置き去りは基本だろ
俺は極度の怖がりだ。
幽霊とか怪物とか・・・その手の話が大ッ嫌いな男である。
そんな俺はこの夏・・・
不運なことに、肝試しに参加することとなった。
首謀者は我が愛しい恋人であるのだが・・・俺とは対照的に、怖いものとかオカルトとかが大好きな子で、俺は毎度毎度悩まされている。
「○○!遅いぞ!」
ニッと明るい笑みを浮かべながら俺に手を振っている恋人――恭也に、俺は力なく笑いかける。
家から此処まで来る間にも、怖い想いをしてきたというのに!!!!!!
俺はこれから本当に肝試しに参加しなくてはならないのか!?マジで!?本気で!?
「ネットで、この近くに良い肝試しスポットがあるって教えてもらったんだ」
嬉しそうな顔で語る恋人の前で、今更帰りたいなどとはいえない。
SDKというハンドルネームでその手の話を探しては、自分で現地へ行こうとする行動力の高さは認めよう。
しかしだ!!!!
何故に俺を毎回のように誘うんだ!!!!!!勘弁してくれよ!!!!!!!
恋人のお誘いなんて、断れるわけがないじゃないか!!!!!!!!!!!!!!!!
「此処だ、○○。すっげぇ、それっぽいだろ?」
「ぁ・・・あぁ」
背中には既に汗が伝っている。
目の前にあるのは、いかにも!!!って感じの廃トンネル。
「何でも、長い髪をした女の人の幽霊が追いかけてくるらしい」
怖いことを笑顔で言っている恭也の神経を疑う。ぃや・・・一応、愛しい恋人のはずなのだけれども。
「さっ。入ろう」
「ぉ、おぅ・・・」
隣を歩く恭也に続くように、その真っ暗なトンネルに入った。
懐中電灯は恭也が持っている。
「ッ・・・!!!!!!」
「どうしたんだ?○○」
「ぃぃいいいいいいっ、いや!!!!何でもない!!!!!!」
「?そっか」
トンネルに入った瞬間、俺の身体は硬直した。
こちらを見ている濁った目。
だらんと頭は下を向いていて、髪の毛は異常な程ながく・・・
恭也の話していた、そのまんまの人物がいた。
恭也には見えてない。見えてるのは俺だけ。
・・・だから嫌だったんだ!!!!!!!!
「・・・・・・」
俺が幽霊や怪物を怖がるのには、ちゃんと理由がある。
理由は簡単だ。
俺が・・・――“視える”人間だからだ!!!!!!!!!!
『・・・・・・――・・・――』
ほらぁぁぁぁああッ!!!!!!!幽霊、何かをブツブツッ言い始めてるよ!?
まだこっちには気づいて無いっぽいけど、時間の問題だよ!?!!!!?!?!??!?
「・・・ッ、ぅ」
「○○?」
「な、何でもないってッ」
不思議そうな顔をしている恭也と、思いっきり首を振る俺。
嗚呼ッ。また、このパターンだ!!!!!!
凄いことに、恭也の探し当ててくるオカルト話は全て本物。オールヒットだ!!!!!
そのせいで、俺がどれだけ怖い想いをしたか!!!!!!!
恭也が怨霊とかに憑かれないように努力するのも俺の仕事!!!!!!あぁ、怖い!!!!!!!!
一方の恭也には視えてないらしく「此処、雰囲気凄いな!」と言う程度だ。・・・勘弁してくれよ!!!!!!!!
カツンッ、カツンッ・・・
俺と恭也の歩く音。
大丈夫。女と目を合わせなければ良いんだ・・・
フゥッ
突然だ。
まるで、蝋燭の炎を吹き消すように、懐中電灯の光が・・・消えた。
「ぇ?あれ・・・ぉっかしいなぁ・・・」
恭也の不思議がる声が聞こえる。
「ッ・・・!!!!!!!!」
俺は大きく眼を見開く。
真っ暗なトンネルの中で・・・ぼんやりと青白く浮ぶ女が・・・
ニタァッと笑いながらこっちに迫ってこようとしているのを!!!!!!!!!!!
バレた!!!!!俺が視えていることがバレた!!!!!!!!
来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来るッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「恭也ッ・・・」
恐怖のあまり、隣の恭也の手でも握ろうかと思って横へ手を伸ばす。
すかっと手は空振り。
ん?・・・避けられた?
不審に思って隣を見る。
「ぇ・・・いない・・・?」
ハッとして、暗闇に慣れてきた目で辺りを見渡せば、恭也がいない。
「きょ、恭也くぅーん・・・?」
タラタラッと汗が流れる。
は、はぐれた・・・?
「そ、そんなッ・・・ぅそだろ!?」
全身に広がる絶望。まさに死亡フラグ!!!!!!
すぐ傍に女が駆け寄ってこようとする。
「ぅわぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!!」
俺は絶叫しながら走る。
女がめちゃくちゃ早い!!!!!!
けど、捕まるわけにはいかない!!!!!!絶対に殺されるか憑かれるかするだろうから!!!!!!!!!!
「ぅおぉぉぉおおおおッ・・・!!!!!!!」
全力疾走。
運動会でも出したことないぞ。こんなスピード。
俺と幽霊のリアル鬼ごっこ(←)がスタートした。
しかし、ありがたいことに・・・トンネルを出た瞬間、女は消えた。
せ、セーフ・・・。
「ゼェッ、ハァッ・・・」
肩で息をしながら下を向く俺は、きっと情け無いだろうが・・・いたしかたあるまい!!!!!!怖かったのだから!!!!!!!
もうやだ。帰りたい。恭也と早く帰りたい!!!!!!!!
「おつかれ、○○」
ビクゥゥウウウッ
突然声をかけられた俺は、ゆっくりと警戒しながら顔を上げた。
「・・・恭也!?」
そこには涼しげな顔をしている俺の恋人が・・・
な、何故だ。何故・・・
そこで俺はハッとする。
「も、もしかして・・・わざと、俺を置き去りにしたのか・・・?」
恐る恐る尋ねる俺。
一時の間があった。
「置き去りは基本だろ」
爽やかな笑顔でそういったコイツの頭をついつい殴ってしまった俺は、悪くないと思う。絶対に。
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