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自らの処刑の時が迫っている。

家族が自分を助けに来た。


それは限りなく嬉しいことだったが、同時に限りなく悲しいことだった。

自らのせいで、自らの大事な家族が傷ついていく様を、自分は見ているだけしかできないのだ。



このままじゃ・・・

そう思うエースの脳裏には、ふと幼い頃を記憶が浮かんだ。


まるで走馬灯のように突然ぽつりと現れたその記憶は、本当に遠い昔の記憶だった。








『有難う。君は僕の命の恩人だよ』






まるで太陽のような男だったと思う。


その男は自分の前に突然現れ、突然消えた。



男は旅人だったそうだ。

物盗りに金を奪われ、少ない食料と水も底を尽いて行き倒れたその男は、まるで自分の状況を理解してないかのようにカラカラと笑っていた。

正直言って、エースは男の笑顔しか見た事がなかった。


短い期間だったからかもしれないが、それを差し引いても男は笑み以外の表情を浮かべることはなかった。



目の前で死なれちゃ気分が悪いからと渡した食べかけのパンを、男はそれはそれは美味しそうに食べた。

果てには明らかに年下の自分を命の恩人とまで言って笑う始末。


正直言って、あの時のエースは男が何か企んでいるのかもしれないと思い、心からその男に語りかけることはなかった。



それでもやっと男に心を開きかけた頃、男は唐突にもう行くと言い出した。

行くなと引き留める資格など自分にはないと思ったエースは「そうかよ」とだけ返し、そんなエースに男は笑って言うのだ・・・






『エースには、返しても返しきれない恩がある』

『・・・別に、パンをやっただけじゃねぇか』

『そんなことはない。エースは、もっと大きなものをくれたんだ。だから、もしもエースが危ない目に遭った時は――』




エースは思う。

こんな時にこんなことを思い出すなんて、と。





結局、エースが再び男と出会うことはなかった。

でもきっと、この広い世界のどこかにはきっといるはずだから、何時かはまた出会えるかもしれないと思っていた。でも、それももう無理かもしれない。いや、無理なんだとエースは思った。


出来ることならもう一目だけ、あの男に会いたかった。

そう思った時、“異変”は訪れた。













「エース」








エースの耳に届いたのは、酷く優しげな声。


「言っただろう。もしも君が危ない目に遭った時は――」



あの時と同じ表情。

あの時と同じ声。


エースは、自分の目から涙が零れるのを感じた。





「僕が守ってあげるよ、と」





満面の笑みを浮かべた男が宙に立っていた。



爛々とした笑み
冷々とした笑み
恍惚とした笑み
飄々とした笑み
憮然とした笑み



一体どんな感情がその笑みの中に込められているのかなんて、きっと誰にもわからない。

ただ一つわかることと言ったら・・・






「ほぉら、エース。捕まえた」

「て、敵だぁぁあああ!!!!撃てぇぇぇえええ!!!!!」


男は、エースの目の前にいるということだけだった。



慌てた海軍などにも目もくれず、○○はエースを捕える鎖をいとも簡単に引き千切り・・・





「あははははははっ!!!!!!今日は実に愉快な日となりそうだ!!!!!」

男は大きく笑い声を上げながら宙を駆けだした。





「○○っ、お前、どうして・・・!!!」

「いやぁ、風の噂ってヤツかな。エースが泣いている気がしたんだ」


「違うっ、そういうことじゃなくて――」




「守るって、約束したからね」

にっこりと笑う○○に、エースはついにその腕を○○の首に絡めて抱きついた。

よしよしとエースの頭を撫でながらも、海軍の砲弾をひらりひらりと避けて駆けていく。





向かう先はただ一つ。











「やぁ、白ひげ。大事な息子なら、そう易々と海軍にくれてやらないでくれないか?腹の中が煮えくり返ってお前を殺しそうなんだが」

「よぉ、○○。手前がこんな目立つ場所に出てくるなんざぁ珍しい。こそこそ隠れ回るのを止める気にでもなったか?」


明らかに喧嘩腰で白髭の前に立つ○○と、そんな○○をさも愉快そうに見る白ひげ。

白ひげのクルーどころか、海軍でさえもその邂逅を緊張の面持ちでその眼に写している。






「エースを助けてくれたことには礼を言うが・・・さっさとうちの息子を降ろしちゃくれねぇか?○○」

「断る。何故お前のような木偶の坊の言う事を聞かなければならないのか、さっぱり僕にはわからない。お前にエースを託したのがそもそもの間違いだった。今後は僕がエースの面倒を見る」


「グララララッ!!!!馬鹿言え、エースは俺の息子だ。手前なんかにくれてやる義理はねぇ」

「お前がエースの父親だろうがどうだろうが、僕にとってはそんなの関係ない。欲しいものは掻っ攫う。お前たち海賊にとっては常識だろう?僕はエースを貰う。お前は息子が嫁入りするのを黙って指銜えて見てな、白ひげ」


「手前みたいなふらふらした野郎に大事な息子はやらねぇって言ってんだ。エースは嫁にはやらんぞ、○○」


○○は満面の笑みで、白ひげもその顔に笑みを浮かべながら・・・殺伐とした雰囲気を醸し出している。

○○の腕の中にいるエースが、自分の頭上で繰り広げられる何やら恥ずかしい話に顔を赤くして慌てていることに、二人は気付いてはいない。





「くたばれ、白ひげ」

「手前がくたばれ、○○」


二人の間に沈黙が生まれた。



そして――






「・・・○○っ、お、おやじと喧嘩しないでくれよっ」

「・・・・・・」


エースの言葉で、○○はその笑みを深めた。




「喧嘩なんてとんでもないよ、エース!僕と白ひげは腐れ縁というヤツでね。こんなの、日常会話程度さ」

「グララララッ!!!!コイツは昔っからふらふらした野郎だったからなぁ!ふらりと現れては消えるの繰り返しだ」


「会いたくもない相手に会ってしまった時の僕の気持ちを考えて欲しいものだよ。行く先々に居るものだから、いっそ殺してしまおうかと何度思ったことか・・・それを実行しなかった僕は、なんて優しいんだろう」

「手前の力不足だろぅ?○○」

「その口を今すぐに縫い付けてやろうか、エドワード」

「上等だぁ。最後に戦った時は腹減ったって言って消えやがったからなぁ、この気まぐれ野郎が」



○○はにこにこと、白ひげは愉快そうに笑う。

二人の殺伐とした雰囲気が続く中、海軍は今がチャンスとばかりに攻め入ってきている。が、二人にはその攻撃が届くことは無い。


何故ならこの二人、言い合いながらも確実に敵の数を減らしているからだ。

白ひげを狙う敵を○○が蹴り倒し、○○を狙う敵を白ひげが殴り倒し、しかしお互い口は止めず・・・







「エースを寄越しやがってください、義父様」

「手前が息子になるなんて死んでも御免だ」

「だったら死ねよ」



結局その言い合いは、二人が飛び掛かる海軍を粗方倒し、白ひげ海賊団から「おい!今のうちに船出して逃げるぞ!!!」という声が上がり、海へと逃げ出した後も延々と続いていた。



「○○っ、だから親父と喧嘩しないでくれよぉ!」

「エース、違うんだよ、喧嘩じゃないんだよ」

「グララララッ!!!!そういえば○○の野郎、昔――」



「よーし、エドワード・ニューゲート。今すぐその口を閉じろ、さもなくばお前をぶち殺す」

「その前に俺が手前をぶち殺す」









「・・・・・・」

とりあえず・・・

せめてエースを降ろしてやってからにしないか?



終始エースを抱えたままだった親父の知り合いと親父の言い合いを見守りながら、他の船員たちは遠い目をしながら思った。







花嫁片手に笑う放浪者







あとがき

エースの処刑は何としてでも阻止したくなりますよね・・・
ということで【@ワンピースのエース夢/エース処刑阻止系】を実行させていただきました。

地味に最強男主。
軽い設定といたしましては・・・
白ひげと腐れ縁で、いろんなところをふらふらしてる。海賊ではない。
口では殺す殺す言ってるけど、たぶん一番気心が知れてる相手は白ひげ。一緒に戦えば息が物凄く合うが、お互い否定。

・・・相も変わらずの駄文、新年早々失礼しました(滝汗)



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