「クッ、ハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!!!!!!!」
僕はその肉塊を見て笑った。
実に愉快だ。
こんな肉塊では、普段のような笑みなど浮かべられないだろう。
狂ったように笑いながら、僕はその肉塊の目の前にしゃがみ込む。
「牧野さん・・・」
肉塊の“名前”を呼ぶ。
何のためらいも無くその肉塊を抱き寄せるように触れれば、僕はゆっくりと息を吐いた。
「こんな肉塊じゃ、僕を道連れにすることすら出来ないよ。牧野さん」
死ぬなら貴方の手で死にたかったのに、貴方にはその手がない。
僕を見取ってくれるような目すらない貴方は、今僕が見えていますか?
僕の言葉を聞いてくれるような耳すらない貴方は、今僕の声を聞いていますか?
「ハッ、ハハッ・・・ハハハハハハハハハハハハハハッ・・・!!!!!!!!」
僕の姿を見ろよ。
僕の声を聞けよ。
僕の体を抱けよ。
僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の――・・・
「全く・・・貴方は、最後の最後まで僕の思い通りになってくれない人だ」
僕がどれだけ貴方を想っていても、
貴方は僕の想いになど気付かず、ただただあの求導女の言葉ばかりを信じる。
異界に迷い込んでから、僕は必死で貴方を探したのに、ようやく会えた貴方は肉塊。
僕の運が悪いのか、貴方の運が悪いのか・・・
「牧野さん・・・牧野さん、牧野・・・さん」
どうしよう。
溢れてくる。
貴方への愛が。
どうしようもない、アンバランスな愛情が溢れてくる。
「貴方は、僕からいろんなものを奪う」
最初は視線を奪われた。
次は意識を奪われた。
次は正常を奪われた。
次は良心を奪われた。
次は理性を奪われた。
次は次は次は・・・
「次は、僕から魂を奪うつもりなのかな・・・」
命を奪えない貴方は、僕を束縛して魂を壊すつもりなのか。
いや、驚くぐらい臆病な貴方のことだ。
僕に害をなすつもりなど、まったくなかっただろう。
けれど僕は傷つけられた。
これが被害妄想だと言われても、僕にはそんなの関係ない。
「好きです・・・牧野さん」
貴方が好きすぎた僕は、こうして壊れてしまう。
「牧野さんっ」
目から流れてくるのは、まだ赤くない透明な水で・・・
僕と貴方は違ってしまっているのだと嫌でも気付かされてしまうその苦痛に、唇を噛む。
「それでも、貴方が大好きだ」
何処に顔があるかもわからない。
いや、顔なんて、今の貴には方存在しないのかもしれない。
けれど僕は・・・
その肉塊に小さく口付け・・・
「・・・牧野さん」
泣きそうになるのを堪えながら、口元に笑みを浮かべた。
肉塊でも大好きなんだ。
こんな僕は・・・可笑しいだろうか。
いや、僕自身は可笑しいとは想わない。だから・・・
これがBADENDなんて事実、僕は絶対に受け入れない。絶対に。絶対に――・・・
BADなEND
そして彼は現実を捨てた。