がらがらしたこえ
海賊船に乗っていれば、時に敵船に出会うことだってある。
最初に敵船に気付いたのはシャチで、大きな声で「敵船だぁー!!!!」と他のクルーたちに告げた。
他のクルー達が敵に備えて慌ただしく動く中、○○は変わらず甲板の上でキャンバスとだけ向き合っていた。
まさか敵船の存在に気付いていないわけではないだろう。
きっと○○は・・・
美しい絵をキャンバスに描けるなら、死をも厭わないのだろう。
けれど俺はそれを認めない。
「ROOM」
○○と樽をシャンブルズで入れ替えて、安全な場所へ。
敵はそこまで強くない。
敵船が俺の船まで乗り込んできたが、それを他のクルー達が片付ける。
「○○――」
○○は動かない。
敵がそこまで強くないと言っても、こちらが完全に無傷でいられるわけではない。
ところどころで怪我人が出ているのに、○○は興味も持たない。
俺があれだけ声をかけても反応してくれなかったのに、もしも他人が怪我をしたから反応するというのだったら、それはそれで嫌だが・・・
絵を描く○○は美しい。
こんな戦いの中で、俺はふいに手を伸ばしたくなった。
俺はあれが欲しいんだ。欲しくてたまらないんだ。
何故なら彼は、○○は、綺麗で・・・
綺麗なんだ。綺麗で綺麗で――
「船長――ッ!!!!!」
ペンギンの鋭い声。
俺はハッとして刀を構えたが・・・
ドンッ
「ぅッ・・・!」
俺が能力者だと知ってか、相手は俺を直接攻撃せず、そのまま船の外・・・海へと押し出した。
重力に任せて海へと急降下していく身体。
ドボンッと水面に激しい音を立てて俺は海へと落ちた。
全身の力が急激に抜け落ち、海に嫌われたこの身体はどんどん落ちていく。
○○。
○○はきっと、俺の事なんか見向きもしてない。
俺が海に沈もうとも、絵を描き続けてるはずだ。
だったらそれでも良い。
それなら、俺はそのキャンバスへと向かう綺麗な後ろ姿を脳裏に焼き付けよう。
○○○○○○――
ぼんやりする頭で、甲板にいるはずの○○を見ようとする。
あぁ、驚いた。
○○がこっちを見てる。俺を真っ直ぐ見て、何故だか甲板から身を乗り出して、それで・・・
普段ほとんど開かれることのない口が・・・
「ロー・・・!」
掠れた、少しがらがらした声で俺の名を呼んだ。
あぁ・・・俺、今なら死んでも良い。
がらがらした こえ
その声は俺にとって、どんな声よりも美しかった。
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