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※この小説は『自分に被害が無いならどうでも良い話』の続編です。





「燈くん、ちょっと良いかな」

「あ、慶次さん。いいですよ」


トレーニング後シャワーで汗を流し、後は自室でゆっくりするだけとなった燈は慶次の誘いを二つの返事で了承した。

・・・が、燈はそれを深く後悔することとなる。








「燈くんの友達の、その・・・○○って人のことなんだけど」


二人以外はいない休憩室で同じソファに二人並んで座ると、慶次は重い口を開く。その口から出て来た名前に「あぁ、この間のか」と燈は遠い目をした。

この辺りから燈は薄ら嫌な予感を感じていたのだが、了承してしまった手前今更断るわけにもいかず「○○がどうかしましたか」とそのまま先を促した。


慶次は少し目を漂わせると、膝に置いた手をぎゅっと握りしめる。




「あ、あれから彼は、俺の事何か言ってるか?」

「慶次さんのこと?・・・まぁ、言ってますね」


一度カミングアウトすればもう大丈夫だと判断したのか、○○はここぞとばかりに燈に慶次のことを喋り始めた。大体が慶次を称賛する言葉で、中には大分変態的な言葉も混ざっている。称賛だけならまだしも、変態的な言葉には燈も精神的疲労を感じていた。




「そ、そうか!あ、いやっ・・・すまない」

明らかに嬉しそうな顔をした慶次は慌てたように顔を逸らす。



「そ、その・・・こんな話を燈くんにするのもどうかと思うけど・・・実は俺、彼のことを随分昔から知っていてね・・・」

「もしかして試合中に?」

「あぁっ、そうなんだ・・・!」


嬉しそうに笑いながら言うあたり、先日の○○の犯罪者予備軍的な発言に引いている様子はない。

引いているならまだ簡単だったのに、と燈は内心大きなため息を吐く。





「・・・何時からだったか、俺の試合で良く見る人を見つけたんだ」

何処かうっとりとした表情で話し始める慶次は姿こそ自分のよく知る人のはずなのに、この時ばかりは全くの別人にも感じた。




「凄いキラキラした目でこっちを見てきてさ、その眼で見られると気分が一気に高揚して、どんな試合にも勝てる気がした」

「へぇ・・・」


まぁ鬼塚慶次の武勇伝を語る時の○○の目はきらきらと輝いている。変態的発言をする時もそりゃもう見事に輝いてはいるが。




「俺の為に何時も来てくれてんのかなって・・・自惚れかもしれないけど、つい自惚れそうなぐらい嬉しかった。まさか新しい職場にその人がいるなんて驚いてさ、嬉しくて嬉しくてたまらなかったのに、なんて声を掛けたら良いかわからなかったんだ」

膝の上に置かれた手をいじいじと弄る慶次は「情けないよな」と眉を下げる。



「だってほら『俺の試合何時も見に来てくれてたよね?』じゃなんか自惚れ屋みたいで格好悪いし、かと言ってボクシングのこと以外で振れるような話題も持ってなかったし」

「でも、挨拶するだけでもアイツ喜んだと思いますよ?」

「そう、だな・・・挨拶するだけでもいろいろと違ったはずなのに、恥ずかしくってさ・・・その人を見つけるとすぐ隠れる癖が出来てたんだ」


少し遠くに姿を見かけたら鉢合わせないように方向転換。もちろん、その姿は持前の視力でしっかりと目に焼き付けて。

まるでシャイな女学生だなと燈は顔を引き攣らせそうになる。



「いやいや、何も隠れなくたって・・・」

「だ、だって緊張するだろ?俺がその人を見たのは試合中だけで、そんなにまじまじ見た事なくて・・・今更知ったんだけどさ、その人凄い格好良くて・・・あんな人に何時も試合見られてたんだと思うと恥ずかしくて・・・いや、悪い意味じゃないんだ、けどちょっと恥ずかし過ぎてどうにかなっちまいそうで・・・」


確かに○○の顔は整っている方だったなと燈は思い出す。だが、あの発言は無い。自分が相手なら全力で御免被る。




「そんな風にうじうじしてるうちに随分経っちゃって、俺ってこんなに臆病だったのかって自分で吃驚した」

いや、臆病と言うより乙女だろう。その言葉が喉まで這いあがってきたが何とか止めた。




それはまさに恋だろう。あの犯罪者予備軍が“凄く格好良い人”で済まされている辺り、恋は盲目とは本当らしい。


あぁこれは恋愛相談か、項垂れそうになりつつも何とか耐える燈。トレーニングで疲れた身体を更なる疲労感が襲う。

そんな燈の様子に気付いていないのか、慶次は少し嬉しそうに「それがこの間・・・」と口を開く。






「あの人の口から俺のファンだって言葉が飛び出して・・・す、凄い絶賛してたんだ、俺の事。綺麗だとか惚れるとか・・・」

かぁっと赤くなって抑えきれない頬の緩みを必死に抑えようとしている様はもはや紛うことなく乙女だろう。



「こ、これってさ、期待しても良いってことかな?あ、あの人もさ、俺の事意識してくれてるって、そう思っても良いんだよな?」

ばっ!と燈の方へと身を乗り出し期待一杯の目をしてそう言う慶次に、燈は遂に深く考えるのを止めた。




あーうん、そうなんじゃないですか?と返事をすれば「そ、そうか!?」と更に顔を赤くする慶次に「そうそう」と頷きつつ明日の朝食は何かなぁ・・・と考える燈の顔には、明らかなる疲労の色が浮かんでいた。






俗に言う現実逃避






翌日から、昼間は○○から夜は慶次から、燈は二人の話を聞かされることとなる。



あとがき

ただ只管に燈が可哀相なお話になりました。
・・・鬼塚慶次は乙女だと思うのは異音だけなのでしょうか(ゲンドウポーズ



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