穏やかな午後。
ソファに座ってのんびりしていた霊幻は欠伸をしながら雑誌を手に取った。
芸能ニュースを適当に眺め、占いコーナーを見て・・・
その時、入口の方でギィッという扉の開く音を耳にした霊幻はぴたりと手を止めた。
「すいませーん、ちょっと最近肩こりが酷くて――」
「あ、それは間違いなく呪いですね。すぐに除霊しましょう。さぁこちらへ・・・って、ん?」
雑誌から顔を上げた霊幻は事務所の入口に立ってニコニコしている男を見て目を見開いた。
「呪い、ねぇ?・・・ははっ!相変わらずだなぁ、霊幻」
「名前!」
霊幻は持っていた雑誌を放り投げて名前と呼んだ男へと駆け寄った。
「お前、何時こっちに戻ってきたんだ!?この間の絵葉書じゃ、まだエジプトだったろ!?」
「ん。意外とすぐに片付いたんだ」
あ、これお土産ね。と言いながら名前は良くわからない置物やら明らかに日本の空港で買ったであろうお菓子の箱を霊幻に渡した。
霊幻は「お、サンキュ」と言いながらそれらをテーブルの上に置く。
「で、今回のはどんなのだったんだよ」
「ピラミッドの中で除霊活動さ。流石は年代物の霊と言ったところかな・・・なかなか成仏してくれなくて困ったよ」
おかげで凄い肩こりでね、と笑う名前を霊幻はソファへと引っ張る。
「けど成功したんだろ」
「もちろん」
すとんっとソファに座った名前の肩を、霊幻はマッサージし始めた。
「んー、気持ち良い。霊幻、何時の間に腕上げたんだ?」
「整体の本とかめちゃくちゃ読んだからな」
ふふんっと笑う霊幻に名前は楽しそうに笑った。
「もうそっちで店出しちゃえば良いのに。繁盛すると思うよー?」
「こっちはこっちで結構上手くやってるから良いんだよ」
「ははっ、わかったわかった。霊幻の仕事には口出ししないさ」
「たまには日本にいろよ。んで、俺の仕事の手伝いしろ」
「ま、しばらくは日本にいるから良いけど・・・俺、高いぞ?」
「時給500円でどうだ!」
「んー・・・幼馴染の好で引き受けようじゃないか」
苦笑を浮かべる名前に「おぉ、言ってみるもんだな」と霊幻は笑った。
霊幻の幼馴染である名前は、生まれ持っての霊能者だった。
超能力者というほどの力こそないが、幽霊を認識し、その幽霊と対話をする能力に長けている。
現在はその能力を有効活用し、霊に悩む人の相談に乗ったり・・・ただ単に悩みを持ちかけてくる人には霊幻の事務所を紹介したりしている。
だが一つ問題があるとすれば、名前の活動拠点は基本日本ではない。
旅行好きで、年がら年中いろいろな土地へと飛び回り、現地で霊能者として活動している名前は、日本では全く有名ではないが世界的に見れば結構名の知れている存在であった。
そんな彼がインチキ霊能者である霊幻と仲良くしているのは、もちろん幼馴染ということもあるが――
「なぁ、エジプトの話聞かせろよ」
「聞かせるのは良いけど・・・何で膝に座るんだ?」
「別に良いだろ。肩、除霊してやったろ」
「はいはい。仕方ないなぁ・・・」
名前が酷く、霊幻を甘やかしてしまいたくなる体質だったからだ。
駄目な子ほど可愛いとはよく言ったもので、名前はいつもいつもついつい霊幻を甘やかしてしまうのだ。
霊幻も霊幻で、小さい頃から自分を甘やかしてくれる名前にこれでもかという程甘えていた。
「――で、その時に兵士の霊が襲い掛かってきたんだ」
「へぇー」
「その時は流石にちょっと危ないかもって感じたんだけど、後ろの方には霊が全然見えてない一般のピラミッド調査の人たちがいてね――」
「ほぉー」
「・・・霊幻。自分から話聞きたがった癖に、随分と興味なさ気だね」
名前は苦笑しながら霊幻の頭をぐりぐりと撫でた。
髪型がぐちゃぐちゃになった霊幻は「んー」と言いながら名前の方を向く。
「エジプトの話聞かせろって言っただけで、幽霊の話しろなんて言ってねぇし」
名前は霊幻の顔がむすっとしていることに気付く。
「あ、霊の話は気に入らなかった?ごめんごめん」
「霊の話以外にももっとだるだろ。観光地とか」
「んー。今回は除霊ばっかりだったからなぁー・・・」
困ったような顔をする名前からふいっと顔を背けた霊幻は小さく舌打ちをした。
「・・・名前が危険な目にばっか遭ってる話なんか楽しくねぇよ」
「・・・ははっ、ごめん」
名前は霊幻の身体をぎゅーっと抱き締め、その耳元へ唇を寄せた。
「心配かけてごめん」
「・・・今度から、絵葉書もっと送れ。一か月に一枚なんて少なすぎる」
最低でも一週間に一枚だからな!という霊幻に、名前は笑いながら「りょーかい」と返事をした。
世界に羽ばたけ☆霊能者(あ。この後しばらくしたら、俺の弟子くるから)
(弟子?どんな子?)
(モノホンの超能力者)
(おぉ、楽しみ)