「貴方に審神者の適正があることがわかりました」
つきましてはこの書類にサインを――
政府の役人はぽかんとするこちらを全く気にせず言葉を続けた。
拒否権が無いわけではない。しかし、折角能力があるにも関わらずそれを国のために使わないのは国民としてどうなのか。・・・まぁ、暗に『拒否したら非国民』だと告げられた。
気弱な僕が拒否できるわけもなかったんだ。
元々僕は自分に自信がなかった。
審神者となり、刀剣たちの主となり・・・
審神者として一応は頼られる立場になったが、やっぱり自信がない僕。
能力不足で刀剣たちに辛い思いをさせたらどうしよう。何か取り返しのつかないことが起こったらどうしよう。そんなことばかり考えていた。
毎日毎日怯えながら続ける審神者業。
こんな出来損ないの主だけど、刀剣たちは吃驚するぐらい僕に優しくって・・・正直僕には勿体ないぐらい素敵な子達だった。
刀剣たちの素晴らしさを知ると、もっと怖くなった。
こんなに素晴らしい彼等の主として、僕はちゃんと出来ているだろうか。不自由させてはいないだろうか、他の審神者はどんな風に彼等に接しているのだろうか。刀剣たちから優しさを受ける度、僕の臆病は助長された。
そんな中、政府から演習に出るよう言われてしまった。
今までは自分に自信がないせいで誰かと比べられるのが怖く、なかなか演習に参加出来なかったんだ。
演習は自分以外の審神者やその審神者のもとにいる刀剣たちと出会う場所でもある。
きっと、僕よりずっと素晴らしい審神者が沢山いるだろう。折角自分を頼ってくれている刀剣たちが、そんな他の審神者を見て僕に失望してしまうかもしれない。
怖い怖いと思って避けてきたのに、政府はそれを許さない。
「大丈夫だよ、主。俺がついてるから」
「・・・加州」
結局演習に出ることになってしまい、一人震える僕に声をかけてくれたのは加州だった。
初期刀の加州はどの刀剣より長い付き合いで、自分に自信がないじめじめした僕を笑顔で励ましてくれる、とても優しい刀剣。
「他の奴等も、主に良いトコ見せようって張り切ってるんだからさ」
「・・・うん」
今日の演習メンバーから絶対に勝つから期待しておいて欲しいと口々に言われたのを思い出す。
こんな弱きな主なのに、彼等は一生懸命支えようとしてくれるんだ。本当に、僕には勿体ない素敵な子達。
彼等はあんなにやる気になってるのに、僕ときたら・・・
「あっ、また俯いてる。あんまり俯くと、猫背になっちゃうよ?」
ほら、背筋伸ばして。そう言って加州が僕の背を撫でる。
「背筋を伸ばしたら胸を張って、主。主なら大丈夫。だってこんなに素敵なんだもん、余所の刀剣だってメロメロになっちゃう」
ホントは俺以外の奴が主に惚れるのは嫌だけどね、なんて付け足して笑う加州にほんのり笑った。
励まそうとしてくれているのがわかる。それが嬉しくて、素直に「有難う、加州」と言った。加州も嬉しそうに笑った。
「俺、主の笑顔が大好き。優しくて温かいから」
「・・・僕も、加州の笑顔が好きだよ。きらきらしてて、僕の陰鬱な気持ちを吹き飛ばしてくれる」
「ふふっ、俺の笑顔で主を笑顔に出来るなら、いくらでも笑うよ」
にっこりと笑う加州の頭をそっと撫でれば桜が少し舞う。こうやって、喜びを素直に表現してくれるところも嬉しい。
他の刀剣たちだってそう。感情を素直に表現してくれる彼等に、何度も救われてる。
「ほら主、そろそろ行こう」
「・・・うん」
緊張でぐっと拳を握れば、それを解く様に加州の綺麗な指が僕の拳を撫でる。
「手、握りしめて白くなってる。握り緊めるなら、俺の手にしてよ。ねぇ、主」
ほんのり頬を桜色に染めて笑う加州に、僕はちょっと俯いた。今度は陰鬱な気持ちからじゃなくって、恥ずかしさからだったけど。
僕の素敵な刀剣
演習終了後、加州が「主ー!」と声を上げながら駆け寄ってきた。何やら興奮しきったように頬を紅潮させている。
「ねぇ主!余所の審神者から聞いたんだけど、主って実は有名人らしいよ!」
「えっ・・・?」
「俺も全然知らなかったけど、俺達の本丸の戦績って結構上位に食い込んでるらしくってさ。なのに演習に全く姿を現さないから、皆好き勝手想像しちゃって、もはや主は生きた伝説レベルの人って扱いなんだって!」
「は、初耳・・・」
「流石は俺達の主!やっぱり主が一番だね!」
流石に生きた伝説扱いには驚いたけど、嬉しそうに笑って僕が一番だと言う加州と他の刀剣たちの姿に、胸のつっかえが少し取れた気がした。
・・・ちょっとは自信出た、かも。