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自本丸の第一部隊を連れて政府が管理する演練会場へとやってきた。

とりあえず本番までは時間があるからと自由行動を言い渡せば各自その場を離れていった。

政府の目がある場所だからって気を抜き過ぎ?確かにそうかもしれないが、今は少し一人になりたかった。

刀剣たちとの関係は悪くない。毎日そこそこ面白おかしい審神者生活を送っている自信はある。

でも不思議と、たまに唐突に一人になりたいときがある。本丸だとどうしても刀剣たちの目があるから、演練に来た時にこうやって刀剣たちに自由行動をさせてやる融通の利いた良い主のフリをして、一人になる。

まるで発作のようなそれは、しばらくすれば収まる。今日はそうだな、本番の時間までには収まっていてくれるだろう。



「隣、良いだろうか」

休憩所のソファに腰かける俺の頭上から声がする。声に釣られて顔を上げれば、そこにはうちにはまだいない鶯丸の姿があった。

うちの刀剣たちと同じで審神者から離れた自由行動をしているのだろうか。でもよりにもよって、今の俺に近づかなくても良いだろうに。

だが他所の刀剣とはいえ邪険にすることは出来ず、短く「あぁ」とだけ返事をした。鶯丸は俺の返事を聞くとそのまま隣に腰かけた。


何をするわけでもなく、ただ隣に座っている鶯丸。数分の間は何とか耐えられたが、しばらくすれば何故こいつは隣にいるんだ、何故立ち去らないんだ、という疑問が湧いてくる。

ちらりと横を見た。驚くことに鶯丸は俺のことをじっと見つめていた。

「何だ?」

「いや。辛気臭い顔をする審神者だと思ってな」

にこりと笑う鶯丸に曖昧に笑う。失礼な奴だ。


「自由行動か?自分の審神者のところに戻らなくても良いのか?」

「あぁ、平気だ。今は他のが相手をしているから。そっちは?」

「自由行動させてる。俺も見ての通り、一人でゆっくりしてたんだ」

言葉でははっきり言わないものの「俺は一人になりたい」という思いを言葉に込める。鶯丸にはおそらくそれが伝わっているはずなのに、鶯丸は素知らぬ顔で「そうか、羽休めもたまには必要か」なんて言いながら頷いている。

もう俺自身がこの場を離れて何処かへ行ってしまおうか。いや、あいつらには俺は此処にいると言ってあるし、下手にこの場を離れてしまえばあいつらも困るだろう。

少し浮かせかけた腰を仕方なしに元に戻せば、鶯丸の方からくすりと小さな笑い声が聞こえた。ちらりと見れば、口元に手を当ててくすくすと笑っている。

元々が綺麗な顔立ちであることに加えて上品な仕草で笑うものだから、こいつを求める審神者が多いのも頷ける。だが今は鬱陶しいことこの上ない。


「何を笑ってるんだ」

「ふふっ・・・俺が傍にいるのが嫌で嫌でたまらないという顔をするから、面白くてな」

「それがわかってて此処に居座っているなら、随分な性格だな」

舌打ちこそしなかったが、随分忌々し気な声が出てしまった。流石に失礼だっただろうか。

しかし鶯丸は気を害した様子もなく、それどころかキラキラとした楽しそうな目で俺を見つめていた。


「新鮮な反応だ。そんな反応をしたのはお前が初めてだ」

「もしかしてお前は、演練に来るたびに他所の審神者にちょっかいをかけているのか」

「まだ俺と縁を結んでいない審神者は見ていればなんとなくわかる。大体の審神者は、俺が話しかけるとそれはもう嬉しそうにしてくれるぞ」

そんなことが出来るのかと内心驚くが、古ければ古いほど力を増す神もいると聞くし、出来ても可笑しくはないか。

「そりゃそうだ。他所のとはいえ自分のところにいない刀剣に好かれれば、なんかご利益ありそうだし」

「ご利益か。それにしては、お前は嬉しそうじゃないな」

そういうお前は随分楽しそうだな、という言葉を飲み込み「そうでもないさ」と社交辞令を一つ。つい邪険に扱ってしまいそうになるが、我慢だ。


「難しい顔をしているな。茶でも飲んで落ち着いたらどうだ」

自販機があるぞ、なんて言いながらソファ正面の自販機を指さす鶯丸。お前が立ち去ってくれれば解決するんだがな。

俺の思いが通じたのか突然鶯丸がソファから立ち上がる。このまま立ち去ってくれると有難いと行動を見守っていると、鶯丸は自販機の前に立った。

「俺はこれが良い」

「帰れ」

思わず本音が出た。鶯丸は「ふふふっ」と楽しそうに笑っている。


「ペットボトル一本ぐらい良いじゃないか」

「自分の審神者に強請れ。・・・ったく」

とんだ刀剣に絡まれちまったなと思いながら頭をがしがしと掻く。

もう隠すことなくため息をつきながら懐を漁り、小銭入れにしている巾着を取り出す。それを手にソファを立ち自販機に近づけば鶯丸がにこりと笑いながら首を傾げた。

「ん?買ってくれるのか?」

「買ってやるから、そのままどっか行ってくれ」

「ボタンは自分で押すぞ」

うるせぇよ、と思いながら自販機に小銭を入れると鶯丸がボタンを押した。直後割と大きめの音を立ててペットボトルが一本取り出し口に落ちてくる。

取り出し口からペットボトルを取った鶯丸はそれをずいっと差し出してくる。


「開けてくれ」

「甘えんな、お前の腕力なら普通に開けられんだろうが」

「良いじゃないか。開けてくれ」

面倒くさいやつだな糞が、と思いながらペットボトルを受け取っているとその後ろを見知らぬ審神者が通り過ぎた。全然知らない審神者だしおそらく鶯丸の主でもないだろうが、たぶんだが今俺たちの傍を通り過ぎた審神者には俺たちが主従に見えたんじゃないだろうかと、ふとそんなことを思った。

「早く開けてくれ」

「・・・あー、くそ」

キャップを捻ればパキパキという音と共に開く。ほら、と鶯丸に渡せば「すまんな」と笑ってソファへと戻った。

「どうした、お前も早く座れ」

ぽんぽんと当然のように自分の隣を叩く鶯丸に俺はもう半ば諦めのような気持ちが湧いてくる。


折角の一人の時間を邪魔されてはしまったが、あと少しもすれば本番が始まる。それまでの辛抱だ。

隣に腰かければ鶯丸がペットボトルに口を付けてごくりとそれを飲む。

「うん、悪くない」

「そりゃよかったよ」

「お前も一口どうだ」

「いらねーよ」

「そう言うな。辛気臭い顔をしたお前へのせめてもの労いだ」

余計なお世話だし、そもそもお前が立ち去ってくれれば良いだけの話だぞこれは。

ずいずいと俺にペットボトルを突き付けてくる鶯丸が鬱陶しくって「わかったよ、くそが」と口汚く返事をしながらそのペットボトルを受け取る。受け取ってそのままぐいっと煽ってやれば、鶯丸は笑顔で頷いた。

「これで満足かよ」

「うん、良い飲みっぷりだ」

何が嬉しいのかにこにこにこにこと笑っている鶯丸にペットボトルを突き返せば、鶯丸はそれを何故だか大事そうに受け取った。

ちらりと時計を見れば、そろそろ本当に本番が近い。すると少し離れたところから「主ー!」と呼ぶ声が聞こえた。見れば俺の刀剣たちがこっちに手を振っている。ちゃんと時間通りに戻ってきたらしい。


「・・・そろそろ本番だ。お前も自分の審神者のところに戻れ」

「あぁ。そうしよう」

ペットボトルを胸に抱えながら鶯丸はあっけなく俺の傍を離れていった。まぁおそらく、あっちは暇つぶしに俺をからかっていたのだろう。まったく、面倒且つ迷惑な刀剣だ。


「主、今のは?」

「あぁ、厄介なのに絡まれてただけだ。皆、本番は気合い入れろよ。買ったら御馳走、負けたら馬屋掃除トイレ掃除風呂掃除の掃除三昧だ」

さっきまでの陰鬱な気分を吹き飛ばして笑いながら言えば、刀剣たちは気合いの入った顔つきで返事をした。





あの演練で見事に勝利を収めた数日後。

担当の方から折り入って相談があると連絡があった。

普段から世話になっている担当からの何処か切羽詰まった様子の言葉を無化にはできずにそれに応じれば、担当は思わぬ存在を連れて俺の本丸へとやってきた。

「鶯丸だ。今日から宜しく頼む」

「宜しくって、お前・・・」

それはあの時の鶯丸だった。姿かたちはどの鶯丸とも同じだが、話した感じだとどう考えたってあの時の鶯丸だった。

当然のように座布団に腰かけ茶を啜っている鶯丸の隣で終始申し訳なさそうにしていた担当曰く、鶯丸の元居た本丸はほんの数日前、演練で出会ったその次の日にその機能を失ったらしい。

細かい事情はわからないが、既にこいつの元主は政府によって身柄を拘束されており、現在その本丸の刀剣たちは刀解され本霊へと還るか何処かの本丸に引き継がれそのまま戦うかと選ばされているらしい。

そんな中でこの鶯丸はピンポイントで俺を指名してきたらしく、担当は慌ててこの場を設けたそうだ。


「どうやって、いや、そもそも俺はお前を引き取る気なんざ・・・」

「縁を結ばせて貰った。お前は俺を、俺はお前を、その口に含んだだろう?」

思い出すのはあの時飲み回したペットボトルのお茶。あの時か、と顔を顰めれば鶯丸はにこにことあの時のように笑った。

おそらくだがこいつは、自分が気に入りそうな審神者を演練のたびに物色していたのだろう。俺のどこがこいつの琴線に触れたのかはわからないが、面倒ごとには変わりない。


「悪いが俺は引き取る気はないぞ」

「いいじゃないか、けちけちしないでくれ」

お茶のおかわり貰えるか?なんてのんきに笑うそいつにイライラしつつ「ケチとかそういう問題じゃねーだろ」と言いつつ湯呑に茶を注ぐ。

「お前は鬱憤を溜めやすいだろう。俺なら大抵のことは受け止められるぞ」

「勝手に俺をサンドバック欲しがってる感じにすんな」

「さんどばっく?」

「精神的もしくは肉体的にいじめるってことだ」

「殴られるのは嫌だな」

「俺も嫌に決まってんだろ。美人のお前を殴ったら完全に俺が悪役じゃねーか」

にこにこと笑っていた鶯丸が首をかしげて俺を見る。


「美人?お前はそういうのには興味がなさそうにみえたが、俺が美人に見えるか?」

「刀剣は種類は違えど総じて美形だろ」

「そうかそうか、お前から見て俺は美人で美形か」

何やら満足そうに頷いてはいるが、可愛げでいったらこいつは最悪な方だ。

「ところで俺は、今日から何処で眠れば良い?主の部屋でも良いぞ」

「引き取り拒否してんだろうが」

さりげなく俺のことを主呼びし始めるんじゃねぇ。


「そういえばこの本丸の景観は春なんだな。この景観を見ながらの茶も悪くないな」

「たらふく飲ませてやるから帰れ」

「担当よ、今日は此処まで案内してくれて感謝する」

勝手に話をまとめようとすんな。担当困りまくってるだろ。

おろおろしながら俺をちらちら確認する担当。その顔色が悪く、こいつを此処に連れてくるのも相当躊躇したのだろう。だったらそのまま連れてこないでほしかったというのが本音だが、可哀相なぐらい挙動不審な担当を責めるつもりはない。

だが鶯丸、お前はダメだ。隠すことなくじろりと睨めば、鶯丸は「そんなに見つめられたら流石の俺も照れてしまうぞ、主」なんて言い、そそそっと俺の方に近づいてきた。

「おい何だよ」

俺に近づき、無遠慮に俺の体にしな垂れてくる鶯丸。やめろ、担当が見ちゃいけないものを見ちゃったみたいに顔を赤くしてんだろうが。

「いいじゃないか一本ぐらい増えたって。けちけちするな」

こいつ、ついに自分をペットボトルと同じ扱いしやがったぞ。


「なぁいいだろう。貰ってやってくれ」

「別に俺じゃなくたって良いだろう。他をあたってくれ」

「お前が良い。お前じゃなきゃ俺は刀解を選ぶぞ」

三日月ほどじゃないにしても、お前が来てくれれば喜ぶ本丸なんていくらでもいるだろうに。

「あー、くそ。お前すっげー面倒くさい」

「小さいことは気にするな」

「小さくねーよ」

おそらくだがこいつは何を言おうとも此処に居座る気だろう。

俺は担当の方を見て「仕方ないんで、こいつ引き取ります」と言う。すると担当は心底申し訳なさそうな顔で「突然このようなことになり、申し訳ありません」と綺麗なお辞儀を見せてくれた。俺は担当さんも俺と同じでこいつの被害者だと思うから、頭を下げる必要なんてないと思うが。

鶯丸を置いて担当が帰っていくと、俺にしな垂れたままだった鶯丸が俺を見てにこにこ笑う。自分の思い通りになって心底満足している様子だ。



「どうする主」

「何がだよ」

「さんどばっく、するか?」

「しねーよ、ぶさけんな」

にこにこと上機嫌な笑顔で馬鹿なことを聞いてくる鶯丸の頭を思わずはたいた。

あいたっ、とか言いながらもにこにこと笑ってるんだから、こいつはやっぱり面倒だ。






押し入り刀剣





「今日から主のさんどばっくになる鶯丸だ。宜しく頼む」

「ふだけんなよ手前」

満面の笑みで他の刀剣たちに誤解を生むような発言をする鶯丸に俺は盛大に顔をひきつらせた。


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