伝言ゲーム
「貴方が○○さんですか」
「ぇ・・・」
突然声をかけられてみれば、そこにいるのは燐の弟の・・・たしか雪男って子だ。
燐の弟って言っても双子らしいから、同級生だ。
「兄がお世話になってます」
「ぁ、こちらこそ」
丁寧に挨拶してくる弟君に慌てて頭を下げる。
燐から俺の話は聞いてるらしい。
どういう風に聞いてるんだろうか。
友達?恋人?
「何か・・・兄がご迷惑をかけてませんか?」
少し心配そうに尋ねてくる弟君に俺は軽く首をかしげる。
「ううん。全然大丈夫。それどころか、俺がお世話になりっぱなしで」
「お世話になりっぱなし・・・?」
きょとんとした弟君。
あ。その表情はちょっと燐に似てるかも。一瞬だけだけど。
「そうそう。お弁当とか、いろいろ」
「あぁ・・・あのお弁当は、貴方にだったんですか」
納得したような顔をする弟君に、俺は「そうそう」と頷く。
「何時も燐が用意してくれる美味い飯に感謝してるんだ」
ニッと笑いながら言えば、弟君はクスクスッと笑った。
燐は豪快な笑い方だから、こういう笑い方は久々に見る気がする。
燐曰く、弟はモテるらしいから、この笑い方もモテる秘訣なのだろう。
まぁ、俺は女の子にモテたいわけじゃないから、その秘訣を伝授してもらう必要も無い。燐がいるし。
「兄さんが迷惑をかけることがあるかもしれませんけど、これからも宜しくお願いします」
弟君は、本当に燐を大切に思っているらしい。
俺はつい顔が綻ぶのを感じた。
燐は良い子だけど、弟君も良い子だ。
それに・・・
「燐は優しい子だ。とっても」
そういいながら小さく微笑めば、弟君は少し眼を見開く・・・
そして小さく笑った。
「兄さんの言うとおり・・・優しい人だ」
小さく呟いた弟君に、俺は軽く首をかしげる。
「燐、俺のことどんな風に話してるんだ?」
「『今日は○○が褒めてくれた』とか『○○はとっても良いヤツなんだ!』とか・・・兎に角、○○さんを褒める言葉ばかり言ってます」
「な、なんだろソレ・・・めちゃくちゃ照れる」
ついつい弟君から目を逸らし頬を掻く。
それを見て弟君はクスクスッと笑った。
「けど、この間は兄さん・・・『○○に嫌われたかもしれない』って泣きながら帰ってきて・・・」
「・・・そう」
俺は苦笑を浮かべる。
「俺が燐を嫌うわけないのになぁ・・・」
燐は俺にとって、大切な子だから。
それに――
「俺は、燐の全てを受け入れるつもりだから」
笑顔で、燐本人に言ったことと同じことを言う。
眼を見開いた弟君は「全てを・・・」と呟く。
笑顔で頷く俺。
「あぁ。“全て”だ」
燐と一緒に居られることが幸せだから、俺は燐の笑顔に救われてるから・・・
俺は、燐の全てを受け入れたいんだ。
燐の全てを・・・
「・・・良かった」
「ん?」
「兄さんが好きになった人が・・・貴方で良かった」
その言葉に、俺は軽く「ぁー・・・」と声を上げる。
「・・・なんだ。知ってたのか」
「兄さんは分りやすいから、すぐにわかります」
小さく笑った弟君の頭をぐしゃぐしゃっと撫でる。
わっ!と声を上げた弟君にニッと笑いかけた。
「良い子だな」
燐にしても、この弟君にしても、本当に良い子だ。
「・・・・・・」
弟君は何処か恥ずかしそうに顔を逸らした。
あぁ、そうだ。
「燐に伝えて。俺は・・・燐の全てを愛してみせるって」
「クスクスッ。それ、直接言ってあげてください」
「もちろん言うさ。けど、突然言ったら・・・恥ずかしさで気絶しちゃうかもしれないだろ?燐のヤツ」
きっと、顔を真っ赤にして、口をあわあわと動かして・・・
それを思うと、つい笑ってしまう。
「兄を・・・宜しくお願いします」
「もちろん」
こちらこそ、よろしくね。・・・雪男君。
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