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歴史修正主義者が憎くて憎くてたまらない。



結婚を明日に控えた妹が消えた。妹の夫になるはずだった好青年は妹のことなど忘れ、ただの他人に成り下がった。

小さい頃から一緒に刻んだはずなのに、実家の柱の傷跡は僕の分しかなかった。

家族で一緒に撮った写真には、妹がいたはずのスペースだけ何もない。


妹は何処にもいない。



「殺そう」



そうだ、殺そう。

妹をこの世の歴史から消し去った歴史修正主義者を殺すんだ。


その首を刎ねてやろう。その腕を足をいで、内臓をぶちまけさせて、晒して崩して、最後はトイレに流して捨ててやろう。

僕は歴史修正主義者への憎悪に従い、審神者に志願した。


初期刀と初期短刀は理解者だった。少しずつ増えてくる仲間も理解者だった。そのはずだった。


歴史修正主義者を切り刻み続けて数年、ある日政府から見習いが送り込まれてきた。

僕と違って、穏やかに笑う少女だった。

戦争なんて知らない、何のために戦っているかなんてわからない、純真無垢を体現したような・・・戦場において場違い過ぎる、清らかで可愛らしい少女だった。



刀剣達は少女によく懐いていた。

出陣後、僕に手入れされるとすぐに少女の元へ行き、その日の活躍を身振り手振りで伝えていた。少女に褒められ頭を撫でられると、心底嬉しそうに笑っていた。


手慣れた僕が作る黄金色の刀装より、少女が拙い手つきで作った翡翠色の刀装の方が随分と喜ばれた。

僕の傍にいる時の緊張しきった顔は一変、少女の居る時の彼等は『人らしい』顔をしていた。


気付いた頃にはもう、僕の傍に居る刀剣はいなかった。

見習いが申し訳なさそうな顔で言う。




「貴方は彼等の主に向いていません。どうか、ブラック審神者と政府に勧告されるその前に、御心を入れ替えてください」




こんなに殺意が沸いたのは、妹が消えたあの日以来かもしれない。

僕の殺意の気配に気付いた僕のだったはずの刀剣達が彼女を守る様に前に出る。


随分とまぁ、仲良くなったものだ。

そんなにこの少女が良かったか。そうか、そうか。



戦うのは嫌だったか。毎日毎日、歴史修正主義者を血祭りに上げる生活はそんなに嫌だったか。今後の歴史修正主義者の動きに目を光らせ、常に気を張る生活はそんなに嫌だったか。そんなにそんなに、戦争は嫌だったか!


「歴史修正主義者は敵だ。その殲滅の邪魔をする者は非国民だ。お前は歴史修正主義者の回し者か?そうなんだろう?だからそうやって戦うべくして呼び起された彼等から闘志を奪い去り、ただの鈍らに貶めようとしているんだろう!そうだろう!あぁ、なんということだ!僕の本丸が、僕の武器が、歴史修正主義者の手に落ちてしまうなんてッ、あぁ、あぁ・・・罪人は殺さなければ」


気付けば僕は取り押さえられていた。

少女と同じく温かな雰囲気を纏った政府の役人が「間に合って良かった」と胸をなでおろすのが視界の端に見える。



「刀剣達に対する不当な扱い、正気の沙汰ではありません。彼等は神様なのですよ、だから――」

何かをぺらぺら喋っている。意味が理解できない。


何だ、ついに歴史修正主義者は政府にまでその魔の手を伸ばしていたのか。何たることだ!政府も腐っているのか!

このままではっ、このままでは世界は終わりじゃないか!妹のように消えてしまう人が、僕のように残される人が、これからも増えてしまうのか!


なんてことだ!なんということだ!



「っ、ぅ・・・」

「兎に角、貴方には一度カウンセリングを受けて頂き、その後、審神者としての在り方を一から学んでいただきたく――」




「小夜ッ!!!!!」




僕は大きく叫んだ。

江雪と宗三の背中に隠されていた青い髪の子供が「主っ」と声を上げてこちらに駆け寄ろうとする。それを他の刀剣共が止める。


刀剣達の中でも、僕のことを一番理解してくれた小夜。

僕は懇願するように小夜を見た。


「小夜っ、小夜、見てくれ!歴史修正主義者がこんなにいるっ、何故戦う事が咎められる!僕等は何のために戦っているんだ!これは戦争なのに!反逆者共を血祭りに上げる戦いなのに!小夜、小夜・・・頼む」


「・・・わかったよ、主」

僕は主の味方だよ。

小夜はそう言って、僕を取り押さえていた政府役員を刀で脅して、僕を介抱させた。


周囲が何かを喚く中、小夜に守られながらゲートへと進む。

ゲートが開く先は戦場だ。僕にとって憎むべき相手が幾らでもいる、戦場。




「行こう、主」

「あぁ、小夜・・・世界のゴミを掃除しに行こう」

にこりと笑って差し出された小夜の手を取れば、小夜も小さく笑った。


「主の復讐は、僕の復讐だ」

外野が何か騒いでいる。僕は一度だけ振り返って笑った。


「お前たちもいずれ狩りに行くぞ、歴史修正主義者共め」

だが今は分が悪いから、戦略的撤退だ。

すぐに戻る。

すぐに戻るから・・・





「精々、そのぬるま湯に浸かって錆びついていろ」

僕がお前たちを折りやすいように。






復讐心ゆえの正義観




(小夜!歴史修正主義者を沢山狩ろう!そうすれば、あの子もどの子も皆帰ってくるはずだから!)
(うん。僕は、主の復讐に手を貸すよ)
(早く仲間を揃えよう。もう本丸は無いから、拾う事しか出来ないけど。でも拾うなら、戦う意思のあるちゃんとした刀剣が良いなぁ。もうあんな鈍ら、こりごりだ)


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