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『君は誰?』

『わからない』

『名前は?』

『・・・名前なんてない』


初めて会った時の会話だ。








俺には前世の記憶がある。前世と言っても、今俺が生きる時代よりも未来・・・否、世界そのものが違う場所での前世。


前世、俺はただの学生だった。将来の夢はまだ見つかってなかったけど、これから見つけていこうと・・・そんな希望を持った学生だった。

なのに俺は、ある日呆気無く死んだ。交通事故だった。


酷い痛みと叫ぶ人の声。朦朧とする意識の中で感じた救急車の音。タンカーで運ばれて、それから・・・

もうそこから、俺の意識はない。たぶん、治療が間に合わず死んだのだろう。





そうして次に目が覚めた時、俺は赤ん坊だった。

生まれ変わった。転生、とでも言うのだろうか。兎に角俺は、今の俺になった。


けれど今世の俺は、幸福な家庭に生まれることは出来なかったようだ。



まず、物心つく頃には母親はおらず、酒臭い中年の男とやけに派手にめかし込んだ女がいた。

おそらく中年の男の方が父親で、女の方はその遊び相手か恋人か何かだったのだろう。


彼等は赤ん坊の俺を育てることはなく、ソレやコレと呼んでは邪魔者扱いをした。

ボロボロで死にかけで、それでも俺は生きて来れた。



何故と問われるかもしれない。突拍子もない話だが、俺には不思議な力があって、強く強く願えば食べ物や水が自分のもとへやって来た。

今思えば、顔も知らない母親が魔法使いだったからなのだろう。




赤ん坊の口には到底合わないであろうスナックを水でふやかして飲み込んで・・・

明らかに栄養不足で何度も何度も死を感じた。





そんな中でも年月は経ち、俺は何時しか二足歩行できるようになった。

その頃には、俺はもっと邪魔者になっていた。


初めて見た頃より肥えた中年の男は俺の腕を掴んで無理やり“その場所”へと連れて来た。




孤児院だ。




『此処から動くんじゃねぇぞ、クソ餓鬼』




その男の姿を見たのはそれが最後。

最後まで、俺はこの世界での自分の名を知ることは出来なかった。呼ばれなかった名前は、何の意味も持たないのだ。


男に未練は無かった。だから一度だって俺が泣くことはなかった。

・・・けれど時期が悪かった。その日は寒い寒い冬の日で、俺は寒さでがくがくと震えていた。




寒い。辛い。俺はまた死ぬのだろうか。何て酷い人生なんだ。こんなことなら、生まれない方がマシじゃないか。

そう思った頃だ・・・





ゆっくりと開いた扉。中から出てきた、黒髪で綺麗に顔の整った少年。けれど一番目を惹いたのは・・・真っ赤な、きらりと光る宝石の様な眼だった。

彼の整った唇が開き、紡がれた言葉こそ冒頭の台詞。


自分が何なのかも名前さえも分からない俺の手を引き、少年は俺を孤児院の中へと入れた。






そのすぐ後に知ったのだが、少年の名はリドル。リドルは苗字で名前はトムなのだが、トムという名は嫌いなのだそうだ。

リドルは頭が良かった。俺は、リドルにいろんなことを教えて貰った。


孤児院には沢山の子供がいたのに、俺にとってはリドルしかいなかった。リドルも、俺以外とは殆ど口を利いていなかった。





『君の名前を思いついたんだ。○○なんてどう?』

『・・・○○?』





狭い部屋の小さなベッドで二人丸まって眠っている時、まるで内緒話をするようにリドルが言った。

名も無い俺に名前を付けてくれたのはリドルだった。その日から俺は○○になった。


リドルはこの世の何より信頼できる。リドルは俺にとって一番大事な存在。そんな考えが確立した瞬間だった。

そのしばらく後だろうか・・・




ある日俺とリドルの前に、一人の老人が訪れた。

名をアルバス・ダンブルドア。ホグワーツ魔法学校の教員だった。


そこで俺とリドルは初めて、自分たちが魔法使いの素質を持っていることを知った。




ダンブルドアに連れられてホグワーツへ、そうしてリドルと共にスリザリンへ。

俺の中に、リドルと離れると言う選択肢はなかった。



リドルとは、俺の世界そのものなのだ。離れられるわけがない。

リドルだって俺と一緒を望んだ。


だってそれが普通だった。何時の間にか、一緒にいることが普通になってて、手を握ることが普通になってて、抱き締めあうことが、キスすることが、身体を重ねることが――












「ねぇ、○○」

「何だ、リドル」


「少し寒くなってきちゃったよ。抱き締めてくれる?」

「俺も丁度寒くなってきたところだ。抱き締めさせてくれ」



ベッドの上で読書をしていたリドルをぎゅっと抱き締めると、リドルは小さく笑いながら抱き締め返してきた。



「・・・あったかい」

「俺もだ」

ちゅっとリドルの額にキスをすれば、少しだけ不満そうな顔。




「唇じゃないの?」

「唇にもするさ」


云うや否や合わせられる唇。

舌を絡めてきたのはリドルからで、唇を放せばリドルは悪戯っぽく笑った。



そんな可愛い悪戯者を更に強く抱き、その耳元で「愛してる」と囁いた。

リドルは微笑み「僕もだよ」と言った。







名も無き少年の人生






お互いがいれば、それで良いから。



あとがき

転生は少し憧れますが、生まれた先が幸せとも限らないからちょっと怖いですよね・・・。←

あと、申し訳無いのですが、同じ方からのリクエストは受け付けないと企画の注意事項でお知らせしました。名前を変えれば大丈夫という意味ではなかったのですが、こちらの説明不足だったようで申し訳ありません。
今回は二つとも書かせて頂きましたが、次回からは注意事項をよくお読みくださると有難いです。
リクエスト有難う御座いました。



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