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地下は寒い。


地上には太陽があるが、地下にはない。

だから地下は寒い。




食べる物も無ければ、着る物だってまともにない。

ボロボロで臭い服を来て、生ごみを漁る。必要があれば人から奪う。


けれど失敗することもあった。


今日はその失敗の日だ。




逆にぼこぼこにされて、泥水の上に倒れ込んでいた。

泥水が服にしみ込んで、最初は寒かったが、今はもう冷たいという感覚も失いかけていた。


傍を通る奴等の目には俺は映らない。

何故なら、此処の奴等は自分が生きるのに精一杯だからだ。

人に構っている暇があるなら、己の今の食事の心配をする。


此処ではそれが普通なんだ。だからこそ、俺はただただ黙って自分の身体が弱って行くのを感じて――







「おやまぁ・・・」







誰も立ち止まらなかった中・・・突然一人の男が、泥水の上で倒れて動けなくなっていた俺に気付いて立ち止まった。



「そんなところで寝ると、風邪を引くんじゃないかい?」


うるせぇ、ほっとけ。

そう言いたかったが、その時の俺は指一本動かせないほど疲れ果てていて・・・




「おやおや、喋れないのかい?これは困ったねぇ」

そう言いながら何故だか俺を抱き上げて・・・









「ほら、これでも食べたらどうだい。毛布もあげようか」


気付けば男の自宅と思われるボロ屋にいた。

ボロと言っても家があるだけマシだ。硬くてぱさぱさしていてもパンはパンだ。ほつれてたり破れてたりしたって毛布は毛布だ。


俺の身体を毛布にくるみ、口元にパンを差し出してきた男。



腹が減っていた俺は、気付けばパンに貪り付いていた。

パンを全て食べ、少しだけ腹が満たられる感覚が訪れてから、俺はやっと男の方へと目をやった。


俺がパンを食べ終えるまでただ見守っていた男。




「・・・何で、俺を助けたんだ」

「助けた?あぁ、いやいや・・・私はただ――面白そうだからやっただけさ」


にやりと笑った男。



面白そうだったから?この地下で面白そうだからって自分の食料を差し出すなんて、変わったヤツもいたものだ。





「ゆっくりしていくと良い。この家には私一人しか住んでいないからね」

ボロの椅子に腰かけ、同じくボロのテーブルに肘を突いて言う男。



家の中は寒かった。けれど室内で毛布まである分、外よりずっとましだった。

無言で家に居座る俺を咎めることなく、男は「この家が気に入ったかい?」などと笑っていた。



家具は一通り揃っていて、寒さも酷くは無い。

ある意味この家は俺にとっての“快適”だった。


冬が終れば春が来る。春が終れば夏が来る。もう男――○○の家に居る必要なんてなかったはずなのに、俺は家にいた。気付いたのは夏が終わる頃。時分でも驚いた。




夏が終われば秋が来る。秋が来れば冬が来る。

俺は何度も季節を繰り返した。気付くのは何時も冬が来る少し前。だから俺は、出て行くタイミングを失った。






気付けば長いこと、○○という男と過ごしていた気がする。


俺はあの頃より強くなって、俺を『兄貴』と呼んで慕うヤツも出来て、調査兵団とかいう奴等とも出会って・・・












「俺は、調査兵団に入る」

「・・・ふぅん」


○○はボロの椅子に腰かけながら気の無い返事をした。



「良いんじゃない?行ってくれば?」

「・・・一度行けば、もう二度とこっちに戻らないかもしれない」


「そりゃ大変。明日からはまた食料を一人で確保しなくちゃね」



ははっと笑いながら言う○○に少しイラッとする。

この野郎は、俺がいなくなっても何も感じないのだろうか。長年、それこそ誰よりも一緒にいた。情ぐらい俺にも湧いている。なのにコイツは、本当に何も感じていないのか?


その事実に不機嫌になった俺は舌打ちを一つして○○に背を向ける。




もう此処には用はない。さっさと出て行こう。・・・足取りは、重い。自分が思っている以上に、俺は○○に情を移してしまっていたようだ。

そんな自分に軽く頭痛を感じつつ、ドアノブに手をやった。






「リヴァイ」






背後からの声に手が止まる。



「リヴァイ、私は実は君に一つだけ嘘をついたことがある」

「・・・何だ」


振り返れば、○○は小さく笑っていた。それは、悪戯っ子が悪戯に成功したときの笑みに似ている。





「あの日、面白そうだから君を助けたと言ったが、それは嘘だ」

「・・・・・・」


「君があまりに綺麗な顔をしていたから、好きになっちゃったんだ」

「・・・趣味の悪い野郎だ」


「ははっ、中身はこんなに暴力的だったけどね」




ドアノブから手が離れる。

○○の方へ、ゆっくり近づく。




「・・・今は」

「んー?」



「今は、好きじゃないのか」



「ううん。知れば知る程、もっと好きになった」


その答えに、俺は○○の手を取った。

○○は自分の手を握る俺の手を何処か穏やかな表情で見つめている。






「・・・一緒に、来い」

「それが君の望みかな?リヴァイ」


「あぁ」




「ふふっ、面白そうだし、行って上げよう」

「・・・嘘吐きめ」


「あぁ嘘さ。愛しい君がいるから、行くんだよ」






「最初からそう言え、馬鹿野郎」


そう言いながら歩き出す足は、さっきよりずっと軽かった。





冬が来て夏が来てまた冬になる





あとがき

ゴロツキ時代のリヴァイさんとのお話でした。
更新頻度が増えたことで少しでも喜んでくださったようで、とても嬉しいです。
今後も、出来る限り頑張りますね!



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