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「こんにちはー・・・っと、霊幻はいないの?」

「師匠は今日のおやつを買いに行っています」



事務所に足を運んだ私にお茶を持ってきてくれたモブ君は、そのまますとんっと私の隣に腰かけた。

ずずっとお茶を一口飲みながらモブ君を見れば「あの・・・」とモブ君が口を開く。



「名前さんは、自分の力が怖くなったことは無いですか?」

何処にそんな要素があったんだと言いたくなるぐらい、唐突な重い質問に私はつい湯呑を机の上に置いた。




「・・・うーん、どうかなぁ、怖がるような大きな力でもないからねぇ」


出来ることと言えば、物をちょっと浮かせる程度。

それが日常で役立つことなんて殆ど無いし、精々落としそうになったから揚げをギリギリで救出できる程度だし・・・


けれど彼は私とは比べ物にならない程の力を持っていて、それは私が知る中では何よりも強力な力で・・・





「怖い?自分の力が」

「質問を質問で返すなんて、酷いです・・・」


「それが大人ってもんだよ、モブ君」

私は汚い大人だからね、と笑えばモブ君がじっと私を見つめる。




「名前さんみたいな大人は、汚いんですか?」

「そうだよ。だからモブ君はこんな大人にならないようにしないと」




「・・・名前さんみたいな大人になっちゃいけないんですか?」



こてんっと傾げられた首。

まるで私を目標にしているかのような台詞に少しくらりとくるけれど、自分はモブ君のように将来がある子供に憧れられるような大人じゃないとすぐに思い出す。


霊幻と一緒に汚いことだってしてきたし、霊幻のあずかり知らない場所でも汚いことをした。

モブ君のような子供が霊幻の事務所で働き始めてからはそれも自重していたけれど、過去のことは取り消すことは出来ない。リセットできない。





「人には良いところと悪いところがあるから、良いと思ったところだけを見習えば良いんだ。全部が全部真似したら、面白くないだろう?」

霊幻みたいに上手い台詞なんて思いつかないから、それらしい台詞しか口に出来ないけれど。



「面白い面白くないで決めて良いんですか?」

「私は霊幻じゃないから、自信満々にモブ君にアドバイスは出来ないけどね。そんなもんだよ、そんなもん」


深く悩んでもどうにもならないことはあるけれど、モブ君ぐらいの歳なら悩むことも大事なのかもしれない。けれども私はそんな年齢とっくの昔に過ぎ去ってしまって、今じゃあの頃どんなことで悩んでいたかなんて思い出せない。わかるのは、モブ君みたいな悩みは持ってなかったということぐらい。

仕方ない。違う人間なのだから、悩むことも違う。それから導き出す答えも、また違う。





「・・・僕は、この力に頼らずに生きていきたいんです」


超能力を持たない人間からすれば、羨ましいことこの上ない能力だろうに。

けれどまぁ、最強と称しても不足ない力を持っている彼だからこそ、悩んでしまうのだろう。




「名前さんは超能力者なのに、その力に依存してない。力持ちだし、話も面白いし、優しいし・・・だから僕は、名前さんは凄いと思います」

「・・・モブ君みたいにキラキラした子供にそう言われると、何だか照れるなぁ」


依存する程の超能力を持ってないだけだけど、モブ君みたいな純粋な子供に言われて悪い気はしない。


ぐりぐりとモブ君の丸っこい頭を撫でつつ湯呑のお茶を飲んだ。もうぬるくなってた。

ぬるいお茶を飲み干したあたりでコンビニ袋片手に「おー、来てたのか」と言う霊幻に片手を振って挨拶すると、モブ君とは逆隣りに霊幻が腰かけて来た。狭い。





「今日のおやつは、さきいかだ」

「まさかのつまみチョイスか」


モブお茶ー、とだらけきった声で言う霊幻。これはモブ君に真似して欲しくないなぁ。

モブ君がお茶を用意している間に霊幻がさきいかの袋をバリッと開く。


さきいか独特のにおいが事務所に広がる中、霊幻の前に新しい湯呑が置かれ、私の湯呑にも新しいお茶が注がれた。



三人並んで同じソファに座って、おやつにさきいかを囲む・・・

傍から見れば微妙な光景だな、と思いつつも口に入れたさきいかは美味かった。










「モブ君を見習わないとなぁ・・・」

今日は客が来ない日だったらしく、普段よりは早めにモブ君が帰って行ったのを見届けた私の小さな呟きに、事務所の冷蔵庫をがさがさ漁っていた霊幻が「あー?」と反応する。


「お前、モブと会ってから大分変ったよ」

「そう?」


「危険なこと、あんましなくなっただろ?」

「まぁ、モブ君に何かあったら大変だからねぇ」


「隠し事も少なくなったし、口数も多くなった」

「何話したら良いのかそわそわしてるモブ君見てたら、私が喋りかけてあげなくちゃなって思ってね」


「良い変化じゃねーか」

祝い酒するか?と缶ビールを片手ににたりと笑う霊幻に、私は「全く、駄目な大人だなぁ」と言いながらもその手から缶を受け取った。






駄目な大人たち






私も大概、駄目な大人だ。




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