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「やっぱりッ、可愛くなくちゃ愛されない・・・捨てられちゃうんだッ」



しくしくと泣く加州君に俺ったら気付いてしまった。

あ、この子・・・元カノに似てる、と。




初対面の時から薄々思っていたのだ。

手入れの行き届いた綺麗な黒髪とマニキュアで彩られた形の整った爪。


・・・そして一番はその性格。


どんなに愛してると言っても本人が納得しない。自分は実は愛されてないかもしれない、気を使われてるのかもしれない、時折その考えが爆発して鬱状態になる・・・そんな感じ。

彼女はトラウマ持ちだった。前の彼氏に地味だと言われて捨てられた。初めて本気で愛した人からの裏切りはその心をずたずたに引き裂き、次の彼氏である俺との関係にも大きな影響を与えた。



加州もトラウマ持ちだ。彼の刀としての経歴を見れば、そのトラウマの原因がよくわかる。

俺は元カノを愛していたし、加州も相棒として非常に信頼している。が、二人共理解してくれないのだ。


俺が少しでも彼女以外の女性と話せば彼女は泣き叫んで「本当はこんな地味女、嫌々してるんでしょ!?」と訴えかけてきたし、加州に至ってはほんの少しの軽傷でこのザマだ。



普通ならすぐに心が折れるだろう。ぽっきりと。

だが俺は生まれ持っての細かいことは気にならない適当な性格をしており、大体は「大丈夫だよー」と割と冷静な気持ちで元カノを宥めることを出来た。


泣き叫んだ後のしばらく、ようやく落ち着く彼女は普通に出来た良い彼女だったし、俺としては彼女との日々を大事に大事にしていた。だが、残念なことに幸せはそう長くは続かない。


俺が審神者に選ばれたことで彼女のコンプレックスは爆発したのである。

特別な貴方と馬鹿で愚かな自分。そんな風に思った彼女は・・・





『貴方の人生の“汚れ”になりたくないの』





そう言って俺に別れを告げ、何時の間にやら死んでいた。何時死んだのかはわからない。彼女と別れた俺は早々に他人で、葬儀が終わった大分後に彼女の死を知ったのだ。

彼女の死を知った後からかな、ただでさえ元カノに似てると思っていた加州が更に似ていると思うようになった。








「加州」

「っ、あるじっ、捨てないで・・・俺を捨てないで、主ぃっ」


ぼろぼろと泣きながら必死に懇願する加州。この言葉、今週だけで何度聞いたことだろうか。




「お前を捨てるわけないだろう?俺、物持ち良いんだ」

「でもっ、傷付いちゃったし・・・爪もぼろぼろだし、こんな汚い刀・・・」


あぁ、元カノと被る。



言っちゃなんだが、怪我したら手入れで直せば良いし、爪だって塗り直せば良いし・・・男の俺にはそのこだわりがわからない。あ、加州も男か。


加州が「捨てられちゃう」とか「こんなに可愛くない俺」とか言う度に、元カノを思い出して仕方ない。

別れ方は悲惨だったし、俺としては元カノと結婚したいなとも思っていたし、何というか・・・散々だなぁ。




「何で。お前は何時だって努力してるし、それに見合うだけの美しさがある。そんなお前を捨てる訳ないだろう」

「で、でも・・・」


「折角綺麗なんだ。もっと自分に自信を持っても良いんじゃないか?」


何を言っても無駄なのはわかってる。元カノで学習済みだ。

けれど言葉を止めてはならない。語学力がそこまで高くない頭をフル回転させて、地雷を踏まないような言葉を選びに選び抜いた上で相手を褒めちぎらなくてはならない。高難易度だが、これも元カノで経験値は大分積んでいる。



「俺はお前を誇りに思ってるんだ。お前みたいな綺麗な刀を初期刀に迎えることが出来て、何度も感謝した。それなのに、お前は自分を卑下するのか?」


此処でちょっと悲しそうな顔をするのがミソだ。

案の定加州は悲しそうな顔をした俺に慌てたように「ち、違うよ主・・・」と首を振る。





「違うなら、俺の言葉を聞いてくれ。な?」

「・・・うん」


少し伏せられた目は潤んでいる。あぁ、元カノとここまで被るなんて数奇な運命とはこのことか。

俺の目の前にいるのは加州だ。けれど、頭の中では元カノの姿が加州どダブる。



加州は俺の元カノなんて知らない。俺だけが知ってる、俺だけの元カノ。

あの日元カノを無理やりにでも引き留めていれば、何か変わっただろうか。泣かれても喚かれても、何度でも愛を叫べば、何か変わっただろうか。


・・・どんなに考えたって答えは出ない。けれど俺の口は動く。






「愛してるよ、加州」


どんなお前でも、愛してる。

その言葉にやっと笑みを浮かべてくれた加州に、心の中で謝った。









ごめん。

俺はどうやら、お前と元カノを重ねてみているらしい。






代わりを求める





そして俺は今日も、あの日満足に言ってやれなかった“愛の言葉”を元カノと酷似している加州へとぶつけ続ける。



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