※『有能過ぎる清掃員さん』続編。
「後はあっちの店で買い物して終わりだねー」
「そうだな。早く済ませようぜ」
唐瓜と茄子の二人は、鬼灯からのおつかいで街を歩いていた。
「あれ?」
「どうしたんだよ、茄子」
突然足を止め、ある一点を見た茄子がぱちぱちと目を瞬かせる。
その様子を不思議に思った唐瓜が茄子の視線が向く方向に視線を向ける。
少し離れた場所。一人歩いている後ろ姿に見覚えがあった茄子は「あ!」と声を上げた。
「○○さーん!」
「お、おい茄子!」
茄子の突然の行動に驚き止めようとする唐瓜。しかし茄子はその制止の声を聞くこともなく、彼――○○の元へと駆け寄った。
ぴたりと足を止めゆっくりと振り返った○○に茄子が「こんにちは!」と頭を下げ、後に続いた唐瓜も慌てたように頭を下げる。
「・・・・・・」
初めて見た時と同じで布により顔のほとんどを覆っている○○は無言のまま二人を見つめる。しばしの沈黙の後、○○はゆっくりとした動作で頭を下げた。
その様子に内心ほっとする唐瓜と目をキラキラさせる茄子。
「俺達のこと覚えてますか?五道転輪庁で会ったことがあるんですけど」
「あの後、漫画『鬼卒道士チャイニーズエンジェル』見ました!本当にそっくりでした!」
足元できゃいきゃいと騒ぐ二人に表情一つ変えることなく、○○はこくりこくりと頷いた。
終始無表情で無口ではあるものの、二人を邪険にする様子もない。案外怖い人じゃないのかもしれないと、唐瓜も茄子と一緒になってキラキラした目を○○に向けた。
「今日は何しに来たんですかー?」
「・・・買い物」
「何をです?」
「洗剤」
そう言いつつ上げられた片手には、洗剤と思しきボトルの入った袋が握られていた。
五道転輪庁の清掃員として働いている○○にとって洗剤は大事な商売道具の一つ。わざわざ自分で買いに来るということは、きっと物凄いこだわりがあるのだろう。
清掃員でありながら地獄行きの亡者も“掃除”する掃除のエキスパート。しかも寡黙でミステリアス。憧れないわけがない。
二人分のキラキラした視線を一身に受けていた○○は懐に手をやり、布に包まれた何かを取りだした。
取りだしたソレを二人に差し出すと、二人はきょとんと小首をかしげた。
「これ、何ですか?」
「・・・美味いぞ」
差し出されたソレが食べ物だと知った二人は包みを受け取り中身を確認する。
白くて丸い、美味しそうな饅頭がそこにはあった。
「わぁ!良いんですか?」
「・・・貰い物」
貰い物だから気にしなくて良いという意味なのだろう。二人もそれを理解し、喜々として饅頭を口にいれた。
見た目どおり美味しい饅頭に舌鼓をうつ二人を無表情に見守る○○は、雰囲気だけは少し和らいだ。
「あ、そうだ!ねぇねぇ○○さん」
何か思いついたような声を上げ、くいくいと袖を引く茄子に○○が無言のまま目を向ける。
「○○さんって、鬼灯様のことどう思ってるんですか?」
「お、おい茄子・・・」
茄子の質問に○○は押し黙る。やはり、聞いてはいけないことだったのだろうか・・・
「・・・鬼灯殿は」
ごくりっと息を飲む。
「良い人だ」
短く、そして曖昧な言葉で返される。それが何を意味しているか分からないが、少なくとも鬼灯と○○の仲は悪くない。
唐瓜がほっと胸を撫で降ろす横で、茄子が「そうなんですかー」と笑った。
「・・・まだ、買い物がある」
「あ!俺達もです」
「・・・おつかい、か」
「はい。鬼灯様の用事で」
「・・・鬼灯殿に、よろしく言ってくれ」
そのまま背を向けて颯爽と歩き出す○○の後ろ姿を、二人はキラキラとした目で見つめていた。
憧れの清掃員さん
「格好良かったな!○○さん!」
「饅頭も美味しかったね!」
きゃいきゃいと二人は自らのおつかいへと戻って行った。
あとがき
『有能過ぎる清掃員さん』の続編ということで、唐瓜君と茄子君に頑張って貰いました。
無表情で寡黙だけど、割と普通に優しい清掃員さんでした。