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※『有能過ぎる清掃員さん』続編。



「○○さん、この間頂いた洗剤、とてもよく汚れが落ちました。有難う御座います」

「・・・・・・」



無口ながらもこくりと頷いてくれる彼に心が安らぐ。

彼は初めて出会った時も無口な人だった。









あの日私は五道転輪庁から提出された書類の件で五道転輪庁へと足を運んでいた。



少し離れた場所でチュンさんが亡者を追いかけていたんでしょうね。彼女が壊した建物の破片が降って来て、破片自体は全て避けることが出来ても、その破片が弾いた泥までは避けることが出来なかった。

べしゃりと顔を汚す泥。不快感でつい足を止めてしまった私の視界に入ったのはその場の清掃を始めようとしていた○○さんだった。



彼は私を見るとつかつかと近づいてきて、何かを顔に押し当ててきた。


最初こそ抵抗しようと思いましたよ。けれどあまりに彼の動きが素早く、抵抗する暇さえ与えなかった。・・・チュンさんと良い○○さんと良い、此処は私の敵わない人ばかり。



頬に触れた柔らかなものがハンカチだと気づいた頃には、痛くない絶妙な力で頬を拭われていた。







「・・・綺麗になった」







単調な声で告げられた言葉。目の前にあるほとんどを布で覆った顔。唯一少しだけ見える目元が、心なしか緩んだように見えた。

その瞬間、私の心は決まったようなものだった。




彼、○○さんに惹かれたのだ。



彼が五道転輪庁で働く清掃員だと知るのにそう時間はかからず、気付けば私の頭の中は○○さんのことで埋め尽くされていた。



あの日頬を拭ってくれたハンカチは洗って返した。

返すときも無言で、実は無視されているのでは?と思ったこともあるけれど、それは違うとすぐにわかった。



彼は自分の仕事に誇りを持っている。掃除をすることが何より優先で、掃除が終われば無口ながらもきちんと対応してくれる。




そんな不器用なところにも惹かれて、もっと好きになった。


用事がある時や暇がある時は彼に会いに行った。会話した数なんてたかが知れているけれど、傍にいるだけで私は安らげた。














「・・・鬼灯殿」

「え?はい、何でしょう」


掃除をしていたはずの彼が突然私の名前を呼んだ。

彼から話しかけてくるなんて珍しい。つい目を瞬かせた私の目の前に、何かが差し出された。


ずいっと目の前に来たソレは何やらクリームのようなものが入った瓶。

咄嗟に受け取ったそれを黙って見つめていると彼は静かに「・・・金棒の手入れ用だ」と言った。




「あぁ、磨き用クリームということですね」

そういえば最近金棒の傷が目立ってきていた。掃除に余念のない彼はそれに気付いて用意してくれたのだろうか。・・・私のために?



「・・・布に付けて、磨く」


短くクリームの遣い方を説明した彼は、すぐに掃除に戻ってしまった。

黙々と掃除に勤しむ彼とクリームを交互に見比べる。





「・・・○○さん」

返事は無い。

けれど聞こえているだろうから、私は言葉を続ける。





「大事に使わせて頂きます」

手の中にあった瓶を大事に懐に仕舞いながら、つい口元に笑みを浮かべた。



胸は喜びで一杯だった。きっと、彼から貰えるなら例え石ころだって嬉しいでしょう。









清掃員さんの贈り物






やはり私は、彼の事がどうしようもないぐらい好きらしい。



あとがき

『有能過ぎる清掃員さん』が割と人気になってくれて嬉しいです。
2014年最後に更新した短編小説なので、何だか感慨深いです。

割と鬼灯様の純愛気味になりましたが・・・
駄文失礼しましたっ!



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