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幼稚園の頃の出来事だ。

同じチューリップ組のゆきちゃんは、嗅覚が異常なほど良かった。

嫌な臭いを感じるとすぐにその場から逃げ出してしまうぐらい。



ゆきちゃんが逃げた先に居るのは、何時だって僕だった。

理由を聞けば『○○くんはくさくないから』という単純な返答。



『ぼくはクサくないの?』

『○○くんはくさくないよ。いいにおい』

『そっか!』



良い匂いと言われて悪い気はしない。それに、自分に縋って泣くゆきちゃんが、幼い頃の僕は大好きだった。

我ながら歪んだ子供だったと思う。



『じゃぁ、ぼくがゆきちゃんをまもってあげる』

『まもる?』

『くさいにおいから、ぼくがまもってあげる』



ぎゅーっと抱き締めれば、ゆきちゃんは嬉しそうに笑ってくれた。

それからだ。ゆきちゃんは何をするにも僕と一緒を望んだ。お絵かきするのも一緒。外で遊ぶのも一緒。お昼寝の時間も一緒。

幼稚園を卒園したら次は小学校。小学校から卒業したら次は中学校・・・



ずっとずっと、ゆきちゃんは僕と一緒を望んだ。



成長するにつれてお互いだけでは駄目だと頭では理解しても、それでもゆきちゃんは僕を望んだ。

それは異常だったかもしれない。異常以外の何物でもなかったかもしれない。



けど僕は、ゆきちゃんを拒むことはなかった。


何故ならそれが嫌ではなかったからだ。

ゆきちゃんは僕に依存してる。けれどそれは僕だって同じだ。




ゆきちゃんは自分を守ってくれる僕が好き。

僕は自分を頼るゆきちゃんが好き。


ほら、両想い。




歳を重ねるごとに、ゆきちゃんの僕に対する依存は大きくなっている気がする。


思春期になれば体臭だって出てくる。弁当のおかずのニオイにでさえ反応してしまうゆきちゃんが耐えられるわけがない。

普段はマスクでどうにかしているけど、結局のところ本当に心が休まるのは僕の傍だった。これはたったそれだけの話。何も可笑しい話じゃない。







「○○君・・・」

ほら、今だってゆきちゃんは僕の首に腕を回して首筋に顔を埋めている。


至極幸せそうな顔で「あぁ、○○君の匂い・・・」なんて呟くゆきちゃんは大概可笑しい。それを笑顔で受け入れている僕も可笑しい。





二人きりの部屋にはゆきちゃんと僕の息遣いがよく聞こえる。

すんすんと僕のにおいを嗅ぐゆきちゃん。幸せそうに声を上げるゆきちゃん。


そっと頭を撫でれば、ゆきちゃんは嬉しそうな顔で僕を見た。僕を見て、ゆっくりと口を開く・・・








「ねぇ・・・食べても良い?」







これは、最近のゆきちゃんの口癖だ。


食べても良い?

何を?当然、僕の肉を。



最初は僕の目玉を欲しがった。


『僕以外を映す目なんて取っておかないで。お願いだから僕だけを見て。○○君には僕だけを見ていて欲しいから、○○君の目玉は僕に頂戴』


そんなことを言っては僕の目を抉ろうとしたゆきちゃんに僕はにっこり笑って言った。



『目を取られたらゆきちゃんを見れなくなっちゃう。もうゆきちゃんを見ちゃいけないの?』



ゆきちゃんは『駄目駄目。僕だけを見て』と言って目玉を抉りだすのを止めた。




ゆきちゃんは何時だって矛盾してる。抉ろうとするのに見て欲しいなんて、本当に矛盾してる。

けどそれでも良い。それだけゆきちゃんは僕の事が好きだから。


本当は僕だってゆきちゃんの目玉を食べたい。綺麗で可愛いゆきちゃんの目は、きっと甘い甘い味がするのだろう。




次にゆきちゃんは僕の手足を欲しがった。自分以外に触れる手も、自分以外の人に近付く足も、全部切り取って、でもただ切り取るだけは勿体ないから食べてしまいたいのだと言っていた。

それでも今僕の手足が残っているのは、ゆきちゃんがまだ僕に抱き締めて欲しくて僕に近づいてきて欲しいから。ほら、矛盾。

耳を食べたがって耳を残して、口を食べたがって口を残して・・・

食べたがるのに残す。でもやっぱり食べたい。





「いいよ、ゆきちゃん」

だからゆきちゃんは我慢した。



「っ・・・」

僕の身体を齧るだけで、我慢した。


脱がされた制服の上着。出てきたのは傷だらけの身体。

普段制服で隠れる部分にはゆきちゃんの歯形が沢山ある。



たまに齧りすぎて肉が抉れた部分もあって、抉れてしまった肉はゆきちゃんが嬉しそうに咀嚼して、幸せそうに飲み込む。

ほら、今も強い力で噛み過ぎて肉がぷつりと切れる。






「○○君、美味しいよ」


まるで紅を塗り付けたように赤くなった唇と咀嚼される僕の身体の一部。

僕は「ぅ、ぐ・・・そっか」と言いながら笑った。痛いけど、つい笑ってしまう。






「じゃぁ・・・お返しを頂戴よ、ゆきちゃん」

「うん、いいよ」


満面の笑みを浮かべたゆきちゃんが僕と同じように制服の上着を脱ぐ。見えるのは、僕と同じように傷だらけの身体。



僕が食べたんだ。ゆきちゃんを齧って抉って噛んで飲み込んで・・・

僕のせいで傷ついたゆきちゃん。僕が傷つけたゆきちゃん。

それだけで僕は愛おしさが込み上げてくる。




あぁ、可愛い可愛い僕のゆきちゃん!


白い肌に指を這わせ、ぴくんと震える肌に容赦なく歯をあてて・・・






「ん、う゛・・・」

歯を食いしばって痛みに耐えるゆきちゃん。痛いだろうに、けれどその眼は爛々と輝いて・・・


あぁ分かるよ。幸せなんだよね。今この瞬間だ、お互いがお互いを喰らいあうこの瞬間が、酷く幸せなんだよね。僕も幸せだよ。ゆきちゃんを食べられて、とっても幸せ。

今はまだ無理だけど、何時かもっとお互いを食べようね。





お互いを喰らって、真っ赤に染まって・・・

あぁ真っ赤に染まったゆきちゃんはきっと何より綺麗だろうね。ゆきちゃんも、もしかしてそんな風に思ってるのかな?


あぁ、愉しみだねゆきちゃん。何時か僕らはお互いを喰らいつくすだろう。どちらかが先に息絶えても、それでも求めるだろう。

だって愛してるから。一つになりたいから。





ゆきちゃんが僕を食べたがって、僕はそれを受け入れた。けどゆきちゃんばかり食べるのは狡いから、僕もゆきちゃんを食べたがった。

お互いにお互いの肉を交換して、しばしの間相手の身体が自分の中にある優越感を感じて、また相手を欲しがる。


ゆきちゃんの脇腹に僕が新たな傷をつけた。僕の肩には、ゆきちゃんに抉られた痕が出来る。






「○○君は、血まで良い匂いだね」


ぺろりと自らの唇を舐めるゆきちゃんは酷く綺麗だ。その唇にそっと口付ければぴりりと痛みが走った。

噛まれた唇からたらりと血が流れる。その血をゆきちゃんが舐めた。








「何時か、○○を全部食べさせてね」

「じゃぁ、ゆきちゃんも僕に全部食べさせてね」


小さな子供のように指切りをして僕等はただただ純粋に笑った。






ぱくぱくもぐもぐ





あとがき

お互いがどっぷり好きで依存しちゃってる感じの話でした。
若干リョナ慣れしてなくて、ぬるいカニバ表現にしかならなかったことが非常に申し訳ないです。
い、何時かリョナも頑張ってみますね!(汗)



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