「セブルス、紅茶」
「あぁ・・・」
紅茶を淹れて差し出す。
有難うと短く言ってカップを受け取る○○の顔をじっと見つめた。
視線に気付いた○○が何?と問いかけてくる。何でもない、と我輩は首を振った。
○○は優しい人だ。
表立ってそれを表現しないだけで、本当は誰よりも優しい人。
我輩はそれを支えたい。支えて、一緒に幸せになりたい。
けれど何故だろう・・・たまに○○が遠くに感じる。
それはきっと、○○がこの世界のことを“知っている”ことに関連していると思う。
信じられない話かもしれないが、○○には所謂“前世の記憶”のようなものがあるらしい。
それはこの世界が小説の物語として知られている世界で、魔法なんてものは存在しなくて・・・
○○は我輩に嘘は吐かない。だから○○の話を疑わない。
けれど、その話を詳しく聞きたいとは思わなかった。
何故ならそれは、○○自身が“存在しない世界”の話だから。我輩の傍にいない、ただの読者としての○○の話だから。
その話を聞いてしまえば、我輩はきっと寂しく辛い気持ちになるだろう。我輩の傍にはちゃんと○○がいるはずなのに。
○○はこの世界に存在してる。それは変わらない。変わらないはずなのに・・・
ふとした拍子に、○○が消えてしまうのではないかという不安に駆られてしまう。
馬鹿みたいな話だと思う。一人勝手に不安になって、勝手に苦しんで・・・
○○が聞いたらきっと呆れてしまう。呆れたようにため息を吐いて、内心では心配してくれるに違いない。けれどそれは駄目だ。○○に無駄な心配を掛けさせてはいけないのだ。
何故なら○○は優しいから。
優しい○○の心配を増やしたくはない。我輩は、○○の重荷になりたくはない。
「セブルス」
「ぁ・・・」
目の前にずいっと突き付けられたのは空になったカップ。
慌ててそのカップを受け取って新たな紅茶を入れようとした。駄目だ、手が震えてしまう・・・
「・・・何か馬鹿なことでも考えてたわけ?」
「な、何だ突然。馬鹿なこととは失礼だな・・・」
的を射た台詞にびくりと肩が震えてしまう。
嘘は得意な方なのに、○○の前だとこうも単純な反応になってしまう。
案の定○○は我輩の嘘に気付き大きな大きなため息を吐いた。
こうなってしまえば、隠すことはほぼ無理だ。
紅茶を用意していた手を止め○○を見れば、○○は真っ直ぐと我輩を見ていた。
逸らすことが許されない真っ直ぐとした視線にごくりと息を飲む。
「言ってごらんよ。何考えてたの」
有無を言わさない、けれど本当は何より我輩を心配しての言葉。
心配されてるのを知っている。愛されているのを知っている。だからこそ、この言葉に背こうという気にはなれない・・・
「・・・○○が、消えてしまうんじゃないかと、思ったんだ」
「・・・ふぅん」
想像とは違いため息は吐かれなかった。その代わり、○○の目は我輩に対する呆れをありありと映している。
「分かってないね」
「え?」
「僕がそう簡単にセブルスを放してあげると、本当に思ってるわけ?馬鹿じゃないの?」
呆れた声のままに紡がれた台詞に一瞬頭が追いつかなくなる。
放してあげると思ってるわけ?って、それって、放さないとかそういう・・・
「何赤くなってるわけ?」
「ぁっ、いや・・・だって・・・」
わざとなのか無意識なのか、突然の台詞に顔が熱くなる。対して全く顔色が変わっていない○○に、何だか更に恥ずかしくなった。
普段はそういう台詞言わない癖に、突然そんなこと・・・
「不安になるぐらいなら、傍に来れば良い」
静かな声が耳に届く。
「僕はセブルスの傍にいるよ。ずっとね」
「・・・○○っ」
不安を根本から壊すような台詞に、我輩の胸に温かなもので一杯になった。
恐る恐る手を伸ばせばその手が握られて、ぐいっと引っ張られる。
傾いた身体を○○がそっと受け止め、抱き締められる。
じんわりと温かな抱擁に、胸に溜まっていた不安が解けて消えるのを感じた。
我輩を不安にさせる原因は何時だって○○で、それを解かしてしまうのも何時だって○○だ。
「○○、我輩は・・・」
「馬鹿だね」
そっと背を撫でられる。ぶっきら棒な声と違って、優しく優しく撫でられる。
「・・・愛してるって言ったら、不安じゃなくなるわけ?」
「っ!」
再び熱くなった顔を、我輩は○○の肩に押し当てて隠した。
そして小さな小さな声で「あぁ」と返事をする。
「だから・・・もっと、言ってくれ」
その言葉に○○は呆れたようなため息を吐きながら、それでもはっきり「愛してる」を言ってくれた。
君が解かす不安
あとがき
リクエストが【すれ違い 切→甘】だったのですが・・・
あれ?すれ違いというより、単なるセブルスが一人不安になってるだk(ゲフンゲフンッ
ああぁぁぁあッ!微妙な仕上がりで申し訳ありません!どうぞお許しくださいっ!!!!
こんな駄文、本当に失礼いたしました!