自衛隊に入って先輩が出来て、何時しか後輩も出来た。
今まで沢山の模擬と実践を繰り返し、俺は何時の間にか後輩に『名字先輩』などと言われるようにまでなった。
後輩は可愛い。先輩のことも尊敬してる。
中でも特に尊敬している人は・・・
三沢三佐、その人だ。
後輩の永井は三佐のことをあまりよく思っていないらしいが、俺はこの人を一番に尊敬してる。
「薬を・・・」
「はい、どうぞ」
「水です」
「・・・あぁ、すまない」
彼が薬を飲むようになったのは、二年前だ。
あの、羽生蛇から帰ってきて以降。
あそこで何があったのかは話してくれないが、三沢さんの薬の飲む量は尋常ではない。
だから俺は、三沢さんに薬の管理を任せて欲しいと申し出た。その日から、俺のポケットには三沢さんの薬が入っていて、ペットボトルに水も常備している。
・・・飲み過ぎで三沢さんがどうにかなってしまったら・・・そう思うとぞっとするんだ。
尊敬する・・・ぃや、何よりも大好きな三沢さんの身に何かあったら、俺はきっと泣くどころではないだろう。
薬は俺と三沢さんで話し合った時間帯と、どうしても必要な時。
俺だって三沢さんの苦しむ姿なんて見たくないから・・・ついつい甘やかしてしまう部分もある。
本当は、薬の管理なんて、三沢さんと一緒に行動する口実に過ぎないのかもしれない。それでも俺は・・・
「今度の物資輸送訓練、永井にとっても最後の訓練になりますよね」
「あぁ。そうだったな・・・」
「永井も、この訓練でもう少し大人になってくれたら良いんですけどねぇ」
くすくすっと笑いながら言うと、三沢さんの「まぁ、そうだな」という短い返事が返ってくる。
「何の問題もなく終われば良いんですけどねぇ。一応ヘリも使うし、細心の注意は必要ですよね」
「あまり心配することもないだろう」
「いや、心配事はヘリのことだけじゃないんですけどね。ほら、三沢さんと永井を少しでも仲良くできないかなぁーって」
「余計なお世話だ」
「またまたぁー。三沢さんだって、本当は永井のこと心配なんでしょう?危なっかしいし、あの子」
「・・・・・・」
「無言は肯定と捕えますね」
ハハッと笑ってペットボトルの水を飲む。
あ、間接キスだ。と冗談っぽく笑えば、三沢さんに軽く頭を叩かれた。
・・・三沢さんと、こうやって他愛のない会話をするのが好きだ。
俺の言葉で、少しでも良いから三沢さんが元気になってくれると良い。
何時か、薬なんかいらなくなるように・・・
「名字」
「はい、何ですか?」
「次の訓練では、俺の補佐を頼む」
「言われなくても、全力で補佐しますよ」
最初からそのつもりだったけど、三沢さんの口から言ってもらえると、たまらなく嬉しい。
「俺のだぁーい好きな三沢さんからのお願いですもんねぇ。本気で頑張ります」
「ふっ・・・相変わらず馬鹿な発言をよくする」
グリグリッと俺の頭に手をやる三沢さん。
撫でるにしては強すぎる。
「いてて。三沢さん、ちょっと力強いかも」
「強くしてるんだ、馬鹿」
軽く悪者っぽい笑みを浮かべて俺の頭をぐりぐりし続ける三沢さんに、俺は「勘弁してくださいよぉー」と苦笑した。
まぁ、内心は・・・
三沢さんとこんなに平和でいられるなんて、と喜んでいた。
薬管理係