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※この小説は『兎の独り言』の続編です。



神様の悪戯とは良く言うが、この場合は“神様のうっかり”だろう。


掃除したばかりの床でつるりと足を滑らせた神獣 白澤はその手に持っていたホモサピエンス擬人薬を盛大にぶちまけた。

ぶちまけた先、床の掃除をしていた○○がいたのはもはや“運命”とでも言おうか。

ばしゃりと自身の身体に降り注ぐ薬にぴゃっ!と目を閉じる○○と「うわぁあ!?ごめんよ○○!!!!」と謝る白澤。



一瞬にしてパニック状態となった極楽満月。残念ながら桃太郎は薬の配達中だったため、場を諌めてくれるような人は誰一人としていなかった。















ごめんねごめんねと白澤様が謝っている。


何をそんなに謝っているんですか、私は大丈夫ですよ。それを伝えたくて顔をあげれば、白澤様と目が合った。


ぱちぱちと目を瞬かせる白澤様と首を傾げる私。

はて、何だか白澤様が何時もと違って見える。白澤様はもっと大きくはなかったか。何だか私と同じか、少し小さいように感じる。

それに周囲の景色も変だ。カウンターはもっと聳える様な高さを持つモノではなかったか、先程まで私が掃除に使っていた雑巾は、こんなに小さかったか。


きょろきょろと周囲を見渡していると、白澤様に変化が起こった。



「う、うわぁ・・・ちょ、ちょっと待ってて、すぐ何か持ってくるから」


何故だかぶわりと顔を赤くしてさっと目を逸らした白澤様は店の奥へと引っ込んでいく。

戻ってきた白澤様の手には私には大きすぎるバスタオル。でも可笑しい、ばさっと掛けられたバスタオルはそこまで大きくなかった。

可笑しいな?と思ってバスタオルを掴もうとする。そして気付く。





「・・・手が、人だ」

そう、人だった。そして吃驚、私・・・今喋った。




目の前の白澤様を見ればまだ顔が赤くって「と、取りあえず僕の部屋に移動しよう。着替えなきゃいけないし・・・」と小さな声で言う。

さっさと歩き始める白澤様を追いかけようと立ち上がる。あ、歩けてる。


白澤様を追いかける途中にあった鏡をちらりと見て驚く。鏡の中には、どっからどうみても人型の男が一人いた。

髪は私の毛並と同じ。目の色はそのまま。


きっとこれは白澤様が私に零した薬のせいだ。そう理解し、それと同時に嬉しくなった。

一生なれることはないだろうと思っていた人になれた。それが嬉しくないわけがない。







「白澤様、私人になれました。凄いですね」

「そ、そうだね・・・」


なんだか、白澤様の様子がおかしい。

どんどん歩いて行ってしまうし、全然こちらを向いてくれない。


不思議に思いつつも白澤様のお部屋に到着すると、白澤様はあれじゃないこれじゃないとクローゼットの中を漁り始めた。




「うわっ、僕の服じゃ小さいし、桃タローくんの服じゃ丈が足りないし・・・ご、ごめんね○○。ちょっとだけ我慢してね」

「大丈夫ですよ白澤様。そんなに慌てないでください」


白澤様とお喋りできるのが嬉しくって、私は頬を緩ませながら言う。白澤様は目を逸らしてしまう。






結局桃タローさんの服を着ることになった私。手足の生地が少し足りないけど、大丈夫。



「白澤様、何かお仕事はありますか?大きくなったので、高いところの棚でも届きますよ」

「う、うん、有難う。けど今はゆっくりしてて良いよ。身体に違和感はない?」


顔を赤くしたと思ったら今度は心配げに尋ねてくる白澤様に大丈夫だと伝えれば、一先ずほっとしたような息を吐いた。





「・・・本当にごめんね、吃驚したよね」

「大丈夫です」


それに嬉しいですから。白澤様と同じ姿になれて。

心の中でそっとそう思いつつ白澤様を見つめる。するとまた目を逸らされた。



可笑しい。何時もならじーっと見つめ返して笑ってくれるのに。

見詰めれば見詰めるだけ白澤様の顔は赤くなって、大きく目を逸らされてしまう。


何で?と内心ショックを受ける。

だって、白澤様だって私が人型だったらと望んでくれていたのに。



・・・もしかして、白澤様はこの姿が気に入らなかったのだろうか。






「・・・ごめんなさい白澤様」

「えっ?」


「白澤様の好みじゃなくて」

「えっ、えっ?な、何が?」



「白澤様の好みじゃないから、目を逸らすんですよね?」

「ぁ、いや・・・」

慌て出す白澤様にしょんぼりとする。折角人型になれたけど、一気に悲しくなってきた。




「ま、待って!違うよ!」

ばっ!と白澤様が私の顔を正面から見る。ぶわっと赤くなった頬、ちょっと潤んだ目。その眼には、今にも泣きそうな男が写っている。




「だ、だって・・・○○、格好良すぎるっ!」

「えっ?」


「格好良いしスタイル抜群だし・・・こ、こんな格好良い人を今まで毎日抱っこしたり抱き締めてたりしてたんだなと思うと・・・!」

よくわからないけど、白澤様は私の姿が気に入っていないわけじゃないのはわかった。

それが分かると、胸がいっぱいになる。





「白澤様・・・」

ずっとずっと、言いたかったことがあるんです。

もし人になれたらと、ずっとずっと願い続けてたんです。


とくんとくんっと心臓が早く動く。ちょっぴり苦しい。それでも私は意を決し、口を開く。







「好き、です」

「えっ!?」




「私は白澤様のことが、好きです。ずっとずっと、お慕いしてました」




想いを届けたくて、ぎゅっと白澤様の手を握る。

可笑しいな、触れ合うなんて何時もやってることなのに、人型のこの手で白澤様の手に触れると何だかとても恥ずかしい。


白澤様も私と同じなのか、その顔は真っ赤で口は金魚草みたいにパクパクと動いている。






「親兄弟も家も何も持たない、ボロボロのただの兎だった私を白澤様が拾ってくださった・・・この御恩を少しでもお返しできるよう、今まで自分なりに頑張ってきました。ですが、何時の間にかこの胸には御恩以外の理由が生まれていたんです・・・貴方様のことが、どうしようもないぐらい好きです。何の神話も持たないただの兎が差し出がましいことを言っているのは重々承知です。でも、それでも・・・白澤様のことが・・・」

「ま、待って!待って○○!ちょ、ちょっと近い、近いよぉ・・・」


近い?あぁ、確かに近いかもしれない。白澤様が女の子と“きす”をする時ぐらい近いかもしれない。

目の前には愛しい白澤様の真っ赤になった顔がある。何だか目に薄ら涙を浮かべているけれど、やっぱり兎からの告白なんて嫌だっただろうか。


しゅんっとして白澤様の手を放し少し距離を取ると「あっ、ち、違う違う!」と今度は白澤様が私の手を握った。





「ご、ごめんね○○!別に拒否したわけじゃないから、そんなに落ち込まないで」

「ごめんなさい・・・やっぱり、兎から告白されても、嬉しくないですよね」


「そんなことない!その逆!・・・う、嬉し過ぎて、心臓破裂しそうだから、ちょっと落ち着かせて」

心臓破裂!?と驚いている間に、白澤様は大きく深呼吸。すーはーすーはーと何度も何度も深呼吸をしてから「よし」と頷いた。







「あのね○○、よく聞いてね」

「はい」

御断りの言葉だろうか。白澤様の目は真剣だ。



「僕もね、君が大好きだよ」



気付いたら、抱き付いていた。



「わぁあぁあっ!?ちょ、ちょっと落ち着いて○○!」

「白澤様、大好きです」

「ぼぼぼぼ、僕も好きだよ!って、ちょっと落ち着いてってば!」


べりっと引き剥がされてしゅんっとすると白澤様が先ほど以上に真っ赤になっていた。倒れちゃいそうなぐらいで心配。





「・・・あぁもう!折角だから格好良く告白したかったのに、○○が格好良すぎるんだ!」

「ご、ごめんなさい?」

「良いよ良いよ!○○は何にも悪くないよ!もぉ○○素敵過ぎ!」


何やら吹っ切れたような大声でそういう白澤様に謝ると、白澤様が抱き付いて来た。




ぎゅーっと抱き付いてくる白澤様をぎゅーっと抱き締め返す。わっ、白澤様私より小さい。

可愛いなぁ、なんて思いながらすりすりと頬擦りをすれば、白澤様の頬がまた真っ赤に染まった。







兎の大告白







しばらくして薬の効果は消え、兎に戻ってしまった。けど・・・

「○○♥お仕事お疲れ様」

結果、何だか以前よりまして白澤様が私に構う頻度が増えた。

・・・まぁ、幸せだから良いですけど。



あとがき

擬人化したらきっと滅茶苦茶イケメンなんでしょうね!(投げやり)←
白澤様が乙女過ぎて誰コレ状態になってしまいましたが、どうかお許しください!!!orz



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