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笑える話を一つしよう。

俺はこの度、人間卒業してゾンビに成り下がった。ほら、笑えるだろう?



身体は完全にゾンビなのだが、俺には意識があった。人としての意識だ。

ゾンビになる前のことも覚えてるし、何でゾンビになったのかも覚えてる。

ゾンビになった時の気分は、突然痛覚が無くなったかもっていう程度。


今までは自分を襲おうとしていたゾンビたちが俺に対し全くの無関心になった当たりから、俺は理解した。

あ、俺死んじゃったって。


死んだのに何故俺は意識があるのだろうか。

明らかに色が悪くなった肌を擦ったり手をグーパーしてみたりする。うん、俺の意思で身体は動く。

人は死ぬと、その魂は父である神の元へ還るという。が、死した後も俺の魂は肉の殻の中。俺がそこまで熱心な信者じゃなかったからなのだろうか。だとすれば、神様も随分と御心が狭い・・・






「ま゛い゛っだな゛ぁ・・・」





おっと、声は完全に駄目だな。軽く喉が潰れてしまっているのだろうか。言葉が喋れるだけ良いが、これじゃ化け物丸出しだ。まぁ化け物だけど。

喉を擦りながらふらふらと歩く。何処を見てもいるのはゾンビばかり。後、ゾンビに貪られている死体。



俺はため息を一つ吐きその場を後にする。付き合ってられない。


何処かゆっくり出来る場所にでも行こうか。どうせ俺はもう普通の生活は出来ない。後は身体が朽ちるのを待つばかりだ。・・・というか、ゾンビって何時死ねるのだろうか。まさかこのまま半永久的にこのままなんてことあるまいな・・・





バーンッ!!!





「・・・ん゛?」

少し離れた場所から聞こえた銃声。何だ、まだ生きてる人間がいたのか。

こりゃ一目見ておいて損はない。


俺はゆっくり出来る場所を探すのも忘れ、音のする方へとただただ歩いた。











音のする方へ行けば行くほど、ゾンビやゾンビとは違ったグロティスクな化け物の数が多くなる。音に引き寄せられているのかもしれない。


ゾンビの群れに紛れて音の発生源を覗き見る。

見えたのは綺麗なブラウンの髪持った男の後ろ姿。


おぉ、ありゃまさに生きた人間だ。武装しているところを見ると、なかなか腕の立つ人間なのだろう。




けれど残念。背後からずるずると近づいてくるゾンビに気付いていない。目の前にいる大量のゾンビや化け物で手一杯なのだろう。

どれ、別に助ける義理はないが少しぐらい手を貸してやっても良いだろう。生憎俺は、ゾンビになってしまった瞬間から完全に暇人だ。ん?暇ゾンビか?


そんな冗談を思いつつも男の背後へ近づいていく俺。ゾンビは大きく口を上げて男を喰らわんとしており、俺は迷わずぐいっと男の腕を引っ張った。

ハッとしてこちらを見た男の顔が引きつったのを無視し、俺は「伏ぜろ゛」と男の頭を下に押した。直後、頭上でゾンビの歯がガチンッ!!!と音を立てた。ギリギリ噛まれなかったな。


俺が言葉を喋ったことに驚いたのか、それとも俺が助けたことに驚いたのか・・・まぁ両方だろうな。その驚きからぽかんとする男の腕を更に引っ張り「走じる゛ぞ」と走り出した。

彼がどれだけ腕の立つ人間だとしても、この人数相手には分が悪いだろう。今は真っ向勝負するよりも逃げるが先決だ。

流石は死人。疲れはしない。が、あまり無理をすればすぐに身体はぐちゃぐちゃになってしまいそうだ。気を付けよう。






「はぁっ、はっ・・・」

あぁそうだった。一緒に走っていた相手は人間だった。



「・・・ずま゛な゛い。少じ走ら゛ぜずぎだった」

大丈夫か?と男を見れば男はバッと俺の手を振り払って距離を取った。まぁそれが普通だろう。





「お前は何者なんだ!意思のあるゾンビなんて・・・」

「・・・俺に゛も゛、わがらん。が、べづにじりだいとも思わ゛ん」


くぐもっててよく聞こえないだろうが、仕方ない。

男は俺の返事に不審そうな顔をし、近づいて来ようとはしない。意思があってもゾンビであることには変わりはない。賢明な判断だ。





「じゃ、俺は、い゛ぐ」

「は?何処にだ」


「べづに、行ぐあ゛でなん゛て、な゛い」

ただそのあたりをぷらぷら散歩するだけだ。どうせこれから暇だし、街で好き勝手するのも良いだろう。あ、ゾンビって普通の食事も食べられるのだろうか。後で試そう。





「待て」




男に背を向けかけた所で、男がずかずかと近づいてきた。

綺麗なのは髪だけじゃなかったらしく、その端整な顔立ちに内心感嘆の声を上げた。生きてさえいたら是非ともお近づきになりたいと思ってしまうぐらいには、俺の好みだ。




「助けてくれたことには礼を言う」

「そ゛りゃ、どーも゛」


「だが、不明点が多数あるお前を野放しにするわけにもいかない。俺と来い」

それはつまり、同行しろということか。





「止め゛どげ。俺はじょぜん゛、ゾンビだ」

意思があるから人間目の前にしても襲い掛からないが、おそらく俺は普通に人肉を食べると思う。意思があろうとも、ゾンビであることには何ら変わりはない。



「俺を襲おうとしてきた時は迷わずその眉間を撃ち抜いてやるから気にするな」

眉間を撃ち抜く・・・成程、ゾンビは頭を撃たれると死んでしまうのか。頭だけはきっちり守ろう。





「・・・わ゛がっだ。同行じでや゛る゛。づいでに、盾に゛でも゛なっでや゛る」


暇つぶしには丁度良いだろう。

どうせ俺はもう死んでいるのだから、これぐらい危険な暇つぶしの方が刺激的で良い。


「よ゛ろじぐ」

手を差し出せば、ぺしっと叩き落された。



「間違って爪でも刺さったらどうする。気を付けろよ」

「お゛ぉ、ずま゛な゛い゛づい゛ざっぎまでは人間だっだがら゛、わずれでだ」


後で服屋にでも侵入して手袋でも手に入れようか、なんて考えている俺に男は「おい」と再び声を上げた。

何だ?と見れば名前を尋ねられる。何のため?あぁ、呼ぶ時のためか。別に「おいゾンビ野郎」と呼ばれても俺は怒らないというのに、意外に律儀な男だな。





「ナマエだ」

「・・・俺はレオン・S・ケネディ。エージェントだ」


「お゛ー、がっごい゛い゛なぁ。ぐーる゛だぜ」

クールだぜと言いたかったのだが、上手くいかなかった。




「よろじぐな、ケ゛ネディ」

俺の発音が気に入らなかったのか、ケネディの眉間に軽く皺が寄った。



「・・・レオンだ、ナマエ」


あぁ、確かにレオンの方がくぐもってもあまり発音は変わらないな。

とりあえず、俺は目の前のレオンと行動を共にすることにした。今後どんな運命が待ち構えているのかなんて俺が知るわけないが・・・何だか今後楽しみだ。







ゾンビさんこんにちは








生前は女共が絶対放ってはおかなかったであろう端整な顔立ちをしたゾンビが「お゛ー、わ゛がっだ」と言って笑った。


ゾンビも笑うのか・・・と感心すると同時に、俺は俺の中で生まれそうな妙な感情をなんとか押し殺した。きっとその感情を素直に受け入れれば、待ってるのは地獄だけだ。



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