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ザクリッ、グチャリッ

「・・・・・・」



僕が初めて人を殺したのは、6歳の頃だった。


僕が初めて殺して人は、僕のことを“疫病神”と言って暴力をふるっていた母親だった。

僕が初めて殺しに使ったのは、近くにあった包丁だった。

僕が初めて刺したのは、母親の丁度腹の辺りだった。



何度も何度も母親の腹を滅多刺しにした。




悲鳴を上げて逃げようとする母親の足を刺し、動けないうちにまた腹を刺し続けた。

そうすれば、何時の間にか母親は事切れていて、僕はただただ血塗れのままで包丁を握り締めていた。







僕が次に人を殺したのは、その数時間後だった。


僕が次に殺した人は、僕のことをまったく見ないで無視し続ける父親だった。

僕が次に殺しに使ったのは、玄関においてあったゴルフクラブだった。



僕が次に殴ったのは、父親の顔だった。


何度も何度も父親の顔面を殴りつけた。



突然のことで避け切れなかった父親眼球がつぶれ、痛みにしゃがみ込んだ父親の頭を何でも殴りつけた。

そうすれば、打ち所が悪かったのか、父親は案外あっけなく事切れていて、僕はただただ血塗れのゴルフクラブを握り締めていた。








台所には母親の死体。

玄関には父親の死体。


テレビでやっていたドラマを思い出した僕は、包丁とゴルフクラブの持ち手をタオルで綺麗にふき取って、家の押入れでボーッとしていることにした。








何時の間にか眠ってしまっていた僕は、目が覚めると知らない場所にいた。


血塗れだった服は綺麗なパジャマに着替えさせられていて、枕元には透明なコップに入った水が置いてあった。

ガチャッという音と共に、部屋に入ってきたのは僕と同年代くらいの男の子。






たしかそう・・・

この村の求導師様の息子さんだった気がする。







その子は僕が起きていることに驚きながらも「め、目が覚めたんですねっ」と嬉しそうに近付いてきた。


此処は?と尋ねる僕に、彼は「教会です」と説明する。





話によれば、僕が寝てしまった後に、何の用事だったかは忘れたけど、人が尋ねてきたらしい。


鍵が開いたままの玄関を開けば、そこには死体。台所にも死体。

一人息子であるはずの僕は押入れで血塗れのまま意識を失っているのを発見したその人は、すぐに村中にその話をしたらしい。


僕の母親と父親が・・・








――何者かに殺されたって。








本当は僕が殺したのに。

本当は僕が犯人なのに。


結局僕はなかなか目を覚まさないし、もしかすると目の前で両親を殺されて、そのショックで意識を失ったのかもしれないと考えられて、殺されなかった幸運な少年として、村に話が広がっていた。







とりあえず教会で保護されることになった僕。

犯人はまだ捕まってない。だって、僕が犯人なんだから。


村の人たちは、僕をいろんな言葉で励まし、教会の息子さん・・・慶は、何時も僕についてきた。


求導師様が僕を養子として迎え入れてくれたおかげで、僕も教会の子供になった。






本当は人殺しの僕は、それを隠した。

犯人のことを聞かれても、覚えてないと言った。


周りの大人は、ショックで覚えていないのだろうという考えでまとまったらしく、数ヶ月後には聞かれなくなった。



誰も知らないんだ。僕が犯人だって。

けれどそれは駄目だと思って、こっそり慶にだけ教えてあげた。




「あのね。僕がお母さんとお父さんを殺したんだよ」




笑顔で言えば、慶は吃驚したような顔をして、そして怖がるような素振りを見せた。

怖いの?と問いかければ、慶はギュゥッと抱きついてきて・・・




「名前がいなくなっちゃうのが怖い」



そういって泣いた。


僕が大人に連れて行かれるのが怖いから、慶は周りに黙っておくと言った。

慶は馬鹿な子だね。と言って抱き締めてあげれば、慶は泣きながら僕に抱きついたまま、数時間は離れなかった。







大きくなっても、慶はずっと僕の傍にいた。


前の求導師様が自殺しちゃったときは慶は物凄く怖がっていたけど、僕は正直どうでも良かった。

慶は求導師様で、僕は八尾さんと共に慶を支える立場になった。



慶は臆病で僕や八尾さんから離れたがらない。


二人きりになると、慶は何時も泣きそうな顔で僕に抱きついてくる。いや、泣いてるときもあるかな。






「慶は泣き虫だね」


それに、とーっても臆病。



前の求導師様が失敗した儀式を、慶がやることになったときは凄かった。

前日の夜は僕に抱きついたまま、ガタガタッと震えていたっけ。


正直、儀式をやるのは僕じゃないから、どうでも良かったけど。

で・・・――










「・・・ぁーあ。失敗しちゃったんだ」


よくわからないけど、何時の間にか周りには僕を殺そうとしている変わり果てた姿をした村人達がいた。


農具や銃を持っている彼らを、僕は何の躊躇もなしに近くにあった鉄パイプで殴りつける。

慶を探さなければと思った僕は、途中で奪い取った拳銃と鎌を使うことにした。





嗚呼、そうだ。


途中で、母親と父親にも会ったよ。

母親は包丁を持ってて、父親はゴルフクラブを持ってた。


もちろん、躊躇なく拳銃で撃って、鎌で切り刻んだけど。



ようやく見つけた慶は、僕を見るなりすぐに抱きついてきた。

隣に居たのは、たしか宮田のところの・・・慶に昔こっそり聞いた話では、慶の双子の弟。


血塗れの僕はとりあえず・・・







「慶。慶は僕と行動しよう。とりあえず、目に付くゾンビみたいなのは全部僕が殺してあげるから、八尾さん見つけ出して、適当に拷問して、詳しい話を聞きだそう」

「や、八尾さんを拷問なんてっ!」


「何故?絶対に八尾さんがこの件に関係しているはずだよ。僕は、格好こそ慶と同じような服を着ているけど、慶みたいにお人好しでもなんでもないからね。いらないものはすぐに切り捨てるよ」


ギュッと慶の手を握って、すたすたと歩き出す。

ちらりと宮田を見て「慶を見ててくれて有難うね」とだけ言った。





「名前っ」

おろおろしている慶。

宮田が見えなくなった辺りで、僕はクスッと笑った。


「殺し足りないんだ。けど、ただ殺すと僕が悪い子みたいだから、慶を守りながら殺せば、良い子って感じになるでしょ?」


クスクスッと笑いながら言えば、慶はブルッと震えた。




「僕が狂ってるように見える?ごめんね、慶。大分昔から、僕は血に狂ってるよ」


笑顔でそういって、僕は近くにいた敵を殺した。






殺し足りないの







ああ・・・愉しい。



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