×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





スーパーの敷地内に構えたたこ焼き屋の屋台。

道行く奥様方に「たこ焼きいかがっすかー」と声を掛ければ大体はスルーされるが時々足を止めて貰える。

今日の売り上げもボチボチ。可もなく不可もなく。




「よお、また来たぜ」

夕方ぐらい、スーツ姿で屋台の前までやってきたお兄さんに俺は愛想良く笑いながら「らっしゃっせー」と声を上げる。


また来たぜ、という言葉の通りこのお兄さんは近頃何回もこの屋台に足を運んでいる。顔も覚えたし、常連と言っても過言ではないだろう。

「たこ焼き二パックくれ」

「はいよー」

「あ、作り立てのが良いから、今鉄板にあるのくれ」

返事をしながら小脇に積んでおいたパックに手を伸ばそうとすればお兄さんがそんなことを言った。



「仕方ないっすねー、お兄さんお得意だから特別っすよー?」

「さんきゅー」


とは言うものの今鉄板にあるのはまだ出来上がってないから、少し待って貰う必要がある。

お兄さんの方は待つことに関しては大して気にしていないようで、俺の手元をじっと見つめている。



「すぐ出来ますからねー」

軽くそう言いながらくるくると鉄板の上のたこ焼きを回せば「美味いもんだな」と褒められる。


「まぁ、これやるのも長いんで」

「タコもでけぇし気に入ってんだよな、此処のたこ焼き」


「そんなこと言ってぇー、おだててもたこ焼き1つしかおまけしないっすよー」

「お!おまけしてくれんのか」

出来立てを普段より一つ多くパック詰めしてお兄さんに差し出す。



「ん?おまけは1つじゃなかったのか?」

「一パック1つっすよ」

お兄さんは二パック買ったからおまけは2つ。お兄さんは「さんきゅー」と上機嫌そうに笑った。


「俺の弟子も此処のたこ焼き気に入ってんだ。今度連れてくる」

「弟子?お兄さんって何かの先生でもやってるんですか」

スーツだし、塾の先生とか?と思う俺に「よくぞ来てくれた」の言葉と共に差し出される名刺。

咄嗟に受け取れば、名刺には霊幻新隆というお兄さんの名前らしきものと『霊とか相談所』の文字があった。



「何か胡散臭いっすねー」

「お前結構はっきり言うな。俺は此処の所長で、弟子は此処の従業員なんだ」


「へー。まぁ商売する者同士、一緒に頑張りましょうね、霊幻さん」

「そうだな。あ、どうせならお前の名前も教えてくれよ」

その言葉に思わず首を傾げる。何だ、知らなかったのか。スーパーに買い物に来る奥様方の中には俺の名前を気さくに呼ぶ人だっているのに。


「上に書いてあるっすよ。『たこ焼き屋名前ちゃん』って」

人差し指で上を指す。屋台の暖簾にはデカデカと『たこ焼き屋名前ちゃん』の文字。名前ちゃんたこ焼き一つ!って言われることも多かったから、霊幻さんもてっきり知っているものと思っていた。



「これ名前だったのか。隣に書かれた不細工なタコのキャラクターの名前かと思った」

「霊幻さんこそはっきり言いますねー。それ、俺の自信作っすよ」

「しかもお前の手作りかよ」

声を上げて笑う霊幻さんに釣られて笑う。


「あ、そろそろ戻んないと折角の出来立てが冷えちゃいますよ」

「それもそうだな。また来るぜ、名前」


「今後ともご贔屓にー」

ひらっと軽く手を振りながら屋台を離れて行った霊幻さん。

手に持ったままの名刺を見るが、見るからに胡散臭い。


でもまぁ俺の作ったたこ焼きを気に入っているらしいし、俺的には霊幻さんがどんな仕事してても関係ないか。




「すみませーん、たこ焼き一つください」

「はいよー」

取りあえず次やって来たお客さんのたこ焼きを用意するため、エプロンのポケットに名刺を仕舞った。






たこ焼き屋のお兄さん






「師匠、機嫌良いですね」

「お前にもわかるかモブ」

「あ、スーパーのたこ焼き屋さんに行って来たんですね」

「しかも今日は自然な流れで名刺を渡せて、更に名前まで呼び合う仲になった」

「良かったですね師匠。食べて良いですか?」

「おう、出来立てだからな、さっさと食え」



戻る