優しい彼は汚い世界を忘れてしまう
《モブSIDE》
○○さんは、初めて出会った時から僕に優しかった。
『へぇ。君が霊幻が言ってた子だね』
超能力が少し使えて、他人とは違うと感じていた僕が訪ねた【霊とか相談所】という場所。
相談してそのまま師匠の弟子となり、その数日後に出会った彼は笑みを浮かべながら僕を見ていた。
『よろしくね――モブちゃん』
愛想笑いもできない僕に握手を求めて、慌てて握った手をぎゅっと握り返してくれた彼は笑顔を崩さずに言う。
僕が超能力者だって知ってるのにそれについてほとんど何も言わず、僕の悩みも嫌な顔一つせずに聞いてくれた。
師匠と一緒になって、僕の欲しい言葉をくれて、時には厳しく注意をしてくれて・・・
頭も良くて格好良くて、それに加えて優しい・・・きっと誰から見たって○○さんは“完璧”な人だった。
『よぉ、モブ。○○と喋ったか』
その問いかけに「はい」と返事をした僕に、師匠は感心したような顔をした。
『良かったな、モブ。お前は――○○に覚えられたらしい』
あの時は師匠の言葉の意味がわからなかったけど、今はよくわかる。
だから・・・
「・・・ねぇ、○○さん」
「んー?」
「このお菓子、美味しいですね」
「そう?じゃ、今度また買ってくるよ」
ねぇ○○さん、部活はもう行かないの?とか、あの後学校でどうなったんですか?とか・・・そんなの、僕は聞かない。
だって、そんなことを聞いたせいで○○さんに嫌な思いをさせて、僕まで“忘れられる”のは嫌だから。
「○○さん」
「なぁに、モブちゃん」
「僕、○○さんのこと大好きです」
「そっか。僕も大好きだよ」
嬉しそうな笑みを浮かべて僕の頭を撫でてくれる○○さんは、やっぱり出会った頃と変わらず、優しかった。
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