※『コンプレックス☆ショッキング』続編
僕が入った五班の人達は良い人ばかりだった。
あの忌々しい事件・・・
自分の股間を話題にされた、悲しくも悔しい事件の後、慰めてくれたのは五班の人たちだった。
・・・いや、アドルフさんに関してはもう何も言うまい。あの人には冗談が通じない。
僕の話を親身に聞いてくれた五班の皆は優しい笑顔で「大丈夫。誰もそんなことで○○を笑ったりなんかしない」と言ってくれた。
・・・が、勘違いして欲しくないのは、僕は別に股間にコンプレックスを抱えていたわけではないということだ。
気にしているのは股間じゃない。弄られたことだ。
なのに、どう勘違いしたのか五班の皆は「デカイやつなんて幾らでもいる!」と豪語したのだ。
待って。それ違う。全然違う。
慰める観点が可笑しい。何故皆、僕が股間のことを気にしていると思うのだろう。
そもそもこれまで比べる相手がいなかったのだ。これが普通だと思っていたのだ。気にするも何もないだろう。
そこまで言われると、え?これって可笑しいの?と不安になるじゃないか。
・・・え?そんなにデカイの?
「・・・はぁっ」
あれから大浴場に入るのを控えた僕。気にしている訳ではない。決して。
個別のシャワールームでトレーニングの汗を流し、ため息を一つ。
服を着て、頭をガシガシと拭きながらシャワールームを出れば「おっ」と声が聴こえた。
「よぉ。初めまして、だな」
「・・・貴方は確か、鬼塚慶次さん」
「あ、知ってたのか。けど、呼び捨てで良い」
「そっか。慶次のことは、燈たちが話してたから知ってたんだ」
慶次の肩にかかったタオル。
「シャワー、隣だったんだ」
「あぁ。中で大きなため息を吐いてるヤツがいるから、誰かと思った」
その言葉に苦笑を浮かべる。ため息、そんなに大きかったんだ。
「ちょっと話さないか?」
慶次の誘いに「あぁ」と頷く。
連れられたのは、シャワールーム傍の休憩所だった。
ビニール張りの長椅子に並んで腰かけると、何故だか慶次がぽんっと僕の背を叩いた。
「燈たちから聞いたぞ」
「・・・えっ」
その言葉に嫌な予感がする。
「誰にだってさ、コンプレックスってあるんだ。あまり、深く気にすることなんてねぇよ」
・・・そろそろ、泣いて良いだろうか。
何がどうしてそうなった。
僕が何時、コンプレックスを持っていると言った。言ったのは周り・・・というか燈たちだろう。
燈たちも、何故人に言った。奴等、今度仕返ししてやる!
「慶次、君はちょっと勘違いしてる」
「え?」
「僕は別に、自分の身体に関してコンプレックスを抱いているわけじゃないんだ。あれは、燈たちが勝手に言ってることで・・・」
「・・・無理するなよ」
はい?
「大丈夫だ。誰にだって悩みはあるんだ。それを隠したり必要ないだろ・・・仲間なんだから」
何か良い話っぽい雰囲気になってるけど、一体どういうことだ。
慶次は何故そんなにも温かな目で僕を見ているのだろう。
・・・あぁ、慶次。君もアドルフさん同様冗談が通じない系の人か。そうなのか。
面白半分に僕の話をした燈たちのニヤニヤ顔が浮かぶ。奴等、楽しんでるな・・・
「だから、何かあったら俺に相談しろよ、○○」
ぽんぽんっと叩かれた肩に輝かしいばかりの笑顔。
僕は・・・半笑いで頷いた。
慶次に謎の励ましを受け、微妙な気持ちのまま五班へと戻る。
すると笑顔で迎え入れてくれた五班の人たち。良い人達なのだ。良い人達なのだけれども・・・
「○○、浮かない顔をしているな。もう気にしなくても良いと、そう言っただろう」
「・・・アドルフさん」
「そうだぞ○○!男がそんな小さいことでくよくよすんな!」
「・・・イザベラさん」
五班到着直後、一斉に励まされる。
いや、ちょっと待って。僕別に、コンプレックスで落ち込んでたとかじゃないから。全然違うから。
「○○」
「・・・はい」
「安心しろ。お前の仲間は、お前の全てを受け入れる」
「・・・・・・」
あの・・・
感動的な台詞をこんなくだらないことのために口にしないで貰えます?
コミュニケーション☆ショッキング
彼等は僕にコンプレックスを作らせたいのだろうか。
そう疑問に思う今日この頃である。
あとがき
何となくですが、慶次さんを登場させてみました。
そのせいでアドルフさんの出番が削られてしまって・・・申し訳ありません。
皆、何故だか主がコンプレックスを持っていると信じて疑いません。それだけ、ドン引きのデカさだったそうな・・・。←