※『その亡者反省せず』続編。
「○○さん」
今日もそろそろか・・・
そう思った時、名を呼ばれた。
何時もと同じ。そう思っていたのに今日は大きく違った。
「・・・ぁ?」
視界を染めていた赤が・・・燃え盛る炎が消えた。
その途端、私を捕える枷が外れ、身体が地面に倒れ込む。
そんな私を見下ろすのは丁。私はそれを唖然としながら見る。
「○○さん、今日は良いものを見せてあげます」
赤に包まれていない視界で見た丁は、あの頃よりずっと美しくなった顔で言った。
その丁が私の手を掴み、私は唖然としながらも立ち上がる。
「早く行きましょう、○○さん」
手を握られたままの言葉が、私は辛くてたまらない。
まるであの頃の・・・幸せだった頃のようじゃないか。
手を引かれるがままに歩く私。地獄に来て此処まで長く歩いたのは初めてかもしれない。
丁以外の鬼が視界の端を何度も通り過ぎるのに、私の目は丁にばかり向かっていた。
周囲の景色の変化とか、そういうのには全く興味がわかない。
まるで目に焼き付ける様に、私は丁だけを見ていた。
「着きましたよ」
丁の言葉にはっとしてから、やっと周囲を見る。
当然のことながら全く見た事が無い場所。小さく聞こえる遠くの断末魔に私は目を伏せた。
「丁、一体此処で何を・・・」
「あそこを見てください」
え?と丁の指差す先を見る。
その先には、真っ赤な何か。
小さな断末魔の正体はソレだったのだろう。
「近づいてみてください。きっと驚きますよ」
まるで悪戯を仕掛けた子供のような言葉。私は恐る恐ると足を進めた。
近付けば近付くほど、断末魔は大きく聞こえ始める。
そしてある一定の距離、その赤の“顔”が見えた瞬間、私は「ぁ・・・」と声を漏らした。
わかってしまった。その赤の正体を。
「父、上・・・」
「貴方と私を引き離した罪深い亡者です。肉を少しずつ抉って、全て抉ったらまた戻して、そしてまた抉るんです。ね、素敵でしょう?」
何処か優しい口調で言う丁。悲鳴を上げながら真っ赤に染まる父の姿。
厳しい人だった。息子である私にも、周囲にも、自分にも。父は私が丁と関わることを何より嫌い、私に見知らぬ女を妻にさせた。
酷い人だと思った。それでも、私の父であることには変わりなく・・・
「大丈夫ですよ。死にませんから」
それが一番の地獄だと、丁はわかってて言っているのだろうか。
呆然と立ち尽くす私の手を再び引っ張り「次はこっちですよ」と言う丁。
父は延々と、悲鳴を上げていた。
「此処ですよ」
丁の声で足を止める。
悲鳴を上げるソレは、やはり見覚えがあった。
「あれは私が居なくなった後、我が物顔で貴方の傍を陣取っていた卑しい女です。ずっと顔を焼いてあげているんですよ。熱い熱い鉄を顔面に押し当てて、何度も何度も焼いてあげているんです。ほら、もう貴方に見せられるような顔じゃない」
「っ、丁、お前・・・」
手が震える。震えた手を、丁が強く握る。
「ほら、○○さん。もう邪魔をする人はいませんよ?何も恥ずかしがることはありません。だから、早く私を愛してください」
真っ直ぐと私を見つめ、微笑みすら浮かべ・・・
嗚呼、丁・・・お前は何故そんなにも・・・
「・・・私は、もう二度とお前を愛することはない」
「・・・・・・」
私はやはり罪深い。
可愛いお前にこんなことをさせてしまった。
彼等が悪くなかったとは言わない。私だって、彼等を憎んだ。
それでも、彼等だけが悪かったのではない。
悪かったのは私だ。愛しているなら、どんな邪魔があっても丁のもとへ行くべきだった。なのにそれをしなかったのは私で、丁を苦しめたのは私だ。
罰せられるべきは私だ。
私はもう、幸せになってはならない。
許され、丁に愛されることは許されない。
「・・・私は、愛してますよ、○○さん」
丁は私から顔を逸らし、再び私の手を引いた。
来た道を戻る足取りは重たい。
「・・・では、また明日」
手足の枷、燃え盛る炎。真っ赤にそまった視界が今は有難い。
きっと悲しんでいるであろう丁の顔を今は見なくても済む赤に、私は今だけ感謝した。
亡者の逢引き
「愛されてますね、私って」
酷く苦しそうに嘘を吐く貴方。
私への愛と自らの罪に苦しむ貴方は、どうしてこんなにも愛おしいのか。
あとがき
久しぶりの企画ご参加、有難う御座います。
鬼灯さんの愛が若干どころか大分歪んでる話でした。←
新年早々の駄文でした。申し訳ありません(滝汗)