「はぁっ、は・・・!」
走れば走るほど息が上がる。
それでも足を止めないのは、今すぐにでも会いたい人がいるからだ。
真っ暗な森の中は足場も不安定で何度も転びそうになった。
真っ直ぐ真っ直ぐ前を見据えて走る。整備なんて全然されていない森の奥の奥、そのボロ家はあった。
「○○!!!」
ずっとずっと会いたかった人の名を呼びながら、叩きつけるように扉を開け放つ。
ボロボロの扉から金具の歪む嫌な音がしたが、気にしない。
電灯の一つもついていない薄暗い部屋の中をきょろきょろと見渡しながら「○○!」と声を張り上げる。
○○は俺の大事な人だった。学生時代に互いの想いを告げた、俺にとって最も愛しい人。
此処に来る前リーマスから聞いた話では、俺がアズカバンに収容された後、俗世との関わりを絶つかのように人里から遠く離れた場所で生活を始めたらしい。
煙突飛行を妨害する魔法、この家から数百メートルは箒ですら乗れなくなる魔法、様々な魔法が混濁して結局俺は自身の脚で此処まで来ることとなった。
肩で息をしながらも部屋の中を見渡す。
埃っぽくて蜘蛛の巣も張っていて、床には割れた皿や誇りを被った本が散乱している。
本当に此処に彼はいるのだろうかと不安に成り始めた頃・・・
「・・・シリウス?」
薄暗い部屋の奥から声が聴こえた。
少しかすれているように聞こえるが、その声は記憶の中にある彼と同じだった。
部屋の奥から何かがやってくる。俺は逸る気持ちを抑えきれずその人影へと駆けた。
「○○っ!」
出て来た人影に抱き付けば、人影がびくりと震えた。
「シリウス、どうして・・・君は、アズカバンにいたはずじゃ・・・」
「いろいろあった。後で話す」
背に回した腕。そこで気付くのは、○○が随分細くなっていたということだ。
俺も随分細くなった自覚はあるが、○○も十分痩せ細ってしまっている。
ちらりと○○を見上げれば、髭は生えてるし隈は酷いし髪はぼさぼさだし・・・
「凄い格好だな。綺麗好きな性格は変わっちまったか?」
からかうように言えば○○の顔がくしゃっと歪んだ。
「君が居なくなって・・・何だか、自棄になっちゃって・・・」
その言葉に不謹慎ながらも喜んでしまった。
俺がいなくなったから、眠ることも食べることも満足に出来ず、こんなにボロボロになったのか。
俺がいなくなったから、俗世とも古くからの友人達とも関わりを絶ち、こんな場所で一人暮らしていたのか。
「ははっ、ちょっとワイルドになったな」
「・・・シリウスも大して変わらないじゃないか」
へにゃっと笑うその目は何も変わってない。
「○○・・・ずっと、会いたかった」
「っ、僕もだよ、シリウス」
ぎゅぅっと抱き締められる。少し苦しかったが、それよりも胸にこみ上げてきた愛おしさに頬が緩んだ。
ぽろりぽろりと涙を流す○○に、あぁそう言えば彼は昔から涙もろかったと思い出す。
汚れた服の袖でぐいっと涙を拭い「会いたかった」と笑う。その笑顔に俺まで泣きたくなった。
「シリウス・・・僕は、君が傍にいてくれれば、それで良い。君を愛してるんだ」
「俺だってそうだ・・・○○が待っててくれてるって信じてたから、此処まで来れた」
ふいに俺の口が塞がれる。
目の前には○○の顔があって、あぁキスされたのかと理解した。
ずっとずっと○○と触れ合いたかった。俺は○○の首に腕を回し、そのキスに応える。
しばらくしてゆっくりと離れた唇。○○は愛おしそうな目をして俺の頬を撫でた。
「シリウス・・・ごめん、君が愛おし過ぎてたまらないんだ」
「奇遇だな、俺もだ・・・お前が愛おし過ぎて、どうにかなっちまいそうだ」
互いに強く強く抱き締めあって、キスをしてまた抱き締めあって・・・
いっそ一つになれたらと思う程、俺は○○と触れ合う。
「愛してる」
「俺も」
そして一緒にいられなかった空白の時間を埋める様に、何度も何度も愛を囁いた。
空白時間の埋立て作業
ぐぅっと腹の虫が鳴いた。
どちらともなく鳴ったその音にお互い顔を見合わせると、可笑しそうに吹き出す。
取りあえず何か食べよう。あぁ、その前に電気を付けて、部屋も綺麗にしよう。ちょっと髭を剃ってくる。
そんな、なんてことない会話をする二人の表情は穏やかだった。
あとがき
毎度毎度、甘い話の難しさに泣きますorz
・・・シリウスには、というかあの物語に出てくる登場人物全員に幸せになって欲しいですね。