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お邪魔しまーすという軽い声と共に事務所に入ってきたのは、モブと同じ学校の制服を身に纏った青年だった。


「肉体改造部三年、名字名前っす」

「肉体改造部?あぁ、モブが入ってる部活の・・・いや待て、肉体改造部を名乗るにしては、全然ムッキムキじゃないな」

取りあえずソファに座らせ茶を出してやれば「まぁ、幽霊部員ですし」と言いつつ湯呑を手に取った。


「・・・肉体改造部にも幽霊部員っているんだな」

机を挟んだ正面に腰かけ自分の分の湯呑の茶を飲む。


「入ったは良いけど一日目で挫折して、そのままずるずる三年生っすわ。あ、お茶美味いです」

「意思弱そうな顔してるもんな。茶菓子、たい焼きあるけど食うか?」

「そうなんすよー。たい焼きは是非食べたいです」


戸棚から買って置いた今日のおやつを取り出し机の上に置く。

いただきまーすと遠慮なくたい焼きを頬張り始めた青年に「で、何の用で此処に来たんだ?」と尋ねる。まぁモブに用があるのはわかりきってはいるが、わざわざ事務所の方に来るぐらいだ。理由ぐらいは聞いた方が良いだろう。



「影山くんに用事があって。影山くんはまだ来ない感じですか?」

「あぁ、まだ来てないな。モブから此処の場所聞いたのか?」


「はい。俺元々幽霊部員だったんすけど、部長に『一年の影山も頑張ってるんだからお前もいい加減部活に参加しろ!』って怒られちゃいまして・・・今じゃ、影山くんとは互いに励まし合ってなんとかやってってるんすよー」

「ほー。じゃぁ実質、お前はモブと同じ一年ってことか」

「そうなるっすねー」

へらへら笑いながらたい焼きを頬張る姿は三年には見えないし、モブと同級生だと言われても違和感がない。



「あ、でもこう見えて結構筋肉付いてるんすよ。ほら、腕とか」

「おー・・・見た目さっぱりだわ」

「酷い。あ、触ってみます?」

「おー」

腕まくりをして見せてくるが、見た感じではそんなに筋肉が付いているようには見えない。

言われるがままに腕に手を伸ばし掴んで見る。

若者らしいきめ細やかなすべすべした肌。筋肉は意外と付いていた。



「あるな、意外と」

「はい」

誇らしそうに笑う青年を見ると、不思議と胸が高鳴った。男の癖に可愛いなコイツ、尻尾振ってる子犬みたいな愛嬌がある。

可愛いなと思うとだんだんと青年が可愛く見えてくる。まだ中学生だから顔立ちは幼いが、こりゃ将来相当なイケメンになるだろう。身長はこれから伸びるだろうし、この調子で鍛えていけばスタイル抜群のイケメンに・・・



「あの、何時まで揉んでるんすか?」

「あ?いや、意外と止めどころがわからず・・・」

「あ、そうですか」


「・・・・・・」

「・・・・・・」


「いい加減止めません?」

気付けば執拗に青年の腕を揉みし抱いていた。やばい、若者の肌ってこんなすべすべもちもちだったのか。俺の肌なんてかっさかさだぞ。・・・スキンケアとかしてみようかな。

腕を揉まれた本人は困ったような顔をしているものの嫌がっている様子はない。



「・・・なぁ」

相手が嫌がっていないと分かると、自分の中で妙な欲求が沸いて来た。

何処までなら許されるんだろうか。好奇心にも似た欲求。



「腹筋は、どうなんだ?」

「・・・・・・」

ぱちっと青年の、名前の目が瞬かれる。


それからへにゃりと眉を下げ、困ったような目で俺を見つめる。

あぁ流石に駄目だったかと前言を撤回しようと口を開きかけ――




「見たいっすか?」




「あ?」

「腹筋、そんな無いんすけど・・・触ります?」

苦笑いにもにた笑みを浮かべて俺を見る名前に、思わずごくりと息を飲む。


明らかに俺の発する言葉に含まれる『不純』を感じ取っているであろう視線。なのに口にする言葉に嫌悪は一切含まれていない。

最近の中学生ってこんな気遣い上手?いや、この場合は警戒心が薄すぎるとか、そういう風に言うんだろうが俺にとっては好都合だ。


未成年に手を出すとかヤバ過ぎる。いや、これは単に腹筋がどんな感じに仕上がってるのか気になるからであって、露骨に手を出そうとしてるわけじゃない。そんな感じに頭の中で言い訳をしつつ、頷いて返事をしようとした。







「師匠、遅くなってすみません」



「うおっ!?も、モブか、遅かったな」

「はい。あの、名字先輩がどうして此処に・・・しかも師匠に腕を掴まれてるんですか?」


突然開いた事務所の扉から学校帰りのモブが顔を出す。

モブの視界には裾が捲られた名前の腕を掴む俺がしっかり映っている。ど、どう言い訳をすれば・・・


「遅かったね影山くん」

するっと腕が解かれ、何でもないように名前がモブに話しかける。



「こんにちは先輩。あの、先輩は師匠と何をしてたんですか?」

「ほら、俺も最近影山くんと一緒に一生懸命鍛えてるだろ?そろそろその成果が出て来た気がして、影山くんの師匠さんに自慢してたんだ。ほら、影山くんも触ってみて」

「はい。・・・あ、僕より付いてる」


「ははっ、実は家に帰ってからも鍛えてるんだ」

「えっ、ズルいです先輩。一緒に鍛えようって言ってのに・・・」

「ごめんごめん。じゃぁ今度の休み、一緒に鍛えに行こうか」

しょんぼりとしていたモブは「はい!」と嬉しそうに頷いた。


一連の会話を聞いていたが、モブは相当名前に懐いているらしい。名前も名前でモブをよく可愛がっているようだ。・・・それにしても、上手いことさっきの光景についての話を逸らしたな。




「あ、そうそう。影山くんに渡すものあったんだ。・・・はいこれ。部長が影山くんに部活動計画表を渡すの忘れてたって言っててさ。明日でも良かったんだけど、どうせなら影山くんのバイト先覗いてみたかったし、持ってきちゃった」

「有難う御座います先輩」

にこにこ笑いながらモブの頭を撫でる名前。あー、モブずりぃ。

じーっと見つめていると名前がこっちを見た。


「んじゃ、俺も帰りますんで。付き合ってくれて有難う御座いました、師匠さん」

「おう。・・・いや、ちょっと待て」

俺は思い出したようにデスクの引き出しにあった名刺を取り出し、その裏にボールペンで走り書きしたソレを名前に渡す。



「何かあったら連絡しろ」

「わー、名刺なんて初めて貰った」

有難く貰うっす、なんて笑った名前がその裏面を見て少し動きを止める。


それから俺を見て、またあの困ったような笑みを浮かべると「それじゃぁ俺はこれで」と言ってそのまま事務所を去って行った。






「名字先輩と何を話してたんですか?」

「お前と一緒に鍛えてるって話と、腕の筋肉の話ぐらいだ」

嘘は言ってない。モブは「そうですか」と言うと机の上にある手つかずの分のたい焼きに気付く。


「今日のおやつはたい焼きですか」

「おぅ、モブも食って良いぞ」

俺の言葉に心なしか目を輝かせたモブは「はい頂きます」と言ってソファに座りたい焼きに手を伸ばした。







大人の不純






Prrrr...

「はいこちら霊とか相談所・・・何だ、ほんとに連絡くれたのか。なぁ次は何時会える?お前の好きな時間で良いけど・・・次会う時はそれなりの覚悟があって会いに来てくれるんだろう?」

電話の向こうから肯定の言葉が聴こえると、俺の口元は堪え切れずニヤついた。



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