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皮肉なお口と本音のお話




廊下を歩けば皆がこちらをじろじろと見てくる。

教室に入ろうと扉を開けば黒板消しが落ちてきた。

自分の席に近づくと僕の机は落書きだらけ。

机の下には僕の教科書だったものがカッターナイフで滅茶苦茶にされた状態で散乱していた。

トイレに入ると上からホースで水をかけられた。

階段を降りていると背後から突き落とされた。

放課後校舎裏に呼び出されてぼっこぼこにされた。



――以上が、本日僕に起こった出来事の一部です。



「・・・“一部”っていうのがちょっと引っかかるが、報告ご苦労」

「いえいえ」


ソファに座りながら首を振る僕に、モブちゃんがお茶を持ってきてくれる。

ありがとモブちゃん、と言うとモブちゃんは「いえ」と無表情のまま首を振る。うん、今日も良い子。




「確かにお前が最近怪我が多いなぁーというのは、気になってはいた」

「あ、そうなんですか」


ズズズッとお茶を飲んでいる僕にモブちゃんが「お茶菓子です」と羊羹の載ったお皿をテーブルに置く。流石はモブちゃん。


あ、けど聞き手の方である右手は現在包帯でぐるぐる巻きだ。食べれない。

そう思っていると羊羹がふわっと浮いて僕の口に勝手に入った。



「ありがとー、モブちゃん」

「いえ」


「モブちゃんの超能力、ほんと便利ー」

もぐもぐと口を動かす僕に霊幻が「右手も負傷中だといろいろ不便だなぁー」と呟く。




「御祓いグラフィック、お前に手伝わせようと思ってたのに」

「霊幻、人の羊羹取らないでください」

「もとは俺の金で買ったんだから問題ない」


近づいてきて僕の羊羹を手でひょいっぱく!と食べた彼は僕の正面のソファにドカッと腰かける。

それと同時に、モブちゃんは僕の隣に腰かけた。








「で、原因は何なんだ」


「さぁ。ただ、僕を攻撃してくる彼等は毎度毎度同じことを言うんですよ」

「ほぉ?何と」




「『――姫乃ちゃんの苦しみを味わえ』と」




「誰だそれ」

「さぁ」


僕が知らない人間を霊幻、ましてやモブちゃんが知るはずもなく「んー」と三人で唸った。

少し前から続くこの暴行が大変じゃないかと聞かれればもちろん大変だが、特に気にする必要もない気がする。


まぁ、聞き手を負傷してしまったことは痛い。モブちゃんがいないと羊羹もまともに食えない。これじゃ霊幻にどんどん羊羹を横取りされる。





「さぁーって、僕は何で暴行されているのだろう」


「あの・・・」

「んー?どうした、モブちゃん」

今までほとんど沈黙を守っていたモブちゃんが口を開いた。




「○○さん・・・その“姫乃”って人のせいで――虐められているんじゃないですか?しかもかなり過激に」

「「え?」」


霊幻と同時に声を上げる僕。

虐められてる?誰が?僕?




「大変だ霊幻。どうやら僕は虐められているらしい」

「よし、それは悪霊の仕業だ」

「なんてこった」



両者真顔でそう言っていると、モブちゃんがくいくいっと僕の服の裾を引っ張ってきた。




「○○さん・・・怪我の具合はどうですか」


「モブちゃんの優しさで傷が一つ完治した気がするよ」

「お前のモブ愛、どうにかならねぇか」


「霊幻のことも一応は好きですよ。一応は」

「一応を二度も言うな。泣くぞ」


「泣くんですか?」

「いや、泣かねぇけど」



くだらないことを言い合いつつ、僕は小さくため息を吐く。


「僕を虐めるなんて余程お暇な人たちなんだろうね。そんな暇な人いないと思ってたから、自分が虐められていることにすら気づかなかったよ」

「皮肉全開だなお前。けど、ほんとに怪我大丈夫か?」


人の羊羹をぱくつきながら言う霊幻。

心配そうにしている風ではないが、彼なりに心配でもしているのかも。





「階段から突き落とされた程度だから大丈夫」


「事務所入ってきての第一声が『打ち所が悪ければ死んでたって初めてリアルの医者に言われた』だった癖にか」

「階段から転げ落ちた癖に右手首の捻挫程度で済んだ自分に感動してたせいだと思いますよ」



学校の保健室は何故だか追い出されてしまうから学校終わった後に病院に行った。

そしたら医者から思いがけない台詞を言われて、ついつい感動してしまったわけだ。





「けどまぁ、お前・・・辛くなったら言えよ」

「・・・僕にも、言ってください。○○さん」


二人の思いがけない台詞に、僕はぽかんとする。



じんわりと胸に流れてくるのはなんだろう。

僕の顔には自然と笑みが浮かんだ。




「もちろん。霊幻にもモブちゃんにも十二分に頼らせてもらうよ。何かあったら、その悪霊ってヤツを祓って欲しいし」

冗談っぽく言えば、霊幻がふっと笑う。




「馬鹿野郎・・・俺がいればそんな悪霊、ちょちょいのちょいだ」

「ちょちょいのちょいって、何だか一気にオッサンっぽい言い回しですよ」


「ちょっ!そこは空気読んで感動しとけ!モブみたいになるぞ!」



「モブちゃんは空気読めないけど良い子ですよ」

僕は隣にあったモブちゃんの頭をぐりぐりと撫でる。


「まぁ、良いヤツなのは認めよう」

それを真似してか、霊幻もモブちゃんの頭をぐりぐりと撫でた。





「ぁの・・・お二人とも、僕の頭を撫でるのは止めて貰えますか・・・」


ほんのちょっと照れたような顔をしているモブちゃんに、僕は「ははっ、可愛い」と笑った。







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