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※頭可笑しい審神者注意





最近流行ってるらしいね。ブラック本丸。


え?流行ってる違う?あははっ、そっかそっか。僕ってばうっかりさんだね。



でー、そのブラック本丸で僕は何をすれば良いの?

ふむふむ、傷ついた刀剣たちの身元引受ぇ?ねぇねぇ、ちなみに僕の前の審神者ってさ、どうなったの?

あはっ、だよねー。前の審神者が消えちゃわなきゃ僕が審神者になるわけないもんねー。

わかってるよー、その子達は心に傷を負った可哀相な可哀相な刀剣なんでしょ。僕だってそれぐらいわかるよー、失礼だなぁ。




それにしてもさぁ、政府はその職場の安全を確認してるのかなぁ?あ、死ぬ可能性あり?あっははー、このか弱いか弱い僕にそんなことを頼むなんて、政府って鬼っ畜ぅ。

いいよいいよ、スリルはあるに越したことはないしねぇ。ほら、僕ってば楽しくなきゃ死んじゃう兎ちゃん体質だからぁ・・・え?寂しくての間違いだって?あははっ、こりゃ一本取られたよ。



ん?そろそろ行くの?

えー、やだなぁ、僕ってばもうちょっと君とお喋りしてたいよ。


というかさぁ、他の審神者は最初に刀を選べるよね。それも無いの?えー、残念だなぁ。僕、山姥切ちゃんとか選びたかったのに。何でって?そりゃもう、虐め涯がありそうだし・・・えー、何で怒るのぉ?


うんうん、わかってるよ。刀剣たちの前では今みたいなこと言っちゃ駄目なんでしょ。嫌だねぇー、冗談が通じない相手ってば。













「こんにちはー。本日より君達のNew審神者になったウルトラスーパー愉快な山田太郎かっこ仮でぇーす。ちなみに偽名でーす。あはっ、皆ぼろぼろだねぇー、手入れする者この指とーまれっ・・・って、そんな元気もないかぁ、僕ったら極度のうっかりさん。とりあえず今僕の背後にたって僕の首を斬り落とそうと刀を構えた君から治療でもしようか・・・ね?」


ぐるんっと振り返った。びくりと身体を震わせるその子の手にある刀に手を伸ばした。

がしりと刀を掴む。刃の部分だったから、手がぱっくり切れた。


足元で僕を此処に案内してくれたこんのすけ君が「審神者様ぁ!?」と叫んでる。あ、血が流れてるー、真っ赤だなぁー。

まさか僕が刀を握ってくるとは思ってなかったのか、刀剣くんがおっかなびっくりの顔で僕と刀を何度も見返している。あ、面白い。





「君の名前はー?あははっ、僕のことは気軽に花子ちゃんて呼んでねぇー。あれ?僕の名前って田中だっけ?んん?」

「か、刀から手を放してくれない?」


「えー、放してって言われたら放したくなくなっちゃうよー、僕ったらお茶目で可愛い天邪鬼ちゃんなんだからー。それにしてもこの刀なんか切れ味悪いねぇ、早く手入れしよっかー、あははっ、手が痛いよぉ、こんのすけぇ、凄い血が出てるよぉ、僕なんか泣いちゃいそうなんだけど、今此処で大号泣したらティッシュ大量に持ってきてくれる系?慰めてくれちゃう系?きゃー、見てみてこれ、力入れれば入れるだけ血が出てくるぅー」

あ、僕の血って案外綺麗かも。でも痛いよー。



あははははははははっ、と・・・実に“無表情”で語る新たな審神者に、彼等は戦慄していた。













何だかんだでその後、名前は燭台切を始め全ての刀剣たちを手入れした。ちなみにその間、刀を握りしめた手は真っ赤だった。


最初こそ、この変人審神者に距離を置く刀剣がほとんどだった。敵意を向けていた者もいる。

しかしながらこの審神者、全くもって気にしない。気にしないどころか、見当違いのことを言ってはその頭の可笑しさを露見させた。


それが何度も繰り返し、何時の間にやら短刀たちと一緒に遊んでいる姿を目撃され、何時の間にやら他の刀剣たちにも話しかけられている姿を目撃され・・・





要は慣れたのだ。この頭の可笑しい審神者、名前に。



ある者は名前のことを変だけど優しい人と言う。ある者は好奇心旺盛な子供がそのまま大人になったようだと言う。

名前は変人であったが、けして刀剣たちに暴力を振るうことはなかった。それどころか、自分に襲い掛かってきた刀剣たちを笑顔で受け入れた。


あははーっ、何なに皆、僕に向かってくるなんて、僕ってばもしかして今モテ期?あっはー、なにそれうっれしー。

ちなみにこれは、肩に刀をぶっ刺されながらの台詞である。


その後すぐにこんのすけと・・・実は早々に名前に慣れ始めていた薬研に治療され、事なきを得た。ちなみにこのことがキッカケで、刀剣たちの大半が彼の事を『ただの変人』と認識したのは言うまでもない。








そうして今、案外順調な審神者ライフを過ごしている名前にはお気に入りがいた。




「燭台切ちゃーん、お腹空いたぁ、ねェ聞いてるぅ?お母さ〜ん」

一番初めに自分を傷つけ、一番最初に自分の怪我を心配してきた刀剣、燭台切である。


彼は元より家事が得意で、名前が審神者としてやってくる前から料理を中心として家事を担当していた。その燭台切の料理にがっちり胃袋を掴まれたのが名前。

直後、燭台切の後ろを付いて回っては「これが親の後ろをついて行くひよこの気分かぁ、あ、僕ってばひよこあんま好きじゃなかったわぁー、前に物凄い勢いで突かれたんだよねぇー、僕は虎ちゃんの方が好きだよー、ねぇ虎さん」と短刀の一人の虎を抱っこしていた。




「お母さんじゃない!後、戸棚の中におやつあるから勝手に食べてて!今忙しいんだからね!」

キッ!と名前を睨みつけて言うが、その中身は大分優しい。早々に絆されたのも燭台切だ。




「わーい、おやつぅー、でもママンが冷たくってしょっくぅー」

「あんたが干してたシーツを全部馬糞塗れにしたからでしょう!?」


「審神者の僕ちゃんを『あんた』だなんて、燭台切ちゃんってばやるねぇー。流石ママン、将来はママンと結婚しよーっと。あはっ、言っちゃった〜」

その言葉にがくりと肩を落としながら桶の中のシーツを洗濯板で擦る。


馬糞は粗方落としたが、どうにも臭いが残っている気がして、なかなか洗い上がらない。






「ほんとッ、こういうことするのは止めてって言ったよね!?」

「鯰尾ちゃんが馬糞について熱く語るから、ノリノリで馬糞投げ大会しちゃったー」


「・・・後であいつも説教だな」

燭台切が見た時、あの悲惨な場所には名前しかいなかった。おそらく名前を置いて逃げたのだろう。

見つけ次第、一期一振にもお願いして十分に説教しなくては。



名前は名前で反省している様子は見られず「鯰尾ちゃんに、筋が良いって褒められたよー、あははっ」とやはり無表情で声だけ笑っている。

その様子に軽く青筋を浮かべる燭台切。何度目かの洗濯を終えた時、漸く馬糞の匂いが消えた気がした。

それを見計らったのかそうじゃないのかは名前にしかわからないが、作業が終わった燭台切に「ねぇー」と声をかける。





「燭台切ちゃん、燭台切ちゃん」

「・・・はいはい」


もう諦めたと言わんばかりに返事をしながらシーツを干す。彼の元々高かった家事レベルは最近一気に上がっている。

名前は無表情ながらも「ふふふっ」と声で笑う。



名前は変人。頭がおかしくって、話がイマイチかみ合わなくって、けれど暴力は振るわなくって、自分の怪我に無頓着なせいで割と周囲を慌てさせて・・・

とんでもない審神者が来てしまったと、彼等は言う。しかし――






「今日の晩御飯はハンバーグが良いなぁー。燭台切ちゃんの料理、僕大好きぃ」

何だかんだ言って・・・




「・・・わかったよ、主」

少しずつ、彼を『主』と呼ぶ刀剣が増えていっているのは、確かな話だ。





ネジさんは忘れてきました






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