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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -
「名字先輩、今からお帰りですか?」
「ん?あぁ、影山か」
今から帰るところだ、と返事をしながら生徒会の腕章を外す。
学校の外にまでこの腕章を付けておく必要はない。綺麗に折りたたんで鞄の中へ入れ、その鞄を片手に持つ。
生徒会の後輩である影山も今から帰りなのだろう。片手に鞄を持ち、生徒会室の入口に立っていた。
今日は早めの塾があるらしい神室は先に帰り、徳川は現在生徒会顧問の手伝いを自主的に行っている。塾に手伝い・・・俺よりうんと真面目な奴等だ。
俺はと言えば、生徒会活動はとっくの昔に終わっているしもう帰るだけ。不真面目なんじゃない。これが普通なんだ。
「影山も今からだろう。気を付けて帰れよ」
生徒会以外では殆ど接点が無い後輩だが、後輩には変わりない。一応先輩らしい言葉を掛けると、影山の返事はなかった。その代わり、何か言いたそうに俺を見ている。
どうかしたか?と問えば、影山の口から「あの・・・」と歯切れの悪い声が漏れる。普段ははっきりとした物言いをする影山にしては珍しいな、と思いながら急かさず待っていると、ついに影山が言葉を発した。
「・・・一緒、帰りませんか?」
「一緒に?あぁ、良いぞ」
何を言い出すかと思えば。影山の言葉に軽く返事をし「じゃぁ行くか」と昇降口を目指す。
俺と影山は学年が違う為、靴棚も別だ。俺の方が近くてすぐに靴に履き替え入口で待っていれば、少ししてから影山がやってきた。
そこまで待ってないのに「お待たせしました」なんて言う影山は、やはり優等生だ。未来の生徒会長はコイツで決まりかもな。
「影山は優秀だなぁ」
「そうでしょうか」
学校を出て帰り道を歩きながら言えば、影山は少しだけ首を傾げた。
「そうなんだよ。俺は生徒会員だけどそこまで真面目じゃないからな。神室と徳川の真面目さには常々感心してる。もちろんお前のもな」
「後輩の僕が言うのもなんですが、名字先輩も十分優秀な生徒だと思いますよ。前回はバスケ部の助っ人でしたっけ?」
「ははっ、よく知ってるな」
影山の言うとおり、俺は先日バスケ部の試合の助っ人をした。
バスケ部だけじゃない。先々週はテニス部で、先月はサッカー部、果てには柔道部の助っ人なんてものあったな・・・
成績はイマイチなのに運動だけは馬鹿みたいに得意な俺は、よく運動部の助っ人を頼まれている。
「部員が一人骨折したって泣き付いて来たからなぁ。けど、運動出来たって成績はそこそこで、神室と徳川には何時もどやされる」
「けど悪いわけじゃない」
「・・・お前、すっげぇ俺のフォローしてくれるな」
有難うなと笑う。しまりのない、へらりとした笑みだ。
先輩のだらしない笑みを見てどう思ったのか、影山は少しだけ視線を逸らした。
「っと、俺はこっちなんだけど、影山は?」
そろそろ家に辿り着く、というところで影山に言えば、影山は「僕はこっちです」と俺とは違う道を指した。
「そっか。じゃぁな影山、今日は楽しかった」
「はい、僕も楽しかったです」
「そりゃ良かった」
歩いている間喋っているのは殆ど俺だったが、影山は必ず相槌を入れるし気になることがあればすかさず聞いて来るし、特にそれが苦だとは思わなかった。たぶん影山は聞き上手だ。
「また明日な」
軽く手を振れば、影山はぺこりと俺に頭を下げ歩いて行った。
影山と帰るなんて初めてのことだったが、今度から一緒に帰るのも悪くないな。今度は俺から誘ってみるか。
そう思い家に帰った翌日、昨日のことを徳川に自慢してみた。
「昨日、影山と一緒に帰ったんだ」
「・・・影山とか?お前が?」
何驚いてるんだ。
俺が後輩とまともにコミュニケーション取れない程落ちぶれてるように見えるのか、徳川副会長さんよぉ・・・
俺のじっとりとした睨みどころか俺の考えてることにさえ気付いたのか、徳川は呆れたような顔をする。被害妄想とでも言うのか。
「俺が驚いているのは、影山がわざわざ遠回りをしてまでお前と帰ったことだ」
「は?遠回り?」
意味が分からず首を傾げる俺に徳川は呆れたような顔で言った。
「お前と影山、家が全くの逆方向だろう」
「・・・は?」
家が逆方向?でも影山は、俺の家の近くぎりぎりまで一緒に帰ったし・・・じゃぁあの後引き返したってことか?
「なぁ徳川、影山は何でそんなことしたんだ?」
全然わからなくて徳川に問えば「俺に聞くな」と冷たく返された。
遠回りの主張
「先輩、宜しければ今日も一緒に帰りませんか」
「お、おう。わかった」
あの日以降、俺の部活の助っ人が無い日には影山と一緒に帰る様になったのだが、未だに影山は自分の家が俺とは逆方向だとは言ってこない。
家が逆方向なのにわざわざ俺と一緒に帰る。
これは何を意味するかなんて、俺にはわからない。
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