貴方が好きです。
そう告白してきたのは男で、しかも刀剣だった。
生まれてこの方彼女なんて出来た試しがない俺。審神者になってからは更に女性と出会う機会を失っていた。
同じ審神者仲間の中にはもう『仕事を恋人にする』と宣言した者まで現れる程、審神者業とは出会いに飢えている。
確かに出会えないのは辛い。リア充は爆発してほしい。でも、それでも俺は、審神者業に対する不満はなかった。
自分が呼び出した刀剣たちは自分を『主』と慕ってくれる。作って貰った料理は美味しい。短刀たちは可愛い。
長いこと刀剣たちと共に過ごすことで、俺は刀剣たちを“家族”と認識することが出来た。
その家族のうちの一人・・・へし切長谷部が、今こうして俺に告白してきたという現状をどう打破すべきか、俺は真顔のまま考える。
真顔の俺に何を勘違いしたのか、長谷部は少しだけ悲しそうに眉を下げた。
「申し訳ありません。突然こんなことを言って、主を困らせてしまいました」
「・・・いや、大丈夫だ。で、長谷部は何故突然そんなことを?」
出来るだけ冷静を装って尋ねる。
もしかすると長谷部の言う好きが主に対する忠誠の意であるという可能性が無いわけではない。冷静に長谷部の言葉を待たなくては。
「・・・突然ではありません。俺は、ずっと前から主のことが好きでした。それを実際に口にしたのが、今日だったというだけの話です」
驚いた。
まさか長谷部が俺のことを・・・
自分が鈍感だったと思いたくはないが、事実俺は今の今まで長谷部の想いに全く気付かなかった。
「じゃぁ、何故今日なんだ」
「言いたくなったんです。主である貴方に、隠し事をしたくはなかった」
悲しげな、けれど何処か穏やかな表情を浮かべている長谷部に俺の胸が締め付けられる。
確かに俺は彼女はいないが、恋をしたことがないわけじゃない。一人の女性を想ったことぐらいある。
だからこそ分かる。気持ちを言わずにずっと胸の内に隠しておくのは辛いということを。
長谷部はずっと辛い思いをしてきたのだろう。それに気づかず俺はのうのうと・・・
「・・・酷い主だな、俺は」
「っ、そんなことはありません。主は、俺にとって何より素晴らしい主です」
真っ直ぐと俺を見詰めながら言う長谷部。その瞳の美しさに息を飲んだ。
長谷部の目は何時も真っ直ぐだ。真っ直ぐに俺を見詰め、誰よりも早く俺の言葉を拾う。
長谷部を鍛刀してしばらく。最初の頃は刀だった頃の主の話ばかりをしていた長谷部が、次第に俺自身の話を聞きたがるようになったのは純粋に嬉しかった。
俺の話を聞いて時に嬉しそうに、時に驚いたような表情で相槌を打つ長谷部に、自然と心が安らいだ。
だがそれは“家族”としてのへし切長谷部だからだ。
「正直な話、俺はそういう目で長谷部を見ていない」
酷いことを言うようだが、曖昧な言葉はより長谷部を傷つけてしまうだろう。
はっきりとそう言った俺に長谷部は少し目を伏せ「わかっています」と返事をした。
「主は俺達一人一人を大事にしてくださっています。まるで家族のようだと言う者も・・・」
「皆がそう思ってくれているなら、俺も報われるよ。俺は皆を家族だと思ってるんだから」
目の前の長谷部はそうじゃなかったけれど。
長谷部は目を伏せたまま押し黙っていて、俺は「だが・・・」と言葉を続けた。
「長谷部の気持ちとは真剣に向き合いたい」
ぱっと長谷部がこっちを向く。
じわりと涙が滲んだその眼に胸がちくりと痛くなるのを感じた。
「今までは家族としてみていた。けれどこれからは、それを変えたい。・・・身勝手かもしれないが、時間をくれないか」
本当に、身勝手も良いところだ。
これじゃ長谷部に斬られてしまっても仕方ない。
こんな身勝手な主、怒鳴ってしまっても構わないのに、長谷部はその顔に小さく笑みを浮かべる。
「よろしくお願いします」
驚く俺の目の前で綺麗に頭を下げる長谷部に対し、咄嗟に「こちらこそ」と頭を下げる。
「主が真剣に考えてくださるなら、俺ももっと主に気に入られるように頑張ります」
「・・・俺も、努力する」
長谷部の顔にいっそ清々しい程の笑みが浮かぶのを見て、俺は軽く頬を掻きながら苦笑にも似た笑みを浮かべた。
これからは、家族としての長谷部じゃない。一個人としてのへし切長谷部をこれからは見ていくんだ。
告白からスタート
「絶対に、俺のことを好きになって貰いますよ」
ね?主。
やる気満々な長谷部に、これは結果は目に見えてそうだなと頬を引き攣らせる。
案外、そういう結果になっても嫌ではないかもしれない。
そう思う程度には、長谷部の告白に既に心は動いているのだろう。我ながら現金なヤツである。