自我の目覚めと同時に、僕は僕の“前世”を知った。
僕は○○。でも前世は違った。
たぶん他人にこんなことを言っても誰一人信じないと思うけど・・・僕の前世は“沖田総司”という男だった。
再びこの世に生まれ落ちた僕の身体は健康そのもの。
そのことに一番喜んだのは他でもない僕自身で、出来ることなら今世は長生きしたいなと思っていた。危険なことからは出来るだけ遠ざかり、面倒事には目を瞑った。
・・・だと言うのに――
「是非とも審神者になっていただきたい!」
目の前で“審神者になれ”とのたまう馬鹿は何だと言うんだ。
学校から帰ってきた僕を出迎えたのは優しい母とその隣に立つ黒服の男だった。
母は困ったような顔で「おかえり、○○ちゃん」と言い、その黒服が政府職員であることを告げた。政府は政府でも“時の政府”とかいう胡散臭いところから派遣されてきたという。
・・・何故母はそんな不審な奴を家に上げてしまったのだろうか。まぁ、お嬢様育ちで世間に疎い優しい優しい母だから、特に何も考えることなく家に上げてしまったのだろう。今夜は父と共に家族会議だ。主に母さんの危機管理能力についての。
母と政府職員に促されるがままにリビングへ行けば、政府職員は一人勝手に“時の政府”についてや“歴史修正主義者”“審神者”について話し始めた。
正直興味がなかったけど、歴史修正主義者が修正しようとする歴史の中には僕が前世で生きた時代も含まれていることを知り、何だか微妙な気持ちになった。
確かにあの頃、僕の胸は苦しかった。苦しくて苦しくて、結局死んでしまって、今世で初めて近藤さんが死んでたことを知って・・・
でもあれはもう“過去”なんだ。確かに僕の前世は沖田だけど、過去を振りかえって嘆いたりはしない。せいぜい、懐かしむだけ。
それに、確かに終わりはあまり良くなかったかもしれないけど、あの時代の中の僕等は精一杯やったんだ。それを無関係の奴等が勝手に変えるなんて、ちょっと胸糞悪い。
「貴方の霊力は素晴らしい。生まれながらの霊力の大きさはさることながら、その霊力は美しく真っ直ぐで・・・他の人間とは一味違うものを感じます」
「霊力とかそういうオカルトチックなこと、僕興味ないんで」
話の中に出て来た“刀剣男士”にも割と興味が無い。今世では長生きすると決めたんだ、自分から危険な場所へ飛び込んだりはしない。
完全拒否な僕に気付いているのかいないのか・・・まぁ、気付いていながら無視しているであろう政府職員はなおも言葉を続ける。
「貴方はまさに、審神者になるべくして産まれたお方です」
いや、知らないよそんなの。
僕は目の前で目を輝かせ一人勝手に興奮している政府職員にシラケた眼を向けつつ「ふーん、で?」と先を促した。
「是非とも審神者となり、世界を救ってください」
「首落ちて死ね」
つい暴言が出たのは仕方ない。
母が「こら、○○ちゃん」と静かに諌めてくるが、政府職員がムカつくのだから仕方ない。
「こちらもそれ相応の金額を用意します。ですから、是非とも審神者に!」
暴言は吐かれ慣れているのか、しれっとした顔で契約書うんぬんを差し出してくる政府職員をたたっ斬りたくなった。今手元に前世の愛刀が無いのが悔やまれる。
「取りあえず、まずは初期刀の説明に移らせて頂きます」
おい、僕が審神者になること前提で話を進めてんじゃねぇぞオラ。
「初期刀と呼ばれる刀は五振りあり、これがソレなのですが――」
いっそ殴って気絶させようかと思い始めた時、政府職員が僕の目の前で差し出した書類を見て、僕は固まった。
「・・・これ、何であるの」
「は?あぁ、政府の技術をもってすれば、過去に破損・消失した刀を復元することなど容易いですよ」
「・・・ふーん」
書類を手に取り、じっと眺める。
「いいよ」
「え?」
「なってあげる、審神者ってヤツに」
会ってみたいヤツもいるしね。
審神者になって1日目。
早速だけど僕は後悔している。
「沖田くん沖田くんっ、沖田くん、沖田くーん」
ハートを振り撒いて全力で抱き付いてくる愛刀に、僕はぐったりとしていた。
審神者になると宣言するや否やすぐに荷物をまとめさせられ政府へと連行された僕の目の前には、あっという間に初期刀が並んでいた。
当然、僕が選ぶ刀は決まっていた。
“加州清光”
あの日失った、僕の刀。
それを手に取り、政府の式神であるこんのすけの指示に従い顕現させた瞬間「沖田くーん!!!!」と抱き付かれた。
流石は僕の愛刀。一瞬で僕だとわかったのだろう。
・・・しかし僕の愛刀、その姿はどうした。その赤い爪は何だ、そのピンヒールは何だ。・・・とまぁ、僕の想像の遥か斜め上を行った加州の姿に絶句したわけだ。
「ねぇ沖田くん!俺可愛い?愛してくれる?」
「えっ、あぁ、うん。凄く可愛いと思うよ・・・」
「やったぁ!これからもずっと可愛くするから、だからさ・・・ずっと、傍に置いてね?」
・・・誰だ、僕の愛刀を彼女臭漂う産物に仕立て上げたのは。
ぎゅーっと抱き付いてきて上機嫌に笑う加州とは真逆にげんなりした顔をする僕を、足元のこんのすけはおろおろと見守っていた。
衝撃的な初期刀とのファーストコンタクトから数日、僕は再び後悔した。
「沖田くーん!」
「おいこら安定!俺より先に沖田くんに抱き付いてんじゃねぇよ」
「うるさいブース、沖田くんはこんなヤツより僕に抱き付かれた方が嬉しいよね?」
「あ゛ぁん!?上等だオラ!表出ろ!」
「ふんっ、遊んでやるよ子猫ちゃん」
愛刀が二振りとも女子だった。
初陣で傷だらけで帰ってきた加州が「可愛くないと捨てられちゃう」と号泣したのはまぁ大丈夫だった。全力で慰めた。
が、目の前の状況は何だ。お前等実は仲悪かったのか。いや、喧嘩するほど仲が良いということなのか。
目の前で繰り広げられるキャットファイトを遠い目をして眺めていると、こんのすけが労わる様な目をしてきた。
「ねぇ沖田くん、沖田くんはこんなアバズレより僕の方が好きだよね?」
「誰がアバズレだこの猫かぶり!沖田くんは俺のこと可愛いって言ってくれたし!絶対捨てないって言ったし!」
やめて。愛刀の口からアバズレとか聞きたくない。
僕に抱き付いてぎゃーぎゃー言ってる二人の頭を撫でて「大丈夫、二人共好きだよ」とか言う僕は何処のチャラ男だ。さながら二人は、そんなチャラ男に騙された可哀相な女の子か。
「沖田くん大好き!」
「はぁ?俺の方が沖田くん好きだし」
「寝言は寝てから言えば?」
「ぶっ殺す!」
「上等だよ」
・・・とりあえず二人とも、少し落ち着こうか。
毎日がキャットファイト
この審神者生活、不安しかない。
あとがき
沖田組の女子力は凄まじいと思います。
沖田様も、まさか自分の愛刀の付喪神がこんな風になっているとは想像も出来なかったでしょう(白目)