒に過ごしてて・・・
あれ・・・?)
「ぁの・・・変な夢を見ました」
「夢?」
「は、ぃ。私が、真っ黒な服を来た、求導師で、それで・・・変な村で、死んだ人が襲ってくる・・・」
ガタガタッと震える牧野に、名前はにっこりと笑った。
「そんなの・・・夢でしかないだろう?もぅ、慶は馬鹿だなぁ」
「す、すみませんっ」
ギュゥッと牧野を抱き締めた名前は、牧野から見えないところでニンマリと笑った。
「ぁ、あの・・・ぇっと、名前さん」
「なぁに?」
「私は・・・今まで、何を・・・」
「馬鹿だなぁ、慶。お前は、ずっと前から俺とこのマンションで二人っきりで暮らしてるだろ?何を今更」
「そ、そうでしたね。ごめんなさい・・・」
申し訳無さそうに笑った牧野に「良いよ、別に」と名前は笑った。
「あぁ、そうだ。朝食用意してくるから、身形整えてから来いよ」
「ぁ、はい」
こくっと返事をする牧野からそっと離れ、名前は寝室を出て行った。
「クッ、ククッ・・・ハハハッ!!!!!・・・実に馬鹿な生き物だ。けど・・・感謝して欲しいものだ。嘘が入り混じりようとも、俺が“平和”を与えてやったのだからなぁ」
実に愉快そうに呟いた名前・・・いやいや・・・――神様は、ニンマリと笑いながら「さぁて、人間の料理でも作ってみるか」と愉しげにキッチンへと歩いていった。
救いなど無し
(全てが神様の思うがまま)