×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
僕は超能力者だった。
何故超能力者になったのかはわからないけど、兎に角超能力者だった。
幼馴染の茂夫君も超能力者だった。
茂夫君も自分が何故超能力者なのかは知らなかった。けれど超能力者だった。
僕は幼馴染よりも少し力が強い超能力者だけど、ただそれだけだった。人間性で言えば、茂夫君の方が上だと思う。何故かと言えば、彼は超能力に頼らないんだ。
超能力に頼らない生活をする茂夫君は純粋に尊敬できたし、僕もそんな風になりたいと思っていた。
けれど現実とは難しいもので、茂夫君のようには上手くいかない。ふとした拍子に超能力を使っちゃうし、どんなに頑張っても結果は散々。
あれだけ極々自然に振る舞える茂夫君は、やっぱり凄い。
確かに空気は読めないけど。確かにちょっとクラスで浮いてるけど。確かに超能力なくちゃ運動出来なさ過ぎるけど。それでも僕にとって茂夫君は尊敬できる人で、だから・・・
「名前は凄いね」
僕が凄いなんて、とんでもない。
「名前は頭が良いし、運動神経も良いし、何時も友達に囲まれてる。凄く尊敬出来るよ」
僕が茂夫君に対して抱いている尊敬を、茂夫君は僕に抱いていると言うのだろうか。
それはとてつも無く嬉しい。けど、それ以上に何だか照れくさくって・・・
「凄いね、名前も律も」
律君は茂夫君の弟だ。同じく幼馴染で、何度も一緒に遊んだことはある。
そういえば律君は生徒会だっけ。凄いよなぁ、律君も。
「名前」
「何、茂夫君」
今日の茂夫君は良く喋る。
そう思いながら、茂夫君をじっと見つめた。
帰り道、少し離れた場所にある河原の水は、夕日できらきらと輝いていた。
そのきらきらが茂夫君の瞳にも映り込み、とても綺麗で・・・
「もしもの話なんだ」
「うん」
「もしも、僕がこの力を・・・人を呪ったり傷付けたりするために使い始めたらの話」
「・・・え?」
超能力を?茂夫君が?
そんなの想像できるわけがない。
確かに暴走してしまうことはある。それでも茂夫君は本当に優しい子だから、何時だってなんとかして乗り越えてきた。だから、彼が自ら進んで人を傷つけるなんてそんな・・・
「ねぇ名前。何時か、何時か僕があの悪霊たちみたいに人を苦しめる存在になったら――」
僕を懲らしめてね。
その言葉に唖然としてしまう。
きっと茂夫君に何かあったんだ。こんな悲しいことを言うまでに、何かが。
それが何かはわからない。茂夫君はバイトをしてるし、その事務所で何かあったのかもしれない。
詳しいことはわからないけど、兎に角茂夫君が深く深く思い悩んでいるのはすぐにわかった。
けどそれにしたって、まさか僕に茂夫君を懲らしめろと言うなんて。
「ごめんね、茂夫君」
「え?」
「そのお願いは、叶えてあげられないよ」
「・・・そっか」
正直な話、僕は茂夫君を傷つけることは出来ない。
出来る訳ないじゃないか。こんなに優しくて、こんなにキラキラしてて、こんなに・・・愛しい愛しい茂夫君を傷つけるなんて、僕には到底出来ない。出来る訳がない。
心なしか少し残念そうにする茂夫君に、僕は笑った。にっこりと。
「叶えるどころか、僕はきっと・・・君を“悪”と判断する世界を、壊してしまうかもしれないよ。全部なくなれば、君は誰も傷つけなくて済むんだから」
「・・・名前、たまにちょっと過激だよね」
冗談を言っているとでも思ったのだろうか。
茂夫君の言葉に僕は小さく笑いながら「ごめんごめん」と謝る。
まぁ、冗談にしか聞こえないか。
けどね、茂夫君・・・
「だからさ、僕に茂夫君を懲らしめさせたりなんかしないでよ」
「ごめんね、名前」
僕に君は傷つけられないよ。
だから代わりに、僕は君以外の全てが壊せるんだ。
何時か起こり得る悲劇
・・・もしかしたら、懲らしめられるのは僕の方かもしれないな。
「その時はよろしくね、茂夫君」
「え?うん?」
意味も分からず頷く彼に、僕は笑った。
戻る