×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



君の為の物語




朝起きる。

顔を洗ったりして身支度を整える。

自分しかいない部屋の中で朝食をとる。


鞄を手に取り学校へ。

学校へ着けば暴行され――





「ねぇ、いい加減姫乃に謝ったら?」

「ほんとッ、懲りないっすよねぇ、アンタ」

「こんなヤツが一時でも仲間だったとは、人生最大の汚点だ」

「裏切り者」


ボロボロで地面に倒れる僕を見下ろす彼等の理解不能な言葉。



はて、彼等は誰だっただろうか。

姫乃とかいう名前もあまりにうろ覚えだ。


ただ、昨日のモブちゃん達との話では、どうやら僕はソイツのせいで虐められているらしい。

姫乃姫乃・・・さぁて、どんなヤツだったろうか。




「部の規律を乱すだけでは飽き足らず、なおも醜態をさらすとはっ!」

バシンッと殴られた頬。


誰だっけ、コイツ。

たるんどるッ!とかわけのわからないこと言っているし。



正直、モブちゃん達以外どうでも良いのだ、僕にとっては。

だから僕は他人を風景と同じように見ている。


モブちゃん経由で知り合った子は滅茶苦茶覚えてるけどね。

トメちゃんとかテル君とかね。彼等、なかなか面白いと思うよ。うん。




「聞いているのかっ!!!!」

腹が蹴られて胃液が上に上がってきた。


それも構わずもう一度蹴られ、今度こそ胃液を吐き出した。

周囲の奴等が「汚い」と顔をしかめる。そうさせたのはそっちだろうに。




「可哀相にのぉ、姫乃。こんなヤツに怖がって」

「姫乃先輩を泣かせておいて、自分は平然としてるなんて・・・人として信じられないっすよ」

「たるんどるッ!今日も姫乃を不安にさせて、どういうつもりだ!」


話が全然見えないのだが、姫乃とかいうヤツは僕を怖がっているらしい。



今日も不安にさせて?さぁ、身に覚えがない。

というか、姫乃ってヤツのことが全然わからない。何かした記憶もない。

んー・・・



「何か言ったらどうだっ!!!!」

これは答えた方が良いだろうか。


流石に身体もちょっとだるくなってきたし、モブちゃん達にも心配されちゃうだろうし、これ以上の暴行は避けたいけど・・・






「・・・僕、何かしましたっけ?」






何か言えと言われたから疑問をそのまま口にすれば、僕への暴行は一気にエスカレートした。


成程。何を言っても結局は暴行ルートらしい。

一通り暴行された僕は全身ぼろぼろだった。


打撲や切り傷がじくじくと痛む。骨も少し軋む。

立つのも正直つらいのだが、彼らの中の一人が僕を無理やり立たせて「これから部活じゃ」と言って引きずる。




部活。はて、僕は何の部活に所属していただろうか。

確かモブちゃんに「○○さんは勉強もスポーツも何でもできて、凄いと思います」と褒められて、調子に乗ってその時人気だと言われてた部活に入部した気がする。


あぁ、そうだった。僕はテニス部だ。

と言う事は、彼等はチームメイトか。

今更に思い出してきた。どうやら僕は本当にモブちゃん達以外どうでも良いらしい。



だって仕方ないじゃないか。

僕にとってモブちゃん達は家族も同然なんだから。


何にも興味を示すことができなかった僕を救ってくれたのは、まぎれもなくモブちゃん達なのだから。

そんなモブちゃん達と彼等を比べるなんて、それこそ無理な話なのだから。




「ぅ、ぐ・・・」

ドサッと投げ出されたテニスコートの傍。


部員はどうやら沢山いるらしい。

彼等も僕のことを軽蔑のまなざしで見ているようで、ひしひしと肌で感じる。


姫乃というヤツは相当なる影響者らしい。

その時――





「皆ぁー、部活始めようよ〜」

間延びした、何処か不快感を覚える声が聴こえた。




「きゃっ!?○○、くん・・・」

「大丈夫じゃよ、姫乃」

「俺達が懲らしめてやったからな!」


何だあれ。

声と同じく不快感を覚える臭いがする。これは香水だろうか。


顔には一体どれぐらい塗りたくったのかわからない程の化粧。

此処にいるということはマネージャーなのかもしれないが、それに不釣り合いな綺麗にデコレーションされた爪。

というか、マネージャーなのにジャージを着用していないのはどういうことか。どう見てもあっちは制服姿。しかも革靴。

制服もかなり改造されていて、少し動けば下着が見えるであろう長さのスカートは、明らかに校則違反だと思われる。





この女が“姫乃”?

意味がわからない。


彼等はこんなケバケバしい女を守っているのか?



僕だったら御免だ。

何が悲しくてあんなのを守らなければならないのか。


こんな女がこれほどの影響力を持っているなんて、本当に信じがたい。





「み、皆ぁっ、○○君は悪くないよっ、私が・・・私が不細工だからっ」

「姫乃!何でそんなこと言うんだよ!」

「姫乃さんは悪くないですよ。それに、不細工なんかじゃないです」

「こんなに可愛いんだから、不細工なんてありえねぇよ!」



何やら勝手に騒いでいる。

地面に転がっている僕はと言えば、ぼんやりと地面を歩く蟻を見つめていた。あぁ、今日も蟻さんは働き者だなぁー・・・





「おい、姫乃に謝れよ」


髪を掴まれ、無理やり顔を上げさせられる。

頭皮が非常に痛い。禿たらどうしてくれるのだろう。


というより、僕が彼女に謝る?





「・・・何故?」

だって僕、知らないし。





素直にそう言うと、顔を思いっきり殴られた。



「い、いいよぉっ、姫乃、全然平気だからぁ・・・」

テニス部の部員に守られながら言うソイツ。



不思議だ。

何故誰一人として気付かないのだろう。

彼等に守られたソイツが・・・





あまりにも楽しそうな顔で僕を見ていることを。





ニヤニヤとした笑みが抑えられないと言った表情はお世辞にも可愛いとは言えない。どちらかと言えば不細工。



「僕、何もしてないので、謝る理由がわかりません」

「いい加減にしろよ、手前!!!!!!」


それから再び、まるで馬鹿の一つ覚えのように繰り返される暴行。意味不明すぎて、僕はただぼんやりとそれを受けていた。

もちろん考えているのは「あぁ、モブちゃん達に心配されちゃう」ということで・・・


考えるだけで抵抗はしない。だって抵抗は無駄だとすぐに理解したから。

生憎、僕はモブちゃんのように超能力を持っているわけでもないしね。





「姫乃の痛みはこんなものじゃなかったんだぞ!」

「姫乃先輩を泣かすなんて、サイテーだな手前」

「こんなに優しい姫乃を悲しませるなんて・・・!」

「姫乃を苦しめ、俺達を裏切るなんてッ」


姫乃姫乃姫乃って・・・

どれだけ彼等は彼女が大事なのだろう。馬鹿みたいに名前を連呼して。




「・・・・・・」

嗚呼、これは僕の物語ではないのだろう。


彼女が己の欲を吐き出すための物語。

愚かな奴等が自らの行いを正当化する物語。


その中に僕の意思など関係なく、ただ僕は大人しく暴行される人形でなければ、彼らの中の物語は成立しないのだろう。

僕が何もしないから彼らの物語はこうやって綺麗にまとまる。







「――これはお前への制裁だ」

「・・・・・・」







そうだ。

帰りにお菓子でも買って帰ろう。

モブちゃんにプレゼントだ。


・・・霊幻にも一応は買って行こう。



(僕の為の物語ではない)







戻る