村で小さな駄菓子屋を営んでいる男がいた。
男は村でも評判の好青年。
村のお年寄りからも人気で、彼の元には駄菓子を求める子供だけでなく、村中の人間が足を運んでいた。
「おい名前。菓子をよこせ」
「おやおや、淳様。昨日持って行かれたお菓子は、もう食べ終わってしまわれたのですか?」
駄菓子屋を営む男、名前は突然店にずかずかと入ってきた淳に笑みを向けた。
「そうだ。だから、さっさと寄越せ!」
「はいはい。かしこまりました」
名前は適当なお菓子をいくつか袋に詰めて、淳に渡した。
「いくらだ」
「250円です」
「ん」
ポケットから取り出したお金を受け取り「何時も有難う」と笑う。
「淳様は甘いもの好きなんですね」
「別にそんなんじゃない」
淳の返事に名前は「じゃぁ何故?」と首をかしげた。
その質問に、淳はピクッと肩を震わせる。
「べっ、別に・・・ぁっ・・・そ、そうだ!その・・・亜矢子とかに買ってやってるんだ!別にお前に毎日会うために買いに来てるんじゃないんだからな!」
しどろもどろな淳は、最終的に怒鳴る様に名前に言った。
きょとんとした表情になった名前に「も、もう帰る!」と淳は背を向けた。
「あ、淳様」
「なんだ!」
「お菓子、また買いに来てくださいね?」
にこっと微笑む名前。
「・・・ぼ、僕に指図するな!・・・言わなくても来るっ」
軽く下を向き、小さな声でそういった淳は、まるで逃げるように走って行ってしまった。
その背を見送った名前は、
「今日も淳様は元気だなぁ」
そう言って緩く笑っていた。
駄菓子屋の彼
「あら。また淳が買ってきたの?」
美耶子の手にあるお菓子を見て、亜矢子は呆れたような声を上げた。
「あぁ。アイツ、毎日毎日菓子を買ってくる。自分が食べきれないからって、私の部屋に全部おいていくんだ」
「そうなの。・・・私も一つ貰おうかしら」
むすっとした表情の美耶子からお菓子を一つ受け取り、亜矢子はそれを口に放った。
「まったく。こんな回りくどいことするぐらいなら、さっさと想いを告げれば良いものを」
「あら。何のこと?」
「亜矢子には秘密だ」
金平糖を一つ口に入れた美耶子が、ふっと口角を上げる。
「何よ。言いなさいよ」
「ケルブ、逃げるぞ」
「わんっ!」
ケルブと共に逃げる美耶子。
「ちょっ!待ちなさい!」
屋敷の中に、亜矢子の大きな声が響き渡った。