※特殊設定主
「圧巻だなぁ」
ゾンビの大行進を見ながら、僕は呑気な声を上げた。
おそらくこの街は崩壊してしまったのだろう。少し前まで明るく賑やかだった街は、今じゃ別の意味で賑やか。そこら彼処からの阿鼻叫喚。うん、やっぱり圧巻だ。
こんな光景、映画とかでしか見た事ないよ。何だか映画の撮影を見てる気分。
「それにしても・・・不思議だなぁ」
僕は“傍にいた”ゾンビの頭をぺしりっと叩いた。お、呻き声上げた。
特に面白くもなんともないけど何となく笑い、他のゾンビたちの頭もからかうように叩いていく。やっぱり返ってくるのは呻き声のみ。
この状況が可笑しいのは自分でもわかる。
何故だかゾンビは僕を襲わない。
ゾンビどころか、あの異質な化け物でさえ僕を襲ったりはしない。
最初は何かの偶然かと思ったけど、目の前のゾンビが方向転換して僕の後ろにいた人を襲い始めた辺りで、僕は理解した。
成程、僕は普通とは違うのかと。
自分が特別な人間であるという自覚が出来た。
もし仮にこれが誰かに作られた特別だとしても、特別な事には変わりない。
人々が逃げ惑う中、僕だけで悠々と歩いている姿は異質だろうと思い、路地や小道といった人の目があまり付きにくい場所を進んだ。
襲われないから怪我なんて一つも負っていない。街がこうなる前と変わらないままに、僕はいる。
生きてる人間がどんどん減って行く中、僕はどうにかしてこの場を立ち去ることを考えた。
けどまずは食事でもしようかな。お腹が減って仕方ない。
とりあえず飲食店に入ってはみたけど、あったのは原材料ばかり。食材があっても料理があまり出来ない僕には意味がなかった。
仕方なしに傍のマーケットに行ってパンや缶詰を手に入れ、飲食店の机の上に広げて食べ始める。ゾンビが僕を素通りしてくれるのは良いけど、横をすり抜ける時にほんのり感じた異臭が深いだった。
パンを食べてハムを食べて、缶ジュースを飲む。持って来た食べ物で腹は十分満たされそうだ。
「・・・驚いたな、この状況で悠長に食事出来るヤツがいるなんて」
突然、響いた声に僕はゆっくりと振り返る。
飲食店の入口、そこに立っていた人物の手にはおそらく既に何体ものゾンビを殺っているであろう銃が握られており、その銃口は僕へと向いていた。
まぁこんな状況で食事をするような人間、不審以外の何者でもないか・・・
僕は口に含んでいたパンをジュースで流し込み、にこりと笑いかけた。何事も笑顔が大事だ。
「こんにちは。随分と重装備ですね」
「やぁ。そちらは随分と軽装備だ」
バンッ!!!と男の銃が火を噴けば、僕の横に居たゾンビの頭が吹っ飛んだ。あぁ、折角のハムに血が・・・
僕はため息を吐き席を立つと、男の方へと行く。
彼は僕を警戒しているようだけど、一応は“保護すべき一般人”に入ったようで、怪我がないかを入念にチェックされた。
「周囲の状況を見れば、食事をしているような状況じゃないことぐらいわかるだろう」
少し厳しめの声で説教めいたことを言う彼に僕は肩をすくめた。
仕方ないじゃないか。ゾンビは僕を襲わないし、非常に暇なのだから。
けどまぁ、説教されるということはそれだけ心配されているということだ。そうポジティブに考えよう。
食事は中途半端だけど、取りあえずは彼の指示に従う方がよさそうだと判断した僕は、彼と共に飲食店を出た。
先程まで僕に一切無関心だったゾンビは、彼が隣にいることで一斉に襲い掛かってきた。もちろん、食べようとしてるのは彼限定っぽいけど。
そのことに彼は気付いていないようで、甲斐甲斐しくも僕を守る様にしながら銃でゾンビをしとめていく。
しばらくしてゾンビがほとんどいない静かな場所まで到着した僕等。僕は移動中ずっと気になっていたことを彼に尋ねた。
「ごめんなさい。えーっと、貴方は?」
「クリスだ。君は?」
「ナマエです。この近所のアパートメントに住んでる、学生です」
「敬語は良い。ナマエ、君はどうやって今まで無事でいたんだ。飲食店の中も外もゾンビだらけだっただろう」
彼も移動中ずっと気になっていたのだろう。真剣な目で僕を見た彼に、つい肩をすくめる。
「言って信じて貰えるかわからないけど・・・僕、ゾンビに襲われないんだ」
「・・・何?」
「ゾンビにとって、僕は眼中にないみたいで・・・どんなに目の前にいたって、僕を無視して別の人を襲う。ごめん、最初に言っておくべきだったね。そうすれば、クリスは無駄な弾を使わなくて良かったのに」
ごめんと再び謝れば、クリスは微妙な表情をした。やっぱり最初に言うべきだったかな。怒られて当然の状況だ。
飲食店から此処まで随分と迷惑をかけてしまったし、僕も彼に何か恩返しをするべきだ。と言っても、僕は戦えるほどの実力を持っちゃいないし、どちらかと言えば喧嘩も弱い方だ。使い物にならない。
「あ!良い考えがある。クリスが入りたい建物があったら言ってよ。僕が事前にチェックしてきてあげ――」
あげるから、と言おうとしたところで僕の言葉は止まる。頬がじんじんと痛い・・・どうやら、頬を叩かれたのだ。怖い顔をしたクリスによって。
何か気に障ることを言っただろうか。あ、こんな小僧に仕切られてプライドが傷ついたのかもしれない。
おろおろとする僕の両肩が、クリスによって掴まれる。
「・・・自分をそう、軽く扱うな」
「えっと・・・」
「ゾンビに襲われないから、安全とは限らない。何処に危険が潜んでいるのかわからないんだぞ」
掴む力が強くて痛い。叩かれた頬も痛いまま。
彼の言いたいことはわかる。けど、そうした方が効率的じゃないか。僕が事前にチェックし先頭に立って進めば、クリスの危険は大幅に減る。
「クリス・・・こんな状況なんだし、僕なんかの心配をしてる暇はないと思うよ。クリスの言うとおり、何処に危険が潜んでいるかわからないんだ。どんなに注意したって、危険なときは危険になるし、だったら効率的な方が良いじゃないか」
クリスが優しいのはこの短時間で十分わかった。
走る時は僕に平気かを聞いてから走るし、自分より僕を優先している。優し過ぎる。これじゃ、何時か足元を掬われてしまう。
僕の心配が通じたのか、彼は突然にかりと笑った。
「安心しろ。どんな危険が来ようとも、ナマエは俺が何があろうと全力で守ってやる」
あ、何かきゅんと来た。
男の中の男、男が惚れる男・・・それはまさしく彼の事だろう。格好良すぎる。
此処まで言われちゃ、僕も黙って身を引くしかないだろう。クリスの言うとおり、危険は何処に転がっているのかわからない。
「だから・・・俺から離れないでくれ」
次に聞こえてきた声は、何だか寂しそうな声。見ればその表情も声と同じく寂しそうだ。
・・・あ、またきゅんと来た。
今度はさっきとは別の意味。なんか・・・可愛い。
「大丈夫だよ、クリス。心配しなくても、僕はクリスを独りぼっちにしないさ」
「なっ!?べ、別にそういうことを心配してるわけじゃないぞっ」
「はいはい。クリスは意外に寂しがり屋っぽいから、僕が手でも握ってあげよう。ほら、手を出して」
冗談交じりに手を出せば、クリスがぐっと押し黙る。
それから周囲をちらちらと確認し、誰もいないことがわかるとそろそろと手を伸ばしてきた。
それをがしっと握り込めば少しクリスが震える。あ、やっぱり可愛い。
「・・・あまり大人をからかわないでくれ」
ふふふっと上機嫌な僕にクリスが眉を下げ困ったような顔をして言う。からかってない。可愛いと思ってるだけ。
「けどクリス、僕はクリスが危険な状況になったら迷わず助けに行っちゃうから、そこのところよろしくね」
悪戯っぽく笑って言えば、クリスは困ったような顔のまま「あぁ、わかった」と頷いた。
さて・・・
暇な時間にバイバイ
これからちょっと、忙しくなりそうだ。
あとがき
クリスが偽物な罠。←
まだいまいちバイオキャラの口調が分かっていないようです。偽物クリスですみません(滝汗)
主は何故かゾンビに見向きもされない体質。
もしかしたらアンブレラとかそういうのが絡んでるかもしれない。短編だからそういうのはいろいろとスルー。←
若干受けっぽいけど、これでも立派な攻めな学生主くんでした。