行動で示せ!
「ぃってぇー・・・」
それは突然だった。
朝、何時も通り学校に行って何時も通り授業を受けて・・・
コンビニでアイスでも買って、燐と食べようかと寮の外にでて、歩いて・・・
そしたら突然、指にピリッとした痛み。
小さなキズのはずなのに、それはじわじわと痛くて・・・
「何か、変なもん見得るし・・・」
外って、こんなに虫が飛び回っていただろうか。
いや、よくよく見れば虫じゃない気がする。
「俺以外、見えてないのか?」
周囲を見渡して確認。
誰も、俺みたいに周囲の虫を払おうとしてるようすはない。
・・・まるで俺が異常者みたいだな。
俺は早々にその黒いのを気にするのを止めて、さっさと燐のところに行こうと歩き出す。
燐のいる寮。燐がいるであろう窓に向かって「りーん!アイス買ってきたから、一緒に食おうー!」と声を上げる。
すぐにガチャッと開いた窓から燐が顔を覗かせ「○○!」と嬉しそうに笑ってくれる。うん、そんな顔見たら、俺も嬉しい。
「上がってこいよ!」
「弟君はー?」
窓に向かって声を上げる。
「雪男は今いねぇーんだ!」
「そっかー」
じゃ、遠慮なく。と扉を開く。
ダダダダダッという音で、燐がこっちに駆け下りてきているのが分って、つい笑ってしまう。
あれ?
「よぉ、○○――」
「なぁ燐。あそこにいんの・・・何?」
「ぇ・・・」
燐が驚いた表情で俺の視線の方向を見て、その表情をどんどん青くしていって・・・
「り、燐?」
「どっ、どうして見得るんだよ!お前、何で・・・」
「燐、落ち着けって・・・」
慌てて手で止めようとすれば、燐の視線は俺の指の怪我に向く。
「これ・・・」
「ん?あぁ、外のコンビニに行く途中に何時の間にか切ってたんだ。その後から、変な黒い虫みたいなの見えて、ちょっと困ってたんだ。え?燐も見得るの?」
「ぉ、おぅ・・・」
何でそんなに悲しそうな顔するんだ?
「じゃぁ、お揃いだな」
俺はニッと笑う。
燐が眼を見開いた。
「ぁ、あのさっ、○○。こ、この機会だから言うけど・・・」
「ぁー・・・先にアイス食わない?」
「ぇっ、ぁ、おぅ」
今にも深刻な話をしそうな顔をする燐の頭を撫でて、俺は笑う。
燐の部屋に行って、ベッドの上に二人並んで腰掛ける。
「ふー。美味しいなぁ、アイス」
「・・・ん」
燐の元気が無い。俺は苦笑を浮かべて、食べ終わったアイスの棒をコンビニ袋に片付ける。
同じく食べ終わった燐が、ジッと斜め下を見詰めている。
「燐。ゆっくりで良いから」
「・・・俺、ずっとその『ゆっくりで良いから』に甘えてたんだ。だから俺ッ」
苦しげな表情をする燐に、俺は「燐・・・」と声を出す。
「○○が見たのは・・・ぇと、俺は上手く説明できねぇけど・・・――悪魔なんだ」
「・・・悪魔?」
きょとんとしそうになったが、燐があまりに真剣なのを感じて、キュッと表情を引き締める。
「悪魔が見得るようになるには・・・その、魔障ってのを、受けなくちゃならねぇんだ。それが・・・」
「この指の怪我?」
「そ、そうなんだ」
コクコクッと頷く燐に「そっか」と笑う。
「そ、それで、俺・・・塾に通ってるの、知ってるだろ?」
「ん?あぁ。そうだったね」
「そのっ、塾がさ・・・祓魔師っていうのになるためので・・・」
燐の手が震えているのに気付く。
燐も、俺に信じてもらえないかもしれないって、不安なのだろう。
まぁ・・・まるで物語の世界だ。とかちょっと思ってしまったが、今にも泣き出してしまいそうな燐を見てると、それも冗談ではないのだろう。
俺だって常識がある。こんな話、ちょっと信じがたい。
けど・・・
「燐の話だったら、信じるよ」
「ぁ、うっ・・・○○っ」
燐がついに泣き出した。
俺はギューッと燐を抱き締める。
「大丈夫。大丈夫だから」
「ゥッ、ぇぐ・・・ヒックッ・・・それっ、それだけじゃ、なくてっ」
「燐?」
「・・・これ」
燐が自分の服の下から、何かを取り出・・・
「ぇ・・・」
尻尾?
俺の目の前には、元気なさげに揺れる、不思議な尻尾があった。
「俺ッ、悪魔のっ・・・その、サタンってヤツの・・・」
そこまで言われれば、なんとなくわかる。
燐が俺に言うのを躊躇していた理由は、十中八九これなのだろう。
「ごめっ、俺・・・怖くてっ、そのっ・・・」
燐が泣きながら俺の顔を見る。
俺はニコッと笑った。
燐が「ぇ・・・」と声を上げる。
「これで全部?」
「ぁ、ぇと・・・ほ、ほとんど・・・」
そっか。と笑い、燐の頭を優しく撫でた。
燐がピクッと振るえ、不安そうに俺を見ている。
「こ、怖くっ、ねぇーのかよっ!ぉ、俺ッ、こんな・・・」
その言葉に、つい苦笑を浮かべてしまう。
「燐が俺のことを滅茶苦茶愛してくれてるのは知ってるって、前も言ったでしょ?」
俺の告白を受け入れてくれた燐。
俺がお弁当を褒めると照れたように笑う燐。
俺に隠し事をしていることを酷く悩んでくれた燐。
「こんなに俺を愛してくれる燐を、俺が怖がるわけがないだろ?」
ぎゅーっと抱き締めて笑う。
「愛してるよ、燐」
「ッ、ヒックッ・・・○○っ」
「ね?俺は燐の全部を受け入れられる」
「んっ、○○っ、○○っ・・・」
燐を抱きしめる俺の腕に、燐の尻尾が軽く絡んでくる。
あ、可愛い・・・
「燐のこと、もっと知れてよかった。有難う、燐」
「○○っ、俺・・・○○っ!」
燐が大きな声を上げて泣く。
俺は燐が泣き止むまでずっと「愛してるよ、燐」と言いながら燐の頭を撫でていた。
行動で示せ!
俺は燐が大好きです。
END
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