※この小説は『パパが帰ってきた』シリーズの続編です。
子供の成長は早いなぁとしみじみ思う。
いや、そういう私も身体だけは子供なのだが。
体格も大きくなっていたし、三人とも生前の私が愛用していたものと同じメーカーのシェイビングクリームを使って髭を剃っている。ふむ、感慨深い。
食べる量なんて、私の記憶している頃と比べると格段に多くなっていた。
目の前で食事を取っている三人を見る。
ボーは昔から食べ物を零してしまっていたけど、それは今も変わっていないらしい。がつがつと勢いよく食べるせいで、テーブルを汚している。
それとは真逆でヴィンセントは静かに食べる。テーブルも汚さないが、その代り食べるのは遅い。
レスターはボーよりはマシだけどやっぱり零す。原因はよそ見をしながら食べてているからだ。
・・・ふむ、こう見ると三人とも食べ方が個性的だ。
「ボー、零してるよ」
「ん。悪い、パパ」
口元を拭いてやるとボーがにっこりと笑った。
「おっ!パパ、俺も零しちまった」
「全く・・・よそ見しながら食べるのは止めなさい、レスター」
何故だか喜々として零したことを報告してきたレスターの口元も拭ってやる。
まさか二人がこんなに零すなんて。もう少し食べ方をちゃんとさせた方が良いのだろうか。
ヴィンセント程ゆっくり食べろとは言わないが、せめて零さないようにヴィンセントを見習って――
ボチャッ
「・・・ヴィンセント?」
今お前、自分からソースを顔に飛ばさなかったかい?
顔をソースで汚しながらこちらを凝視しているヴィンセントに、私は目を瞬かせる。
そして「あぁ」と気付く。
「わかったわかった、ヴィンセントも拭いてあげる」
ボーとレスターばかり世話を焼かれているのを見て、嫉妬してしまったのだろう。可愛い息子の行動につい笑ってしまいながらもヴィンセントの口元を拭くと、またボチャン!と今度は激しめな音がした。
「パパ!また零した」
「こらボー・・・お前も今自分から零しただろう」
顎まで大変なことになっているボーを呆れたまま見つめれば、レスターの方からもボチャンッ!と音がした。
「・・・レスター、服にまで零すのは止めなさい」
顔をソースで汚した息子たちについついため息。
ボチャッ!
「・・・またかい?ヴィンセント」
ついには先程拭ったばかりのヴィンセントまで顔を汚すのだから、私は苦笑を浮かべながら「こら、食べ物を粗末にするんじゃない」と三人を叱った。
ボーが不貞腐れた顔で「ヴィンセント、手前のせいだぞ」とヴィンセントを睨んでいる。
「こら、三人とも同じことをやったんだ。誰か一人を責めるんじゃない」
「だってパパ!コイツは一番最初にズルしたんだ!」
ズルって・・・
本気でヴィンセントに怒っているらしいボーの頭に手をぽんと置き「兄弟仲良くしなさい」と言い聞かせる。
「おいおい、ボーばっかズルいぞ。パパ、俺も撫でてくれよ」
「手前は関係ねぇだろ!」
あぁ、今度はボーとレスターが喧嘩を・・・
これは叱るべきかと考えていると服の裾をくいくいと引かれる。
「ん?どうかした、ヴィンセント」
見ればヴィンセントがすっとこちらへ頭を差し出している。ふむ、撫でて欲しいのか。
仕方ないなぁと思いながらヴィンセントの頭を撫でようと手を伸ばせば「抜け駆けしてんじゃねぇぞヴィンセント!!!」とボーが怒鳴った。
取りあえず・・・
「喧嘩をするような悪い子たちには、デザートは無いよ」
三人は途端に静かになった。
そうだね、お前たちは私の作るデザートが大好きだったね。
パパはお料理上手
身体は大きくなっても、まだまだ子供だ。
どんなに大人になろうと、私にとって三人は何時までも子供なのだ。
あとがき
パパシリーズ、結構続いている気がします。
今回は兄弟がパパを取り合っているある日の風景でした。
・・・ヴィンセントは美味しいところを持って行くイメージがあります。