事実は小説より奇なり
先人はよく言ったものだ。
まさに、俺が今置かれている状況そのままだ。
パシンッ、パシンッ・・・
「・・・なぁー、天谷〜」
パシンッ
「んー・・・?」
パシンッ
「それ、楽しいか?」
パシンッ
「さぁ?知りたければ、○○もやる?」
パシンッ
「・・・いいや、俺は良いや」
丁重にお断りの言葉を口にすれば、天谷はその顔にニヤッとした笑みを浮かべながら「そっ」と短く返事をした。
パシンッ
俺の目の前では今・・・
血で汚れた天谷が長縄を飛んでいる。
言葉だけではあまり伝わらないというのは、実に歯がゆいことだ。
何故こんなことになってしまったのか、生憎俺にはわからないのだ。
気付いたらクラスメイトが皆死んでて、気付いたら俺は生き残ってて、気が付いたら病室にいて、気付いたら割と仲良しな天谷がいて、気付いたら天谷が長縄飛んでて、気付いたら・・・
「・・・ぁーあ、わけわからねぇ」
俺がこうやってボーッとしている間も、何が楽しいのか天谷は縄を飛ぶ。
俺と天谷が此処に来る前は、知らない奴等が縄を飛んでいた。
どうやらこの縄を4人で100回飛ばなきゃ、クリアにはならないらしい。
先に飛んでた奴等は、何だかんだで死んだ。正直天谷と喋っててよく見てなかったから、何で死んだかは知らない。興味もない。
・・・あぁ、俺はこんなんだから、変人奇人の天谷と割と上手くいっているのだろう。
何だかんだで天谷も俺のことはダチだと思ってるっぽいし。
・・・まぁ、こんな状況だし、天谷は俺より楽しい方を選ぶに違いない。別にそれでも構わないし。
パシンッ、パシンッ・・・
「なぁ、今何回?」
「3592回」
「ふーんっ・・・」
何が楽しくて、そんなに縄が飛べるのか。
ってか、お前が飛ぶ意味とかあんの?と問いたいところだが、天谷は楽しいから飛んでるんだ。それ以上の理由はない。
天谷が飛んでいる間、俺はぼーっとしているばかり。
此処に連れて来られる前の体育館の中ででも、その前の教室の中でもそうだ。
突然現れたダルマに偶然近い席で転寝していた俺は、目が覚めたら血の海を見た。
どうやら俺が眠っている間に大体の片は付いていたらしく、皆仲良く自滅していた。
俺は意味の分からぬまま、とりあえずあのダルマがこちらに背を向いている間に背中に見えたボタンをポチッと押した。そしたら生き残った。
廊下で、俺と同じように生き残った天谷を見つけ、二人そろって体育館へ。
体育館では変な招き猫がいて、やっぱりその時の俺もぼーっと眺めていた。
他のクラスのヤツが頑張っているのを見つつ、天谷が人を殺してるのも適当に見ていた。そしたらまた生き残った。
そして目を覚ました病室では、天谷が同室だった。
他にも同室のヤツがいたけど、ソイツは部屋にやってきたコケシに一番最初に挑戦して、一番最初に死んだ。
二番目に挑戦した天谷が見事クリアして、俺はおこぼれで生き残った。
天谷が「行こう、○○」って言って手を引くもんだから付いて行ったけど・・・
「俺、此処にいる意味なくね?」
「ある」
「マジ?」
「俺を見つめるのが、○○の役目」
「・・・ほぉ、そりゃ楽な役目だな」
なんて言う冗談を言いつつ、ついに天谷は5000回を超えた。
かれこれ1時間以上は飛んでいるが、天谷の体力は大丈夫なのだろうか。
・・・いや、まだ目は爛々と輝いているし、心配の必要はなさそうだけど。
「俺さぁー」
「んー?」
「○○のこと好き」
「そりゃどうも」
突然何を言い出すのかと思えば・・・
全く持って、天谷とは次の行動が予測出来ぬ男である。
縄を飛びながら満面の笑みを俺へと向ける天谷。
「○○は?」
「ん?」
「俺の事、好き?」
何だそりゃ。
俺はぼんやりしながら天谷の満面の笑みを見る。
残念なイケメンとはコイツのことだろうな。
折角のイケメンも、こんな性格じゃ台無しだ。
でもまぁ・・・
「好きじゃなきゃ、お前とずっと一緒にいるわけなくねぇか?」
「それもそっか♪」
満足気な顔で頷く天谷は更に飛び続ける。
実は天谷とこうやって喋っている間も、変なコケシが喋っているのだが、俺も天谷も無視している。
天谷は俺と喋っているからとして、俺はと言えば・・・興味が無いから無視してる。
「今、外じゃ俺等みたいな生き残りを“神の子”って言ってるんだってな」
何気なくつけたテレビで、そう報道されているのを見た。
「けどさぁ・・・正直、最後に生き残るために必要なのは・・・運だよなぁ」
「へぇー、○○はそう思うんだ」
「だってそうだろうよ。俺なんて、これまで運で生き残ったようなもんだ。ダルマの時も招き猫の時もコケシの時も、今だって俺は自力で生きちゃいない。クラスメイトの自滅、知らんクラスの奴の頑張り、お前のおこぼれ、おそらくこの先も、俺は運だけで生き残る・・・いや、途中で運を使いきって俺は死ぬだろうな」
「・・・ふーんっ」
俺が死ぬと発言した途端に、天谷の目が恐ろしく鋭くなった。
「○○を殺すヤツは俺が殺す」
「・・・あー、うん、ありがと」
天谷の俺への執着は一体何処からくるのだろう。
天谷はこう言っているが、この意味不明な現象の終わりは何処にあるのかなんてわからないんだ。
もしかすると、最後のたった一人になるまで、この現象は続くのかもしれない。
そうなれば、たとえ天谷が頑張って俺を生き残らせても、最後はきっと・・・
「まぁ、天谷なら良いか・・・」
「何が?」
「俺、天谷になら、殺されても良いなぁーって話」
「・・・なにそれ」
気に入らなかったかな?と思いつつ天谷を見れば・・・
「・・・サイコーじゃん」
吃驚するぐらい恍惚とした顔をしていた。
成程・・・
どうやら俺の最期は、天谷に殺されて終わるらしい。
運が尽きればさようなら
まぁ・・・
「なるようになるか・・・」
やっぱり俺は、ぼーっとしていようと思う。
あとがき
リクエスト有難う御座いました。
初めての天谷くん夢だったので、何だか妙に力が入ってしまいました。←
主人公君はこのまま生き残っても美味しいし、もし此処で死んじゃった場合でも・・・
秋元が天谷に『いや・・・あんた・・・地下にいたんじゃなかったの?』と聞くシーンの返答『“優しい人”が助けてくれたんだ。お前らみたいな優しい人♪』の優しい人が主人公でも良い。
天谷が血まみれだったのは、主人公が目の前で死んじゃったか、それともその手で殺したか・・・って。←
・・・あ、いや・・・夢だったら、やっぱ生きてた方が良いのかな?(汗)←
駄文失礼しました!