※前置き※
この夢小説は異音の相互相手・セレンさんからいただいたものです。
セレンさんのところの
『月色魔法日誌』
というところから置かせていただきました。
自分のところのアス君と、セレンさんのところのバトラ君との嬉しい共演ですっ!!!!!
起こり得る事象はこの世に何百何千何億と、それこそ無数に存在し、それが例えどんなに奇怪な事柄であろうともそれは実在し得るし実在している
「………」
「………え、?」
ぱちくり、そんな擬音が似合うだろう瞬きをしながら、バトラは呆然と声を発した。
ぽかんとした表情をした彼は今、闇色の少年の腕の中にいた。
一日目:闇月彩色極彩色
そもそも何故こんな事態になったのか。それは少し時間を遡る事となる。
バトラがサラザールの本棚の整理をしていると、見るからに怪しげな古書を発見したのだ。
散々漁って、もうそこの本棚にある物はとっくに全て読み尽くしたと思っていたのに。
表紙が、夜の闇みたいに真っ黒なその本を唐突に発見した。
「……何だろうこれ」
開くと何か呪いがかかるという類の物でもなさそうだ(根拠は勘)
「…異界のモノ…ねえ」
表紙一面、綺麗に黒く染まった書。
俺以外にはお爺様本人しか知らない、お爺様秘密の本棚にあったのだから信頼出来るだろう。間違っても変な偽物という事はあり得ない。
「…取り敢えず試してみよ」
どうせ暇だし試してみようと本を持ち、椅子に腰掛ける。
気になったから試す、等安直だとは思うが仕方がない。
「タイトルを見るに召喚の類いなんだろうな…『異界』から何かを呼び出すって事なんだろうけど…」
何か、とは何だろうか。
見た事も無い様な変わった生物だろうか、想像もつかなかった道具だろうか、それともとんでもない化け物か、はたまた…。
「まあ呼び出してみれば分かるしね」
期待しながら本を開いた。
「……よし、間違い無いな」
最終確認、と本を読み終えたバトラは溜息を吐き椅子に凭れかかった。
必要な道具を必要な位置に揃え、ちゃんと、記載されていた図面と全く同じ魔方陣を描いた。
後は呪文を唱えるだけ。
何が出てくるのか、と微かな不安はあるが、ここまで来たのだ、やるしかあるまい。
唄う様にして呪文を紡いでいく。旋律が刻まれ、魔方陣が淡く輝きだす。
詠唱が進むと、次第に強くはっきりと輝きだした魔方陣を、しっかりと見つめたまま、遂に呪文を唱え終わった。
…………何も起こらない。
「………嘘ぉ…ええ、詐欺?」
いやしかしそんな事はあり得ない。これは祖父の棚に置いてあったのだ、まさかそんな、パチ物であるはずがない。
(…そりゃあお爺様だって人間なんだから間違いとかは、勿論あるけど…)
しかし他の事より数倍神経質になっていた本に関してまさか…そんならしくないミスをするだろうか。
「………っかしいなぁ」
そう呟き、未だ何も召喚される気配の無い魔方陣に、足を踏み入れた。
その瞬間。
「!!?」
床描かれた魔方陣から様々な色をした煙幕の様な煙と、一際強い光が発生し、思わず目を瞑る。
次の瞬間、ぐいっと腕を何かに掴まれ、引っ張られた。
真っ暗な視界の中、自分の体がふわりと何かに包まれるのを感じた。
誰かに、抱き締められているらしい。
腰と背中に回る腕の感触が、そう認識させた。
「………」
「………え、?」
そして冒頭に戻る。
《名前SIDE》
「ふんふふ〜ん♪」
現在俺は上機嫌で図書室へと向かっていた。
何故こんなに機嫌が良いのか?それは………いや特に理由は無いんだけど。
強いて言うなら何か良い事が起こりそうな気がしたのさ!!!!!!!!
………………………………………あ、すみません。ヒィイ無駄にテンションを高くしてすみません…。
因みに図書室へ行くのはセブルスを探してだったりする。
え?どうでも良い?
……………………すみませんでしたぁあ(泣)。
内心泣きながらも廊下を歩いて行く。
もうそろそろ図書室だな、と思いながらまた一歩踏み出した瞬間、突然足元が輝き出した。
(ひ、ヒィイイイイ!!!!!!!何!?!?!?!?何何何何何何何何何ぃい!?!?!?!?!?!?)
幾ら此処が不思議溢れる魔法学校だからといって、流石に普通に廊下を歩いていたら突然自分の足元が輝き出した、なんて体験は初めてだ。
(ちょ…何コレ何コレ何コレ?!?!?!?!?!…俺は一体どうなるんだぁあああああ!!!!!!!!!)
ボフン、という些か間抜けな音と共に、何処からともなく煙が吹き出し視界が覆われた。
(えっ……………………………うわぁああああああああああああ!!!!!!!!!?????)
視界が完璧に閉ざされる。
目に映るのは赤、黄、青、緑、紫、他にもまだまだ…。
色の大洪水、正にそんな表現が似合う程の多彩多色の煙が全てを覆い尽くしていて、一寸先すら、何も見えない。
(な、何だコレ…一体何がどうなってぇえええ……!!!!)
思わず手を伸ばす…と、何かを掴んだ。
細い、そして、仄かに温かみがある。………人の腕?
取り敢えずこの色彩に溺れそうな状況を何でも良いから変えたかったので、思わずそのまま引き寄せると勢いが強過ぎたのか、その腕の人物は俺の胸の中へと倒れこんで来た。
「………あ(ああああ!!!!!すみませんすみませんすみませんんんんんん!!!!!)」
「………え、?」
平謝りをする俺の腕の中に居たのは、びっくりする程の美人さんでした。
《名前SIDE:END》
(……凄い)
自分を抱き締める少年を見て、バトラは先ずそう感じた。
『闇』
少年を形容するのに此れ程相応しい言葉は無いだろう。
夜よりも更に深く、澄み渡り純然とした、そんな、漆黒で彩られた髪と目。
何者も穢す事等出来ぬ、圧倒的な雰囲気。
王様?一瞬本気でそう思った。
普通に考えるとわけ分からないし馬鹿みたいなんだろうが、彼には相応しかった。
彼は『王』としての堂々たる風格を持っていた。
「…悪い」
「あ、そういえば」
謝罪の言葉と共にぱっと離された手を見て、自分が抱き締められっぱなしだったのを今思い出した。
………そういや何もかもが唐突で突然だったから忘れてたけど、この目の前の闇色の少年は、例の『異界のモノ』なんだろうか?
いやどう考えたってそうだろう、まあギリギリ0.00001%位の確率で、『姿現し』をしたらうっかりドジってしまいここに現れてしまった、という可能性もあるが、考えにく過ぎる。
矢張りこれは普通に、この少年が異世界から召喚されて来た人物であると判断すべきだろう。
「……取り敢えずこっち来てくれる?」
「はい、どうぞ」
「ああ、有難う」
立ち話も何なので、一先ず居間へと案内する。
煎れたての紅茶を差出しながら、目の前の少年の観察を続ける。
(……ここまで深い闇は、初めて見た。ヒトが、こんな闇を持てるのか)
透き通って純粋で圧倒的。飲み込まれてしまう、そんな錯覚を覚える程の物。
(…思考が読み取れないなぁ、本当に、怖い子)
彼の心を視てみた。
何も、読み取れなかった。
彼の髪や、目と、同じ。
闇に覆われ、何も分からない。
「……美味い」
「あ、本当?ありがとね」
紅茶を一口飲み、ぽつりとそう言った少年にバトラは笑顔でそう言った。
少年は闇、何も分からぬ深い闇。
だが取り敢えず一つだけ分かる事がある。
それは、目の前の少年は自分に敵意を持っていないという事。
それが分かれば、十分だ。
「そういや自己紹介がまだだったね。
俺の名前はバトラ・オブシディアン。出来たら、バトラって呼んでくれる?」
「…俺は、名字 名前。宜しくな、バトラ。…俺も、呼び捨てで構わない」
「良いの?じゃあ宜しくね名前」
にっこりと笑って手を差し出す、と彼は握手に応じてくれた。
うん、やっぱり良い子だ。
「ああ、謝るのも忘れてた。ごめんね、名前。いきなりこんな見知らぬ所に来て、驚いたでしょ。
実は俺のせいなんだよ、ごめん」
「…否、別に気にしていない」
すっ、と黒曜石の瞳が細まる。うわぉ、何かもう一々動作の一つ一つが綺麗な事で。
「ちゃんと帰れるから。夕方位には」
「…そうか」
「まあそれまでゆっくりしてってよ、お茶請けにケーキでも食べる?」
こくり、と頷いたので杖を一振り。するとケーキの乗った皿が台所からふわふわと飛んできて机の上にゆっくりと着地した。
実はついさっき作っていたのだよ。丁度焼き上がってくれて良かった。
「…チョコケーキなんだけど、食べれる?」
「…大丈夫だ」
適当に切り分けて、名前へと差し出す。
ケーキ食べてるだけなのに、何か神々しい。
「…………」
じっと見ていると名前がこちらを見てきた。
「ああ、視線欝陶しかった?」
「…いいや、別に。気にならない」
「へーえ」
黙々とケーキを食べ進める彼の髪の毛にそっと触れてみる。
綺麗な色綺麗な色。
黒は俺の好きな色。
「…何だ?」
「綺麗な髪、と思ってさ」
漆黒。
俺もかつて、この色を持っていた。
まあ目は紅だったけれど。
「……バトラの髪も、綺麗だと思うぞ」
さらり、と彼の手が俺の髪に触れた。
夜の闇よりも深い瞳がじっと、こちらを見て来る。
彼の瞳に自分が映りこんでいる。
恐らく自分の瞳には彼が映りこんでいるのだろう。
そして映りこんだそれぞれの瞳の中に、またそれぞれが…合わせ鏡の様に。
「髪、綺麗だと思う?」
「…ああ」
「…ありがと、俺もこの髪、気に入ってるんだ」
にこりと、頬笑んで彼を見る。
心なしか、彼も頬笑んだ気がした。
(ああ穏やかな空間だなぁ)
END
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