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不意に、何の前触れも無くパズルのピースが揃った。

喉が渇いたなと思いながら台所にある冷蔵庫を開いた瞬間だった。行動には何の意味もない、ただ本当に、突然わかってしまったのだ。


「・・・なんて、ことだ」


開けっ放しの冷蔵庫から冷気が零れてくる。

その冷気が僕の身体を冷やし、それと同時に頭を冷やした。全身から血の気が引いていくような感覚がする。





「いや、違う。こんなの馬鹿げてる」

違う違うと首を振りながら冷蔵庫を閉じる。飲み物を取ることすら忘れて。

有り得ない有り得ない、こんなの有り得ない。気付いてしまった一つの仮説を何とか否定しようとするも、頭の何処かではそれが真実なのだろうという結論に達しつつある。



普段から周囲に「○○君は頭が良い」とか「○○は何でも知ってる」なんて言われているが、こんなことにまで気付きたくはなかった。

いっそ、何も知らないままの方が幸せだったんだ。


こんな・・・






“死体が起き上がっている”なんて事実。





通常なら有り得ない。だが今、この村ではその有り得ないことが起こっている。

疫病か何かかもしれないと騒がれた村人の大量死。その後も増える死人、死人の共通点、兼正・・・


沢山のピースが合わさって合わさって、生み出された“結論”に具合が一気に悪くなってくる。





「死んだ人間が、生きた人間を殺している・・・」

ぽつりと呟く。


言葉にした瞬間、沢山の仮説が頭の中を駆け巡り、息が詰まる。

駄目だ、考えすぎたら駄目だ。きっととんでもなく陰鬱な結論にか達しはしない。




「・・・誰かに、相談すべきだろうか」

この事実を、誰かに教える?

・・・駄目だ。下手に誰かに喋ってしまえば、無駄な混乱を生んでしまう。


それにこれは僕の頭の中で繰り広げられた勝手な論争による結論でしかない。例え真実を口にしたとしても、誰一人信じることは・・・

いや、信じる人間はいるかもしれない。何度も死体を見て調べている医院の若先生、葬儀を執り行っている若御院、他にも信じてくれそうな人間はいる。




だが知らせてどうする?僕はどうしたい?起き上がった死体を止めたいのか?死体を死体に戻す方法を調べたいのか?

わからない。僕は真実に気づいてしまっただけだ。それ以上何かをしようとなんて、怖くて出来ない。


・・・あぁ、何で無様な。おそらく誰よりも早くこの事実に気付いてしまったはずなのに、その先へ進もうとしないなんて僕はなんて愚かなんだ。

けれど死体側が僕が信じるを知ったことに気付けば?僕は真っ先に彼等の餌食となるだろう。それだけは避けたい。


ならばどうする?どうすれば良い?何が一番先決なんだ?

頭の中がぐるぐる回る。いろんな行動パターンとその結果が何度も繰り返される。その結末の多くは僕の“死”を告げていた。






「・・・駄目だ、突破口が少なすぎる」

生きることを優先するなら、この事実を口にするべきではない。だが、口にしなければ他の大勢が死ぬ。


何か大きな物語の主人公になったわけでもないのに、僕の胸はずしりと重くなった。

けど僕だって聖人君子ではない。自分の命を犠牲にしてまで、誰かを助けたいとかそんなヒーロー染みた思想は持っていないのだ。


だが、でも、けど、だって・・・

僕はどうすべきなんだ。気付いてしまったこの事実、誰かに話すべきなのはわかっている。けど、僕は・・・

















ピーンポーンッ



こんな真夜中に玄関からチャイムの音が響く。

突然のチャイムに僕の肩がびくりと震える。


何度も言うが、こんな真夜中だ。尋ねてくるような人間は殆どいない。

だとすれば、これは・・・






「こんばんは、ちょっと開けてくれないかい」






外からの声に引き寄せられるように静かに近づいていく。

開けてはいけない。僕は息を殺しながら、そっと覗き穴を覗いた。



「・・・あぁ」

僕はやっぱり自分の結論は全てあっていたことがわかった。








覗き穴の向こうには・・・にぃっと歯をのぞかせて笑う、数週間前に死んだ隣のおじさんがいた。







知らなきゃ幸せだったのに







もちろん扉は開けなかった。

仕方ない・・・明日、まだ生きてる誰かにこの事実を伝えに行こう。若先生らへんが良いかな。兎に角、この考えるだけしか能の無い頭で、最良の結末を導き出そう。



あとがき

相手の指定がなかったので、取りあえず主人公だけの登場となりました。
・・・最後らへん、ちょっとだけホラーっぽくしちゃいました。←



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