拝啓 去年牛乳買いに行って来ると言ったまま帰ってこなくなった方向音痴のお母様。おそらく既に牛乳はヨーグルトになっていることでしょう。元気にやっていますか?階段と間違えて屋根を上ったり、トンネルと間違えて地下下水道を通っていたりはしませんか?3年前ぐらいに貴女は同じことをして父さんに救出されていたので、とても心配しています。出来れば国内にいることを切に願っています。
ところで話は変わりますが、僕は今とても困っています。
「はぁはぁっ、○○君はぁはぁっ」
近所のおじさんが変態になりました。
近所に住む吉影おじさんは良い人だった。
数年ごとに行方不明となる母、それを探して世界各国を飛び回る父。自然と一人で家に居ることが多かった僕の面倒を見てくれたのが吉影おじさん。
両親がいなくなるとすぐに現れては僕のためにご飯を用意してくれたり、時には授業参観にまで参加してくれた。
背が高くてお洒落で格好良くってしかも優しい吉影おじさんは、僕にとって憧れの存在だった。
両親不在の中、吉影おじさんのおかげで何とか健康的に生きていけた僕は、この度高校生になった。
両親の代わりに入学式に出席してくれたり写真を取ってくれた吉影おじさんはその日の夜・・・変態と化した。
何を言っているかわからない?僕にもわからない。
今日は○○君が高校生になった記念日だからご馳走を用意してあげよう。なんて言っていた吉影おじさん。
吉影おじさんのごはんはとても美味しいからと楽しみにしていた僕は、その日の夜は吉影おじさんのお家で美味しいご飯をお腹いっぱい食べた。
問題はその後だ。何時もならそのまま家に帰るのだけど、その日はおじさんが「もっとゆっくりしていきなさい」と僕を引き留めた。
もしかしてプレゼントとかあるのかな?なんて安易に考えていた僕。
・・・いや、あれは吉影おじさん的にはある意味プレゼントだったのかも。
「君と、君の手が好きだ」
はい?と聞き返してしまった僕は悪くないと思う。
曰く、吉影おじさんは昔から手しか愛せない人だったらしい。
僕に近付いたのも僕の手が気に入ったからで、でも一緒に過ごしていくうちに手だけじゃなくて手の付属品である僕も好きになったそうだ。
吉影おじさんが手フェチという衝撃のカミングアウトには驚いたが、僕の手が好きだというのにはもっと驚いた。
・・・あぁそうだ、思い返してみれば吉影おじさんはよく僕の手にハンドクリームとか塗ってくれたし、運動会でこけて手を擦り剥いた時は病院まで連れて行かれた。つまりはそういうことだろう。
「愛してるよ○○君!絶対君は素晴らしい手の持ち主になると思っていた!君が高校生となった今日、確信したよ・・・私は君が好きだ!」
「よ、吉影おじさん落ち着いて・・・わっ!」
手を握られその手に頬擦りされる。
うっとりとした顔で手に頬擦りする吉影おじさん、正直いろいろ幻滅する。
それでもなお吉影おじさんのことを嫌いになれないのは、やっぱり昔からお世話になっていたからで・・・
「○○君、はぁ・・・なんて良い手なんだ・・・この手で≪ピーッ≫されたら私は――」
「おじさんしっかりして!!!!」
吃驚した!今この人平然とした顔で放送禁止用語口にした!高校生になったばかりの純情少年にはキツ過ぎること言った!!!
「○○君、よかったらこの後私の部屋で≪ピーッ≫して≪ピーッ≫の≪ピーッ≫に≪バキューンッ≫しないかい?」
「あ、僕今日はもう帰ります」
真顔でおじさんの手を振り払った僕は悪くない。
振り払われた手を見詰め「○○君の手が振り払われたっ」と何故だか悦んでいる吉影おじさんには幻滅どころか引くしかない。
あれだけ放送禁止用語が乱用された言葉初めて聞いた。耳がどうにかなりそうだ。
おじさんが悶えている間にさっさと玄関まで歩いて行く僕を、はっ!としたおじさんが追いかけてくる。
「じゃ、おじさん。晩御飯ご馳走様でした」
「待ちたまえ○○君。せめて1ラウンドしていかないかい」
「何をとは聞きませんから。それじゃさようなら」
待ってくれ!という吉影おじさんを無視して、僕はおじさんの家を出た。
あぁ・・・
「・・・なんか、疲れたなぁ」
幻滅したり引いたりしたのに、それでもまだ吉影おじさんのことを嫌いではない僕。
きっと、方向音痴で大変なことになっている母を何度も救出しに行く父と同じように、僕も厄介な人を好きになってしまう星のもとに生まれているのだろう。
おじさんが変態になった
翌日、吉影おじさんに「取りあえず手形を取らせてくれないか?」と紙と墨汁を差し出された僕は笑顔で却下した。
あとがき
ギャグにすると誰かが変態と化してしまう悲劇。←
キャラ崩壊申し訳ありませんでしたッ!!!!!