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「あぁ・・・面倒臭いですねぇ」


目の前の光景は、一体何なんだろう。






今日は兎に角運が無かった。


朝から何だか身体がダルイし、そのせいで反応とかが遅れてしまうし、更にそのせいで大川の接近をこんなにまで許してしまって・・・

今日はもう家に帰るだけだったのに!あぁもう駄目だ!と目をつぶった直後、異変は起こった。


明らかなる異変は大川の叫び声だ。断末魔のような、鋭い悲鳴だった。




恐る恐る目を開いた僕が見たのは、真っ黒な背中だった。

本とかテレビとかでしか見た事の無いような燕尾服を身に纏い、何故だか大きなカッターナイフをまるで刀か何かのように小脇に差した男の人の背中。


男の人の向こう側に転がっているのは何だろうか。ぴくぴくと気持ち悪く痙攣しているあの物体は・・・

あぁあれは大川か、と理解しかける頃、男の人が大きなため息を吐いた。






「突然見知らぬ土地に飛ばされた挙句のこの作業、残業手当付くんですかねぇ・・・あぁ、面倒臭い」


面倒臭いを繰り返す男の人に、僕は「あ、あのっ」と意を決して話しかけた。



明らかに普通ではないこの人に話しかけるのはあまり得策とは言えなかったかもしれない。それでも、もしかすると僕の恩人である可能性のある人をみすみす見逃すわけにはいかなかった。



僕の声に反応した男の人が、ゆっくりと振り返る。

その顔を見て驚いた。日本人じゃない。日本人とは違う、はっきりとした美しさのある顔が僕の方を見て面倒臭そうに眉を寄せた。





「あ、貴方は・・・?」

「・・・・・・」


「えとっ、僕は綾小路行人と――」



「名前はどうだって良いです。貴方がブラックリストなのは明白ですから」



「えっ?」

ブラックリストの言葉にぴたっと動きが止まってしまう。




「悪魔と契約したでしょう、貴方」

「そ、それは・・・」


「契約相手は今私がデスサイズで狩った悪魔・・・まぁ、低級も低級でしたが」


男の人は倒れたままの大川と僕をちらりと確認した後、また「あぁ、面倒臭い」とため息を吐いた。




デスサイズとか悪魔とかブラックリストとか、男の人の口からは良くわからない単語ばかりが出てくる。

もっとわかりやすく説明して貰いたいが、それよりも気になるのは男の人の向こう側で動かなくなっている大川だ。死なないはずの大川が、何故だかあれ以降ぴくりとも動かない。


死んでいるフリだろうか?それにしては、今の大川は死んでるようにしか見えない・・・






「お、大川はどうなったんですか?」



「死にました」

「えっ!?け、けど、大川には心臓が無くって、どんなに殺しても死なないし・・・」


「死神の鎌、デスサイズのみそれは可能です。私はこの低級悪魔を狩り取った。それ以上もそれ以下もない、事実です」




死神の鎌?じゃぁ、この人は死神?

想像していたものとはかけ離れたその姿に目を瞬かせていると、しゅんっと風を切る音がした。



「ひっ!?」

気付けば、首元に大きなカッターナイフの刃が当てられていた。


刃のひんやりとした感触に、まるで首が切られてしまったかのような錯覚を起こし、涙が出そうになる。






「な、何で・・・」

「悪魔と契約した人間は、また悪魔と契約する可能性がある。面倒臭いですが、貴方の魂を狩り取ります」


そんなのあんまりだ!そもそもは大川が僕を嵌めたから・・・!

そう言いたいけれど、下手に首を動かしたら本当に首が切れてしまいそうで・・・


恩人かと思った人は、僕の命を狙うヤツだった。あぁ、やっぱり今日は運が――











「・・・非常に面倒臭い」

ぱっとカッターナイフが離れた。


え?と声を上げる僕に、死神さんが「非常に、非常に面倒臭い」を繰り返す。

カッターナイフを小脇に差し、胸ポケットから取り出した手帳をぱらぱらとめくり始めた死神さんは「あぁ、やっぱり」とため息を吐いた。





「貴方みたいな事例が他にもありますよ。面倒臭い人間ですね、貴方」

「え、えと・・・」



「貴方、悪魔を寄せ付ける、面倒臭い体質のようですね」



「た、体質?」

「悪魔に好かれる体質。貴方の周りには、先ほど狩ったヤツのような悪魔が寄ってくる」


その言葉にぞっとする。じゃぁ、また何時大川みたいなヤツが来るかわからないのか。そんなのって・・・

首が繋がっていたことには安堵したけれど、どちらにしても僕には絶望しか残されていないじゃないか。そんなのってあんまりだ。





「・・・使いようによってはゴキブリほいほいのような使い方も出来ますね」

何だか凄く失礼なものに例えられている気がする。



死神さんは「ふむ」と頷くと、ぱっと僕の方へ視線を送った。

ついさっき僕の首を狩り取ろうとしていた相手だ。つい身体が強張る。


けれど死神さんは僕の警戒など無視して「わかりました」と頷く。状況が読めない。





「あ、あの、死神さん・・・」


「○○です。臨時ですが、貴方の担当になります」




唐突に差し出された手。

担当?それって、殺されないってこと?





「貴方は悪魔を寄せ付ける。寄せ付いた悪魔を私が狩る。つまりはそういうことです」

「ま、守ってくれるってこと、ですか?」


「結果的にはそうなりますね」

面倒臭いですが、と言葉を添えて。



気怠そうな表情をしている○○さんの手を恐る恐る握ってよろしくお願いしますと言えば・・・






「面倒臭いですが、職務は全うしますから」

ある意味物凄く心強い台詞を言って、僕の手を握り返してくれた。






臨時ボーナス貰えますか?






死神のボディガードって、おそらく何より心強いだろうけど・・・


「面倒臭い・・・」

この口癖、どうにかならないんだろうか。



あとがき

リクエストは【黒執事の世界からトリップしてきた死神主が綾小路さんを助ける】でしたね。
学怖×黒執事は初めてだったので、ちょっと緊張しました。
面倒臭がりだけど仕事はしっかりやつタイプの死神さんと綾小路さんでした。

きっとこの後、報連相しようと思ったら「おや?協会に連絡が取れない・・・」ってなって、トリップに気付くはず。←



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