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※『パパが帰って来た』シリーズ。



お正月。

その言葉を見つけたのは、一冊の古い本だった。

こっちで言うニューイヤーのようなものだろう。書斎で一人読み進めていくうちに、その風習に興味を持ち始めた。








「皆、ちょっとおいで」


書斎を出て、リビングに足を踏み込みながら声を上げた。

リビングで新聞を読んでいたボーがいち早く反応し「何、パパ」と近づいてくる。

キッチンで蝋のマスクを作っていたヴィンセントも出来たてのマスクを冷ましながらこっちに来た。


まだやってこないのは、玄関の方で飼い犬のジョンに餌をやっていたレスター。




「おい!!!パパが呼んでるだろ!さっさとしろ!!!!」

「こらこら、ボー。そんなに急かさないであげなさい」


玄関に向けて怒鳴るボーに苦笑を浮かべると、ボーは素直に「ごめんなさい、パパ」と謝った。

しばらくして「なんだぁー、パパ」と脇腹を掻きながらのそのそ歩いて来たレスターにボーが掴みかかりそうになるのをヴィンセントが止めていた。






「お前たちにコレをあげよう」

そう言って三人に差し出したのは簡素な茶封筒。書斎の引き出しの奥にあった封筒をそのまま使った。


不思議そうにそれを受け取った三人に「中を見てごらん」と言えば、すぐに中身を確認し始める。




「んー?『パパ自由券』?」




名刺サイズに切った紙にペンで書かれただけのソレは、一人三枚ずつ。

何これ?とこちらを見る三人に「お年玉だよ」と笑った。



「おとしだま?」

「アジアの島国の習わしらしくてね。本当はお金を包んで渡すんだけど、生憎私自身はお金を持っていないし・・・その券を使えば、一枚につき一回、どんな我が儘でも聞いてあげるからね」


子供が親に渡すお手伝い券のようなものだ。

まさかこの歳になって、しかも息子相手にこんなものを渡すことになるとは思ってもみなかった。まぁ、見た目的には子供なのだけど。




「有難うパパ!とっても嬉しいよ!」

ぎゅぅっと抱きついてくるボーの背中を撫でてやれば、横に居たヴィンセントが僕も僕もと腕を引っ張ってきた。

二人まとめて抱き締めるには腕の長さも身体の大きさも足りない。仕方ないから、片手でヴィンセントの手を握ってやりつつ「ちょっと待っていなさい」と微笑みかける。





「ってことは、これ使えばパパは何でもやってくれるんだ?」


「レスター!パパを困らせるようなこと言ったら殺すからな!!!」

「こら、ボー。仲良くしなさい」



券を弄りながらニヤニヤと笑うレスターをボーが睨みつける。その隙にヴィンセントが私に抱きついてきた。・・・意外にちゃっかりした子だな。





「じゃ、パパ自由券一枚使うぞー」

「あぁ。言ってごらん、レスター」



「今日は俺の仕事に付いて来てくれよ、たまにはパパと一日中一緒にいたい。もちろん、そこのファザコン共抜きで」




「はぁっ!?ふざけた事言ってんじゃねぇぞ、レスター!!!」

すぐに怒りをあらわにしたのはボー。ヴィンセントも鋏に手を伸ばしているのを見て少しぎょっとする。




「こらこら、三人とも止めなさい。ヴィンセントも鋏は仕舞いなさい」

何とか二人を抑える。お年玉が原因で流血沙汰になったとなれば、笑えない話だ。





「パパ!俺も自由券使う!」

バッ!と差し出された券に「え?」と声を上げる。



「レスターと一緒に出掛けないでパパ!」

「はぁっ!?ズルいだろ、ボー!」

「・・・パパ、僕も」



・・・そういう使い方もあったか。これは想定外だ。

ボーの我が儘も聞いてあげたいけど、レスターも我が儘も聞きたい。ヴィンセントの我が儘はまだ聞いてないけど、この分だとレスターの我が儘を邪魔するようなお願いだろう。





「うーん、困ったねぇ・・・私は一人しかいないから、三人同時は難しい・・・」

「ほらみろレスター!手前のせいでパパが困ってるだろうが!」

「いやいやいや、困った原因はボーだろ!」


騒ぐ二人を尻目に「うーん」と考える私。




「ボー、レスター、ヴィンセント。パパの我が儘、ちょっと聞いてくれるかい?」

「何だパパ!何でも言ってくれ!」


「おー、今度はパパの我が儘か」

「うん。私はお前達全員の我が儘を聞きたい。けど身体は一つだ。だから・・・日を分けないかい?」

最初からこういう事態を想定しておけばよかったな、と少し後悔。




「今日は皆でゆっくり過ごそう。明日から、一人ずつの我が儘を聞こう。明日はレスター、明後日はボー・・・とかね」



私の提案に一先ず納得してくれたのだろう。

素直にこくこくと頷く息子三人の頭を撫でつつ「じゃぁ、今日はゆっくりしようか」と笑った。






このすぐ後、明日我が儘を言うのは自分だという喧嘩が巻き起こってしまったが、こればっかりは私も苦笑して見守るしかなかった。









お年玉を頂戴よ!






翌日「パパ!お年玉あげる!」と三人から差し出されたのが『ボー自由券』『ヴィンセント自由券』『レスター自由券』のそれぞれ三枚ずつで、つい笑ってしまった。



あとがき

流石におせちは材料不足なので、お年玉をやってもらいました。
パパは現在、専業主夫です。お金は持ってるけど、息子達の稼ぎだからなかなか使おうとは思えません。
・・・シンクレア兄弟の喧嘩は、武器を持ちだしそうで怖いですね。新年早々血を見そうです。←



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